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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
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2-50



イヴァンカが封印されて、数十分が経過した。


ラーミアは献身的に、皆の治療にあたっていた。


「ラーミア、大丈夫か?」

封印術で多量の力を使い疲弊しきっていたラーミアを、エンディは気遣っていた。


「平気よ、ありがとう。」

相当疲れているはずなのに、ラーミアは元気を装っていた。


その姿は、この上なく健気だった。


そんなラーミアのもとに、アマレットがゆっくり近づいて来た。


「ラーミア…ありがとう。」

アマレットは深々と頭を下げて感謝の意を伝えた。


「アマレット、これからも末長くよろしくね?」ラーミアは笑顔で言った。


アマレットは嬉しそうな顔で「うん!」と答えた。



イヴァンカが封印されている水晶玉はロゼが預かっていた。


「こいつはナカタム王国の威信にかけて、厳重に保管しておこう。」ロゼが水晶を手に持ちながら言った。


すると、突如地響きの様な音が鳴り響いた。


バベル神殿の、崩壊が始まったのだ。


「おおっ!これは一大事だ!みんな、早く脱出しよう!!」モスキーノは、どこか楽しそうにしていた。


「そうだな、みんな怪我もそれなりに治ってきたし…。」エンディが言った。


ラーミアは治療を一時中断させた。


そしてみんな立ち上がり、バベル神殿を脱出する準備を整えた。


しかし、ノストラだけは起き上がらなかった。


「ノストラさんも、早く逃げるよ!」

エンディはそう言って、ノストラを優しく肩で担ごうとしたが、ノストラはそれを拒んだ。


「ワシはいいから、おどれらは早く逃げろ。滅びゆくユドラ帝国と共に、ワシはここに残る。」


「何言ってんだよノストラ先輩!早く逃げましょうよ!」エラルドがノストラを説得する様に言った。


「ワシはもう死ぬ。イヴァンカの雷に撃たれてな、心臓の持病が悪化してもうた。」


ノストラは、いつ死んでもおかしくない状態だった。


エンディは苦しそうなノストラを見て、心を痛めていた。


「そんな…ラーミア!治せないのか!?」


「私は外傷しか治せないの…病気の治療は出来ない…。」



「そんな悲しげな顔をするな。生まれ故郷に骨を埋めれるんじゃ、ワシは幸せじゃい。エンディ…ちと顔を見せてくれんかの。」


ノストラがそう言うと、エンディは仰向けになっているノストラの顔を覗き込んだ。


「ありがとうな、エンディ。おどれのお陰で、ワシは生き直すことが出来た。運命に抗い戦い続けるおどれの姿に、たくさんの勇気を貰ったわい。これからも仲間を大切にして…自分の信じる道を貫いたれよ…いつまでも真っ直ぐなままでおるんじゃぞ…ええな?」ノストラは段々と声に力が無くなっていた。


「ノストラさん…俺その言葉、絶対に忘れません!今まで本当にありがとうございました。あなたの生き様はしっかりこの眼に焼き付けました…これからは…ゆっくり休んで下さい。」

エンディは涙を流し、ノストラの手を強く握りしめながら言った。


エンディが手を離すと、今度はラーミアがノストラの手を握った。


ラーミアだけじゃない。


ロゼにエスタ、ジェシカにモエーネ、アベルとエラルド、3団長にカインまでもが、一人一人代わりばんこにノストラの手を握っていった。


そこに言葉はなかった。

そこにあったのはノストラに対する"確かな気持ち"のみ。


「若い世代に囲まれて天寿を全うする…幸せじゃな。あ〜、楽しかった!」

満面の笑みでそう言い残して、ノストラは息を引き取った。


ノストラは気がつくと、光り輝く神秘的な扉の前にいた。


なるほど、これが死後の世界への入り口か…とノストラは直感した。


扉の前には、ウィンザーとハルディオスが並んで立っていた。

まるで、ノストラを待っている様だった。


「ノストラ師匠…俺たち、その…。」

2人はノストラを前にすると、とても気まずそうにしていた。


「おどれら…再びワシのことを…師と呼んでくれるんかい?」


ノストラは嬉しくて嬉しくて堪らなかった。


「もうよい、何も言うな。さあ、行こうか。昔みたく、また3人で仲良くやっていこうや。」


ノストラはそう言って、ウィンザーとハルディオスを連れて扉の向こう側に広がる安息の地へと旅立って行った。



安らかな顔で眠るノストラに黙祷を捧げ、エンディ達は再び脱出の準備に取り掛かった。


「よしみんな、行こう。」

エンディがそう言うと、皆走り出した。


「俺たちはどうすれば…。」

エラルドが言った。


エラルドは元々敵だったため、エンディ達と脱出することに負い目を感じていた。


その気持ちは、アマレットとアベルも同じだった。


「何言ってんだよ、お前らは俺たちと一緒に戦ってくれた…もう俺たち仲間だろ?水臭いこと言ってないで、一緒にバレラルクに行こうぜ?」エンディが優しく言った。


「エンディ〜、それは新国王の俺が決めることだぜ?まあ、その気持ちは俺も同じだけどよ。おいお前ら、一緒に来い。今日限りでユドラ帝国は滅びたけどよ、無害なユドラ人はみんなナカタム王国に迎え入れるつもりだ。その代わり、これからはしっかり働いてもらうぜ?」


エラルドたちはロゼの厚意に感謝し、ナカタム王国に向かう決意をした。



「ククク…俺はてめえらと馴れ合う気はねえぜ?」

アズバールは心寒そうに言った。


「改心する気なんか更々無えってか?だったら今のうちに消しとくか。」

ノヴァは敵意剥き出しに行った。


すると、ロゼがすかさず仲裁に入った。


「やめろやめろ。もう戦う元気なんか誰も残ってねえよ。なあアズバール…今日のところは見逃してやる。だが…明日からお前には国際手配をかける。次に会った時は容赦しねえぜ?」

ロゼは上手く場をおさめた。


「ククク…上等だぜ。俺は悪事をやめる気はねえよ。ナカタムはいずれぶっ潰してやるからよ、覚悟しておけよ?」


アズバールが挑発的な口調でそう言うと、エンディが勇敢な出立で「その時は俺が止める!」と言った。



すると、突如パンドラの屋根が大きな音を立てて破壊された。


吹き抜けになった天井から、漆黒の煙の様なものが勢いよく、とてつもない速度で空へと昇って行った。


エンディは嫌な胸騒ぎがした。


エンディは急いでパンドラへと向かった。


「エンディ!不用意に近づくな!」

事態が只事ではないと悟ったカインが、エンディの後を追った。


皆はエンディの後を追い、パンドラの内部へと入って行った。


そこには、目を疑う様な信じられない光景が広がっていた。


つい先程までパンドラ内部に置かれていたはずの巨大な水晶玉も、無数の石像も、忽然と姿を消してしまっていたのだ。


パンドラ内部は、一瞬にしてもぬけの殻になってしまったのだ。



空を見上げても、上空には何もなかった。


天井を突き破って空へ昇っていった闇の浮遊物は、一体どこへ消えてしまったのか。



その場にいた全ての者たちの脳裏には、最悪の事態が浮かんでいた。


口には出さなかった。


信じたくなかった。


出来ることならば、何も見なかった事にしたかった。


今目の前に広がる現実の全てを忘れ、世界は平和だと思い込みたかった。



しかし一度でもその光景を目にしてしまった以上、もう逃れる事は出来なかった。


天へ昇っていった闇の波動。

その記憶は、まるで呪いの様にエンディ達の頭の中にこびり付いて離れなかった。


それは、終わりの始まり。


邪悪な悪魔たちが、500年の時を経て復活した。

第二章、完

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