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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
78/158

2-47

ついに宿敵、イヴァンカとの闘い!


「実に素晴らしいものを見せて貰ったよ。かけがえのない絆を見つけることが出来て何よりだね。」

イヴァンカはそう言って、エンディ達に身も凍りつくような凄まじい殺気を放った。


エンディ達は一瞬にして身動きが取れなくなってしまった。

まるで重圧が意思を持ち、身体にまとわりついている様だった。


和やかなムードは、一瞬にして掻き消されてしまった。


「カイン、君には落胆した。君には私が統べる素晴らしき世界の行く末を見せてあげたかったんだけどね。残念だ。」


イヴァンカと視線が合い、カインは怯んでしまった。

それに気が付いたエンディは、カインの肩にポンと手を置いた。


「カイン、お前はもう独りじゃないんだ。俺も一緒に戦う。2人であいつをぶっ飛ばそうぜ?」

エンディは優しく微笑見ながら言った。


「ああ。」

カインはイヴァンカに対する恐怖の感情が払拭され、エンディと共に戦う決意をした。


「2人でだと?バカ言ってんじゃねえよ。"俺たち全員で"…だろ?」

ロゼはそう言って、エンディとカインの前に出た。


そしてロゼに続き、3団長にエラルドとアベル、ラベスタとノヴァ、エスタとノストラ、アズバールも続々と前に出てきた。


「みんな…。」エンディは、そんな皆の姿をこの上なく頼もしく思っていた。


「エンディ、カイン。オメエらは今までよく頑張った。だけどな、これは大人の喧嘩だ。大人同士の喧嘩に、これ以上ガキを巻き込むわけにはいかねえ。」

ポナパルトが言った。


「ポナパルトさん…でもあいつだけは、俺たちの手で…!」エンディがここまで言いかけると、ポナパルトは再び喋り始めた。


「分かってる。あいつだけは絶対に許さねえよな?何も俺はよ、"後は俺達に任せてお前らは下がってろ。"なんて言うつもりはねえよ。あいつとの因縁は、お前らの手で終わらせろ。だから俺たちは…てめえら2人を全力で援護しながら戦うっつってんだよ!」

ポナパルトが言った。


イヴァンカは完全に包囲されていた。


「ありがとう、みんな。」

エンディはその気持ちに、深く感謝した。


イヴァンカはゆっくりと剣を抜いた。



「フフフ…雷帝さん、やる気になったみたいだねえ。まずは俺が…先陣を切らせてもらうよ!」

バレンティノがイヴァンカに斬りかかった。


それを合図にする様に、各々配置についてイヴァンカの隙を窺っていた。


バレンティノがいくら全力で斬りかかっても、イヴァンカは涼しい顔で飄々としていて、全ての斬撃と魔法攻撃を軽々と躱していた。


「フフフ…1発も当たらないとはねえ、自信無くしちゃうなあ。」


「それは良い事だ。君は団長になり、今日まで悉く敵を圧倒してきて、絶対的な自信を手に入れた。しかし自身の想像を遥かに上回る強敵と遭遇したことで、初心に帰ることが出来たんじゃないか?」


イヴァンカに核心をつかれ、バレンティノはムスッとしている。


「おどれだけは承知せんぞイヴァンカー!」

ノストラが背後からイヴァンカを斬首しようと試みるも、それすら躱されてしまった。


ノヴァが黒豹化し、イヴァンカの周囲を高速移動していた。

まるで、10人ほどに分身している様だった。

ノヴァが四方八方から鋭利な爪で攻撃を仕掛けても、イヴァンカはかわし続けていた。


「何だよてめえ、逃げてばかりでつまらねえ野郎だな?」

ポナパルトが挑発すると、イヴァンカは地面と水平にして剣を振り上げた。


「…何をする気だ?」

ロゼは注意深くイヴァンカを見ていた。


すると、突如イヴァンカの手にしている剣の刀身に、ピュッと音を立てて血がこびりついた。


イヴァンカはその場からピクリとも動いていないのに、突然綺麗な刀身が血塗られたのだ。


ロゼ、ラベスタ、エスタの身体に深い斬り傷が生じ、3人は出血して倒れてしまった。


「お前…何をしやがった…?」

エラルドは空いた口が塞がらなかった。


「なるほど、この程度の動きも目で追えないのか。底が知れるな。」


「てめえ…調子に乗るんじゃねえぞ?」

エラルドは強い口調でそう言い放ち、イヴァンカを睨みつけた。


「エラルド、随分と大きな口を叩く様になったね。以前は私の目すらまともに見れなかった君が、どういう心境の変化だい?まさか、集団の中に身を置いて、自身が強くなったと錯覚してしまっているのかな?」

イヴァンカがそう言い終えると、刀身に新たに血が付着した。


今度は、エラルドが斬られてしまった。


イヴァンカは、強いなんて一言では言い表せないほどに異次元の戦闘能力だった。


モスキーノがイヴァンカの前に出た。


「勝負を投げたか、氷の天生士(オンジュソルダ)モスキーノ。この私の前に立つなど愚策が過ぎるぞ。」


「ははっ、愚策かどうかその身を持って味わうがいいさ…俺の絶対零度をね。」

モスキーノがニヤリと笑ってそう言うと、周囲の温度が急激に下がり始めた。


「また絶対零度か…芸のない男だ。そしてその技は、君の体にも相当な負担があるようだね。ウィンザーとハルディオスの相手は、君にはそれほど荷が重かったのかな?」


「ベラベラと喋ってる暇なんてないんじゃない?ほら、もうマイナス50度まで下がったよ!マフラーでも取ってきなよ!風邪引いちゃうよ〜?」


しかし、モスキーノはすぐに異変に気がついた。

なんと、マイナス50度あたりから気温は一向に下がらず、むしろ徐々に元の気温まで上昇を始めていた。


「え…何これ?異常気象?」

モスキーノはかなり動揺していた。


「マイナス50度がなんだって?残念ながらこの程度の気温では、白熊が絶滅してしまうよ。君の冷気など、私の闘気で容易く無力化できる。」


イヴァンカはそう言って、モスキーノに剣を向けた。


すると、突如地面から一本の木が生えてきて、イヴァンカの体にグルグルと巻き付いた。


「ククク…油断したな。」

アズバールは勝ち誇った顔でニヤリと笑っていた。


エンディ、カイン、アベル、モスキーノの4人が、動きを止めれたイヴァンカの周りを包囲する様にして散らばった。


そしてそれぞれ、大量のカマイタチ、爆炎、水の塊、無数の氷の刃をイヴァンカに向けて全力で放った。


イヴァンカは闘気で身体に巻きついた木を容易く滅却した後、それら全ての攻撃を、剣をたったの一振りしただけで相殺してしまった。


この瞬間、エンディ達の頭の中では、この戦いに対する希望の2文字が失われてしまった。


圧倒的な強さを前に、本能的に勝利を諦めてしまったのだ。


「こ…このバケモノがぁ!!」

ポナパルトは渾身の一撃をお見舞いしようと、イヴァンカに殴りかかった。


しかしイヴァンカは、高濃度の魔力を纏ったポナパルトの拳を、人差し指一本で止めてしまったのだ。


「……は?」

呆気に取られた隙を突かれ、ポナパルトは斬られてしまった。


黒豹化したノヴァが爪でイヴァンカの喉を引き裂こうと試みて、猛スピードで詰め寄ったが、その攻撃は届かなかった。


ノヴァも斬られてしまった。


アズバールもアベルも、イヴァンカの強さに慄いている一瞬の隙を突かれて斬られてしまった。


モスキーノ、バレンティノ、カイン、ノストラの4人が同時にイヴァンカに襲いかかったが、4人はイヴァンカの放った雷にうたれて地に伏してしまった。


ジェシカ、モエーネ、アマレットは戦意喪失、ダルマインは隠れて震えているだけなので戦力外。


まともに動けるのは、エンディだけになってしまった。


「ああ…そんな…みんな…。」

エンディは完全に怖気付いていた。


「どうしたエンディ…ここに辿り着いた時に私を殺すと言っていなかったか?あの時の意気込みは、一体どこにいってしまったのかな?」


イヴァンカは、エンディに向かってスタスタと歩き出した。


エンディは立ち止まったまま、身動きが取れなくなってしまっていた。


すると、イヴァンカの歩みを止める様にして、ラーミアが2人の間に入ってきた。


「ラーミア!?何やってんだ!危ないから下がれ!」エンディが必死に叫んだ。


「血迷ったか、ラーミア。戦士でもない君が私の前に立ちはだかるなど、とても正気の沙汰とは思えないな。」


「もうやめて。これ以上みんなを傷つけないで。もしエンディに手を出したら…私はあなたを絶対に許さない。」

ラーミアは強く凛とした表情で言った。


屈強な戦士達が束になってかかっても全く歯が立たないほどの強敵を前にしても怯まず、この堂々たる態度。恐るべき精神力だった。


それが癪に障ったのか、イヴァンカは不快感を露わにした表情でラーミアを斬った。


エンディは、ゆっくり倒れゆくラーミアを、無力に眺めていることしかできなかった。


しかしその傷は浅かった。


「安心し給え、お灸を据えただけだ。君には私を不老不死にしてくれるまでは、生きていてもらわないと困るからね。」


血を流して倒れているラーミアを見ても、エンディはピクリとも動かず、何も言葉を発さなかった。


しかし、エンディは自分の中で何かが崩壊する様な"音"を確かに聞いた。


エンディの異変に、イヴァンカは気が付いていなかった。


恐怖のあまり身動きが取れなくなってしまったのだろう、と考えていたのだ。



「もう少し楽しませてくれると思ったけどね、残念だよ…本当に。エンディ、君は本当にあの愚かな両親にそっくりだね…おそらく死にゆく姿すらも。」


イヴァンカにここまで言われても、エンディは完黙を貫いて立ち尽くしていた。



すると何者かが大空を羽ばたきながらこちらへ向かってきた。


それは、マルジェラだった。


瀕死のマルジェラは、隻腕の状態で剣を握ってイヴァンカに斬りかかった。


イヴァンカはマルジェラの斬撃を指一本で受け止めた。


「マルジェラ君…?」

モスキーノは意識を朦朧とさせながら、マルジェラを見ていた。


「マルジェラ、生きていたのか。翼無きひな鳥風情が私に刃を向けるなど、死すべき驕傲だよ。」

イヴァンカはマルジェラの頭上に手を置いた。


イヴァンカの手からは雷が放たれ、それを直に受けたマルジェラは全身が感電してひどい痙攣を引き起こして地に臥した。


しかし意識は失っておらず、僅かだが声を発する気力も残っていた。



「エンディ…聞け…。」

こんな状況でも何もしないで立っているだけのエンディに、マルジェラが問いかけた。


「まだ生きているのか。その恐るべき生への執着心、敬服するよ。」

イヴァンカは皮肉に言った。


「エンディ…お前はこんな奴相手にも、非情になれないのか…?世の中にはな、救いようのない…壊れてしまっている人間がいるんだ。こちらがどれだけ優しく接しても…誠意を持って歩み寄っても意味のない…道徳心や倫理観が欠如してしまっている…可哀想で…死ぬべき人間がな。…だからエンディ、こんな奴に遠慮をする必要なんてない…思う存分、戦え。今抱いてる怒りと憎しみと一緒に…こいつに殺されてしまった人々の怨念を背負って…全てをぶつけてやれ!」

マルジェラは声を振り絞り、エンディに檄を飛ばした。


イヴァンカはそんなマルジェラを斬りつけ、フッと鼻で笑っていた。



プツリ…と、エンディは自分の中で何かが切れる音が聞こえた。


「お前は、殺すしか脳が無いのか?」

エンディはようやく口を開いた。


エンディはいつの間にか、隔世憑依の形態になっていた。


イヴァンカはようやく、エンディの異変に気がついた。


「何だ…その力は?」


イヴァンカがエンディの隔世憑依を目にしたのは、4年前と先程のカインとの戦闘時の2回のみ。


しかし今目にしているエンディの3度目の隔世憑依からは、何やら得体の知れない潜在能力の様なものを感じた。


「お前だけは絶対に許さない。殺してやる。」

エンディは怒りに満ち溢れた表情で言った。


そしてその心は、イヴァンカに対する殺人衝動で支配されていた。

強すぎるイヴァンカ…

怒りに呑まれ支配されたエンディはどれ程のものなのか…

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