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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
66/158

2-35


「あれま、お仲間が2人やられちゃったね。弔いの言葉の一つでもかけてあげたら?」

モスキーノは嘲笑しながら言った。


2人の同胞が目の前で戦死したというのに、ウィンザーとハルディオスは顔色一つ変えず、微塵も心を痛めていなかった。


「ロゼ達の傷が着実に癒えてきているね。危険を冒してまでナンバー426を奪還したのは、戦力となる手駒を増やす為か?」

ウィンザーが尋ねた。


「ははっ、手駒って…人聞きが悪いなあ。まあ、言い得て妙な気もするけど。まあ、負傷した味方を回復させて戦力として復帰させるのは戦術の常套手段だからね。外傷を完璧に治癒できる能力を持つ者を、敵に引き渡したくもないし。だけどそれ以上にね…ラーミアの能力でイヴァンカを不老不死にさせるのだけは、何がなんでも阻止したいんだよ。」

モスキーノは喋るにつれ、その表情から徐々に笑みが消えていった。


モスキーノから冷徹な殺意の波動を向けられても、一切物怖じしないウィンザーは、横目でチラッとラーミアを凝視した。


ウィンザーの視線に気がついたラーミアは、ロゼ達の治療を無意識に止めてしまうほどに怯えていた。


「ラーミア‥あなた、あの男と何かあったの…?」

不審に思ったジェシカが、恐る恐る尋ねた。


「ラーミア…ナンバー426って…なんだ?お前一体…何者…なんだ…?」

続いて、満身創痍のロゼが、精一杯声を振り絞りながら尋ねた。



ラーミアは、いつかこんな日が来ると、前々から薄々気がついていた。


気がついていながら、気がついていないフリをしていたのだ。

大切な仲間たちに、自分の過去を知られたくなかったからだ。



しかし、ユドラ帝国に来てからは、そんな心境も変化していた。


自分を助けに来てくれたエンディ達に、いつまでも秘密にして黙っていることに罪悪感を感じていたからだ。


いつかはみんなに、本当のことを話さなければならない。

そして、その時が今だと悟ったラーミアは、勇気を出し、ついに重い口を開いた。


「私は…ユドラ帝国で暮らしていたことがあるの…。ウィンザーとハルディオスの…実験体の一人として…!」

ラーミアは衝撃的な事実を口にした。

よほど悍ましい記憶だったのか、ラーミアは静寂を切り裂くような動悸を起こしていた。

まるで、この殺伐とした空気の戦場に、自身の鼓動だけが鳴り響いているような錯覚に陥っていたのだ。


「実験体…だと…?」

いまいち飲み込めない様子のロゼは、怪訝な表情で言った。


「しかもその娘はね、自ら進んでこの地に来たんだよ。そうだよね…ナンバー426?」

ウィンザーは意地悪な口調で言った。


「ラーミア…お前まさか、こいつらと通じていたのか?」

ノヴァは逸る気持ちを抑えきれず、早とちりな発言をした。


するとジェシカが、瀕死の重症を負っているノヴァの頬を容赦なく平手打ちした。


「バカなこと言ってんじゃないわよあんた!そんなわけないでしょ!」


ジェシカに怒られて、ノヴァは自身の軽率な発言を反省し、少し落ち込んでいた。


「いいのよジェシカ…。私が…自分の足でユドラ帝国に来たことは事実だから…。だけど、みんなを裏切るようなことは絶対にしていない!それだけは信じて!」

ラーミアは涙ぐんだ顔で訴えた。


「ナンバー426…裏切りはお前の専売特許だろう?幾多の同志の屍を乗り越えて、命からがら逃げ回り…次なる隠れ蓑がこいつらというわけか?」

ウィンザーが嫌味たらしくそう言うと、次はモエーネが怒った。


「あんたねえ!さっきからナンバー426ナンバー426って…いい加減にしなさいよ!私の大切なお友達を侮辱してんじゃないわよ!」

モエーネは癇癪を起こす子供のように、キーキーと声を荒げた。


すると、見かねたモスキーノが水を向けた。


「あのさ、みんな冷静になろ?まずはラーミアの話を聞こうよ!ねっ?」

モスキーノがそう言い終えると、一呼吸終えたラーミアが、ゆっくりと話し始めた。



ラーミアは、ナカタム王国より真北に位置する、小さな雪国で生まれた。


非魔法族により形成されているその国は、ナカタムのような魔法国家とは対照的に、魔法族が差別を受けている国だったという。


野蛮者。

それが、ラーミアの生まれ故郷での魔法族の蔑称だった。


そんな国で、ラーミアは異能者としての力に目覚めてしまったのだ。


それは、ラーミアが6歳の頃だった。

当時のラーミアの生まれ故郷では、第五次魔法大戦の混乱に乗じた他国の魔法族の愚連隊が、略奪目的で侵略してくる事件が後を絶たず、深刻な社会問題となっていた。


そんな時だった。

魔法族の賊軍と交戦し負傷した兵隊の、患部から流れる血を、幼心から手で止めようとした心優しきラーミア。

その際に、ラーミアの両手からは眩い光が放たれ、負傷した兵隊の傷口がみるみるうちに塞がったという。


それを見ていた周囲の老若男女は、ラーミアを心底気味悪がった。


ラーミアは野蛮者、呪われた子供と散々罵られ、これでもかというほどに罵倒された。


治療を受けた兵隊ですらラーミアを気持ち悪がり、「触るな!近寄るな!」と吐き捨て、発狂しながらその場から逃げるように立ち去ったと言う。


ラーミアは徹底的に迫害された。


母は暴徒に殺され、精神を病んだ父は自殺した。


ラーミアは逃げ出し、雪山を一人で彷徨い、寒さとひもじさで死にそうになっていた。


そこに現れたのが、ラーミアの能力の情報を聞きつけた、ユドラ帝国の諜報部員だった。


彼らはラーミアを拉致するつもりだったが、ラーミアの方から是非ともユドラ帝国へと連れて行って欲しいと懇願され、思わず困惑してしまったらしい。


「そこに行けば…私もう、イジメられないよね?毎日楽しく過ごせるんだよね?パパとママにも…会える?」

幼きラーミアは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらそう言い、自ら進んでユドラ帝国へ行った。



しかし、そこに待ち受け炊いたのは楽園ではなく、更なる地獄だった。



ウィンザーとハルディオスが統轄する研究施設には、数え切れないほどの人間が収容されており、非人道的な人体実験が日常的に行われていた。


そこは研究施設とは名ばかりの、強制収容所だった。


実験体となった人々は名前と人権を剥奪され、それぞれ番号が割り振られた。


実験体は魔法族、非魔法族問わず、ほとんどが国外から拉致された人々だった。


健康な幼児、病弱な若者、度重なる人体実験で四肢の一部が欠損した老人等、十人十色だった。


そんな中、ナンバー426と呼ばれたラーミアは実験体の中でも救済の女神と崇められ、研究員からも特別待遇を受けていた。


ラーミアの能力のお陰で、この悪魔の所業とも呼べる残酷な人体実験の日々が終焉を迎える日が来るかもしれないと、誰もが希望を持っていたからだ。


当時は、まだイヴァンカがパピロスジェイルに幽閉されていた。


よって、今のようにラーミアの能力に期待されていたものは、不老不死の禁術ではない。


この時のウィンザーとハルディオスが最も欲してやまなかった大願。


それは、死者の蘇生だった。


二人は、若き日に亡くした大切な女性に、もう一度会いたかったのだ。


もう一度会って、どうしても抱きしめたかった。

あの頃のように、愛し合いたかった。



人体の傷を完璧に治癒するラーミアの力。


ウィンザーとハルディオスは、その神の領域を超越した力を待ってすれば、それが叶うと信じていたのだ。





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