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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
9/158

1-8

ドアル解放軍と武器取引をしていると噂のギャングの密漁船に潜入!


夕日が沈み、外はあっという間に真っ暗になった。


エンディとカインは物陰に隠れ、密漁船の様子を伺っていた。

船上から魚網を引き上げている人影が見えた。


「よし、あそこまで泳いでこっそり忍び込もう!」


「待てよ、よく見ろ」


カインに言われた通り船の近くに目をやると、海面に人影が浮かんでいるのがうっすら見えた。


どうやら魚網を持って素潜りをしいる乗組員がいるようだ。


もしこのまま泳いで船に近づいたら、間違いなく見つかっていた。

エンディは早まったことをしなくて良かったと安堵した。


「このギャング共、魔法族じゃなさそうだな」

体を張って密猟に励むギャング達を見たカインは、そう確信した。


一方でエンディは、一つ疑問に思う点があった。

それは、この島に生息する、数多くの凶暴な野生動物に関する事だ。


なぜ、森林をずかずかと歩き回る自分達に襲いかかってくる動物が1匹もいないのだろう。

それどころか、動物たちが、まるで自分達を意図的に避けている様にすら感じるほどだった。


四面楚歌の死の森で、2人の周りだけ不気味な静寂に包まれていたのだ。


「なあカイン、ここの動物たちって…」


恐る恐るカインの顔を覗き込み、エンディは尋ねた。


「…ああ、あいつら人間が怖いんじゃねえか?」


クスッと微笑みながらそう言ったカインを見て、エンディは少しゾッとした。


カインは間違いなく、なんらかの方法でこの獰猛な獣たちを手懐けていた。


カインからはミステリアスなオーラが漂っていた。


こちらから話しかけない限り、滅多に自分から喋らない程に無口で無愛想な男だ。


心を閉ざし、世の中を斜めから見ている感じもする。


エンディは、なぜラーミア救出にカインを誘ったのか、自分でもわからなかった。


しかし、それは"必然"だったのだと、後に思うようになるとは、この時はまだ知る由もなかった。


「なんか不思議だな。カインとはガキの頃から友達だったような気がする!」


この何気ないエンディの発言に、カインは一瞬動揺しそうになったが、必死に平静を保った。


「何言ってんだか。それよりダイバーたちが船に戻ったぞ。忍び込むなら今がチャンスだ。本当に行くんだな?もう引き返せないぞ」


「当たり前だろ。それより、おれから誘っておいてこんなこと聞くのおかしいけど、どうして着いてきてくれるんだ?」


「後戻りできない状況を作りたかったのかもな」


エンディの問いかけられると、カインは少し沈黙した後、真顔で意味深な事を言った。


「??どういう意味だ??」


「別に深い意味はない。それより、よくよく考えてみりゃ別にこっそり忍び込む必要ねえよな。堂々と乗り込んでよ、見せしめに何人か殺して操舵手脅せば、すぐにそのラーミアって女のとこにたどり着けるんじゃねえか?」


カインがあまりにも恐ろしいことをサラッと言ってのけたため、エンディは絶句した。


「何言ってんだよお前!そんな酷え事できるわけないだろ!いくらあいつらが悪い奴らでも、簡単に奪っていい命なんてこの世に一つもないんだぞ!」

エンディがどこか説教じみた口調でそう言っても、カインは何一つ響いていない様子だった。


「いくらでもあるさ。世の中残念なくらい、汚い人間ばかりだ。死ぬべき奴らはごまんといる」


「じゃあ、ラーミア助けたら俺と一緒に散歩しよう!」


「は?何言ってやがる?」


「お前はこんな所に篭ってるからいけないんだ。俺もずっと独りぼっちで辛かったけど、一歩外に出れば優しい人ばっかだったよ。世の中捨てたもんじゃないってことをお前に教えてやる!」


「そうか、それは楽しみだな」

カインは鼻で笑った。


「だけど悪い部分があるってのも確かだよな。そんな世の中を変えてやろうぜ!お前も協力してくれ!」


目をキラキラと輝かせながら笑顔で理想を語るエンディは、カインにはあまりにも眩しく見えた。そのあまりの眩しさに目を逸らし、切ない気持ちになった。


「ああ、分かった分かった。早くしないと船がいっちまう、さっさと乗り込もうぜ」


船はイカリをあげ、出港の準備をしていた。

インダス艦の5分の1ほどの大きさだったが、頑丈そうな鉄甲船だった。


2人は闇夜に紛れ、静かに海中に潜り、あっという間に船に船の近くに到達した。


エンディはどうしていいか分からず、とりあえず動き出した船にしがみついた。


カインはゆっくり海面から顔を出すと、小窓から生ゴミを捨てている乗組員を見かけた。


船にしがみつくエンディを手招きし、小窓の近くに呼び出した。


「多分あの部屋はゴミ捨て場だ。とりあえずあそこから入ってみねえか?」


「なんだよカイン、ノリノリじゃん!ゴミ捨て場なら人もあんま寄り付かなそうだし、とりあえず行ってみるか!」


「でけえ声出すなよ。こっそり忍び込もうって言ったのはお前だろ?」


「ごめんごめん」


カインに怒られたエンディは、少ししょぼくれている様子だった。


2人は物音を立てないように細心の注意を払いながら船体を登った。

運の良いことにその小窓は鍵がかかっておらず、エンディとカインの体格ならなんとか侵入できる大きさだった。


2人は中に入ると、強烈な異臭に愕然とした。

どうやらこの部屋は、カインの言った通り、本当にゴミ捨て場だった。


さっき乗組員が海にゴミを捨てていたからか、部屋の広さに対してゴミの量はそこまで多くなかったが、部屋の中は凄まじく強烈な匂いがこもっていた。


「おい、こんな部屋早く出ようぜ。具合悪くなってきた」エンディは鼻をつまみながら提案をした。


「ああ、そうだな。初めてお前の意見に賛成したよ」

同じく会話も、鼻をつまみながら言った。


2人は部屋のドアをゆっくりと開けた。

シーンとした真っ暗な廊下を、忍び足で歩く。




一方その頃、ラーミアがミルドニアへ連行された情報を掴んだナカタム王国の魔法戦士達は、戦闘態勢を整えつつ、大規模な捜索活動を行っていた。


バダリューダ号。それは、ナカタム王国が保有する巨大な魔法戦艦だ。


魔法を動力源に稼働する水陸両用の優れもので、空を飛ぶ事もできる。

しかし巨大な戦艦を宙に浮かせて飛ばすには、それなりの魔法力が必要で、乗組員が疲労困憊するため、空中飛行は滅多にしない。


有事の際は、魔法力で砲弾を創り出しては撃ち、また、敵軍からの攻撃も迎撃できる最高の魔法兵器だ。


この魔法戦艦は今、ラーミアを救出し、ドアル解放軍を殲滅すべくミルドニアへ向かい、大海原を全速前身で走っていた。


王室近衛聖堂騎士団員30名、保安官20名、総勢50名の屈強な魔法戦士が駆り出されていた。


「確かに船を手配しろとは言ったが、まさかバダリューダ号とはな…それに騎士団の人間もこんなに乗せて…」


「我々だけではどうにもならないから騎士団にも協力を要請しようと仰ったのは隊長でしょ」


「クマシス、お前本当はできる奴なんだな。見直したぞ」


サイゾーとクマシスが甲板でコーヒーを飲みながら会話をしていた。


甲板にはこの2人の他に、10名の騎士団員が見回りをしていた。


「大袈裟なくらい厳重な警備ですね」


「確かにな。それにしてもラーミアって小娘は一体何者なんだ?個人的には一緒に拐われたエンディって小僧も気になるな。インダス艦の戦闘員に1人で立ち向かうって相当な馬鹿だぞ」


「御言葉ですが隊長!」


「なんだ?」


「いつの時代も…若者ってのは馬鹿な生き物なんですよ」


満点の星空を見上げながらクマシスは言った。

サイゾーはクマシスの頭を軽く小突いた。


「なーに言ってんだよ、偉そうに」


「痛えなクソ野郎!こっちは早く寝たいのにお前のつまらない話に付き合ってやってるんだぞ?」


「お前、次心の声を声に出したら海に突き落とすぞ?」


バダリューダ号は暗闇の海を駆け抜ける。



一方、ミルドニアにいるラーミアは塔の高層階の一室に隔離されていた。


部屋にはシングルベッドと小さなテーブルが置いてあった。


外で見張っている軍人が食事を持って、ノックもせずに中へ入ってきた。


「朝昼晩と、1日3食メシを持ってくる。しっかり食えよ」


「はい、ありがとうございます」


ラーミアが小声でそう言うと、軍人は晩ごはんが盛り付けられた皿をテーブルに置いて部屋を出て行った。

いちごジャムが塗られた食パン一枚と、ほとんど野菜の入っていない、味の薄いミネストローネだった。


とても食事など喉に通らないほど精神的にきつくなっているラーミアは、ベッドに座ったままだった。


「エンディ、生きてるよね?」


ラーミアは独り言を呟いた後、立ち上がって窓の前へと歩き出し、切ない表情で月を探した。



一方、ギャングの密漁船に潜入したエンディとカインは、息を潜めながら船内を徘徊していた。


ゴミ捨て場の3つ隣の部屋に入ると、そこはキッチンだった。流しには洗い物の皿が山積みになっていて、とても不衛生だった。


冷蔵庫を物色すると食料がまあまあ入っていた。2人はお腹が減っていたのか、ソーセージとハムを頬張り、少し高そうなぶどうジュースをガブガブ飲みながら作戦会議を始めた。


「それにしても静かだな。まさかおれ達既にバレてて、あいつら様子を伺ってるんじゃ?てかこのハムうまっ!」エンディは緊張感のカケラも無かった。


「いや、それはない。おれが見たとこ相手は5人。密漁のときはいつも少数で来てるからな。見張りも手薄だしあの暗闇じゃ見つけようがねえよ」カインは冷静に、理にかなった分析をしていた。


「うーん、なるほど!」


「で、忍びこんだはいいがこれからどうする?そもそもこの船がどこに向かっているのかも分からねえ。ラーミアって女のいる場所に向かってる確証だってないのにいつまでも隠れてたって埒があかないだろ?多少手荒な真似をしてでも連中を従わせるしかない」


カインがそう言い終えると、エンディのハムを頬張る手が止まった。


「そうだよな、カインの言う通りだ。よし、そうと決まったらギャングどもに会いに行こう!」


"やばい、エンディがあまりに悠長なんでつい焦っちまう。こうなった以上、俺はもう後戻りは出来ない。こいつを見届ける義務がある"

と、カインは心の中でつぶやいた。


「おいカイン、さっきも言ったけど、絶対に殺したりするなよ?」


「ああ、分かったって」


エンディに釘を刺されると、カインは不機嫌そうに強めの口調で答えた。


「よーし燃えてきた!早くラーミア助けて、バレラルクで美味いもん食って遊ぶぞ!ついでに記憶も戻ったらいいなあ」


カインの眉がピクッと動いた。


「記憶を取り戻したいのか?」


「そりゃ取り戻したいに決まってんだろ」


エンディは目を丸くして言った。


「どうしてだ?人は過去を忘れて幸せになることだってあるのに」


カインの無神経な発言に、エンディは少しムッとした。


「おいなんだよそれ。自分のこと何も覚えてないんだぞ!?おれがこの4年間、どれだけ苦しんだかお前に分かるのか?」


「苦しんだ、か。忘れたくても忘れられなくて苦しむことの方がよっぽど辛いと思うけどな。おれはお前が羨ましいよ」


カインのこの発言で、ついにエンディの堪忍袋の尾が切れた。


「ふざけんなっっ!!」


エンディは力一杯カインを殴り、怒鳴った。


殴り飛ばされたカインは、壁にゴンとぶち当たった。


「お前、言って良いことと悪いことの区別もつかねえのかよ!」


再び殴りかかろうとするエンディを見ると、カインは立ち上がりエンディに向かっていった。

2人は暗く狭いキッチンで殴り合った。

激しい拳と拳のぶつかり合いが始まった。



すると、エンディの怒鳴り声と大きな物音を聞いたギャング達が不審に思い、いっせいに部屋になだれ込んできた。


「なにしてんだコラァ!」

「カチコミか?どこのもんだてめえら!?」


ガラが悪く、想像より若そうなギャングが4人、部屋に入ってきた。

ギャングの一人が明かりをつけると、エンディは顔を大きく腫らして気絶していた。


カインは、うつ伏せになっているエンディを、悲しげな表情で見下ろしていた。


「なんだよエンディ…お前、こんなに弱くなっちまったのかよ…」


カインは悲痛な表情でつぶやいた。


「おい金髪!てめえなにしてくれちゃってんだ?おお!?」


怒号を発し血走った目で近づこうとするギャング達を、カインは恐ろしい眼つきでギロリと睨みつけた。


そのあまりにも冷酷な眼付きと凄みに、4人のギャングは蛇に睨まれた蛙の如く怖気付き、萎縮してしまっていた。


次回、カインvsギャングなるか!?

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