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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
64/158

2-33

歴史の真実



世界神話。


それは、世界全土へと伝承されるユドラ人の台頭と隆盛の軌跡が記された歴史書物だ。


500年前にレムソフィア家初代当主、レムソフィア・ラディオスによって書かれたもので、現代では御伽噺として認知している者がその過半数を占めている。



その内容は、500年前に魔法族の始祖である全知全能の唯一神ユラノスが、悪魔によって殺された後の、深い闇に包まれた世界から始まる。


その闇を払うべく立ち上がったのが、ユラノスの配下であった10人の神官達。


激闘の末、結果は相討ち。


悪魔と、それに付き従う堕天使と呼ばれた闇の魔法族は封印され、10人の神官達は命を落とした。


しかし、闇が払拭された世界に平和が訪れることはなかった。


神も悪魔もいなくなった世界は統制が効かなくなり、混沌と化した。


貨幣や法律の概念がほとんどなくなり、まるで旧人類が暮らしていた時代に逆戻りしたようだった。


種族間の争いは絶えず、血で血を洗い阿鼻叫喚が蔓延る無秩序の世界になってしまったのだ。


そんな世界を救ったのが、ユラノスの子孫であるユドラ人だった。


ユドラ人はその偉大なる神の力で世界に光と秩序を取り戻し、その圧倒的な力で瞬く間に世界の頂点へと君臨した。


しかし、それは嘘で塗り固められた偽りの歴史だったのだ。


歴史書とは常に、その時代の勝者によって都合良く美化しれ語られるものだ。


確かに、混沌とした世界をユドラ人が統べたことは紛れもない事実だ。


しかし、ユドラ人はユラノスの子孫ではなく、普通の魔法族だったのだ。


ただ一つ、ユドラ人が他の種族と違ったのは、その卓越した魔法力の高さだった。


ユドラ人は自分たちが生き残る為に、暴力で他の種族をねじ伏せ、粗暴な略奪者と化した。



それによって得た莫大な富と武力を駆使し、世界中の魔法族にその名を轟かせていた。


ユドラ人に逆らおうとする者は、いつの間にか誰一人として居なくなっていた。


それほどまでに、ユドラ人は恐れられていたのだ。


そして、ユドラ人の名に肖ろうとし、ユドラ人に媚びへつらう魔法族が急激に増加した。


ユドラ人を背後に据えて、世界の覇権を奪い取ろうと、ここぞとばかりに多種多様な魔法族が立ち上がり、再び争いが勃発したのだ。


これこそが、第一次魔法対戦の始まりであった。




今ノストラは、皆の前でこの真実を白日の下へとさらした。


ウィンザーとハルディオスは、すでに周知の様だった。


バリーザリッパーとガンニバリルドは、まるで興味がなさそうな態度で、上の空だった。


しかしその他の者たちは、驚きのあまり言葉を失っていた。


「嘘だ…俺たちが…普通の魔法族の…人間…?神じゃなかったのか…?」

エラルドは現実を受け入れることができず、大きな精神的ショックを受けていた。


「たしかにノストラの言ったことは事実だ。だが…我らユドラ人の先祖が、神も悪魔もいなくなった世界を制圧し、世界の歴史を陰から操り続けていたのは紛れもない事実。5世紀もの間、全知全能の唯一神ユラノスに代わり世界の頂点に君臨し続けていた我々ユドラ人は、実質神であることに相違はない。」

ハルディオスは、ノストラの話を否定する様に言った。


「神とかよく分からないけど…とどのつまりあんたらは…一体何を目指しているの…?」

ラベスタは声を振り絞り、興味ありげに聞いた。


「平和だ。争いや差別を無くし、世界を一つにすることだよ。」ウィンザーが答えた。


ウィンザーは、自身の発言の真意を誰も理解していないことを悟ると、次の様に述べた。


「なぜ人間は争うのか。何故過去の過ちを忘れ歴史を繰り返すのか…それは人間があまりにも多くの感情を兼ね備えているからだ。自らを絶対的な正義と信じて疑わない者同士で徒党を組み、そしてそれに相反する思想を持つ集団を悪とみなし、些細な食い違いで争いは起き、憎しみの連鎖により戦争が始まる。その全ての根底にあるのが"感情"だ。祖国を、同種族を、家族を、友を、愛する者を護りたいという感情こそが全ての元凶だ。ならば、その感情を奪えばいい。そうすればヒトは争いをやめ、世界は真に平和となる。」

ウィンザーは恐ろしい表情で暴論を吐いた。


「感情を奪うだと…?どうやって…?」

ロゼが尋ねた。


「簡単なことだ。まずは世界を無に帰す。ユドラ人を除いた全ての人類を一掃し、新たな文明…新世界を創る。そして新たに誕生した全ての人間に、物心つく前から我々ユドラ人の思想を徹底的に植え付け、永主…イヴァンカ様に絶対的な忠誠を誓わせる。反逆する者はその芽から叩き潰す。そうることで争いも差別もない平和な世界は誕生する。そうでもしないと平和など永久に訪れない。」

ハルディオスが淡々と言った。


「例えイヴァンカ様が悪だとしても…あの御方には導いてもらわねばならない。必要悪に勝る抑止力は、この世にないからだ。」

ハルディオスが言った。


「要するに洗脳って訳か…ただの恐怖政治じゃねえかよ。」ロゼは小馬鹿にする様な口調で言った。


「ロゼ、生意気な口を聞くな。君が今のうのうと豊かな暮らしをしているのは誰のお陰だと思っている?我々ユドラ人が500年前から、君達ウィルアート家に援助していたからだろ?少しは立場を弁えなさいね。」

ウィンザーにそう言われると、ロゼは何も言い返す言葉が見当たらなかった。


「俺とウィンザーは同じ一族に生を受けた親戚同士だ。しかし20年前、一族で下らない内部紛争が勃発し、それが原因で俺は家族を、ウィンザーは愛する女を失った。分かるか?同じ時代に同じ国に生まれ、同じ一族に産まれた者同士ですら争いは起こるんだ。俺たちはもうそんなものを見たくない‥だからこそ、誰かが変えるしかないのだ。それを変えられるのはイヴァンカ様しかいない。」

そう言ったハルディオスは、どこか悲しげな目をしていた。


「恐怖で支配された世界では、確かに争いは起きないかもしれんの。じゃがそんなものは平和とは呼ばん。確かにおどれらの言い分も少しは理解出来る…過ちだらけの間違った世界…人生などこれっぽっちも思い通りにいかんわ…じゃがの、だからこそ生きる価値があるんじゃないのか?こんな世界でも皆、自分を信じ、幸せを追い求め、世の中をより良くするよう試行錯誤しながらガムシャラに生きておるんじゃい!過去の過ちから少しずつ学びを得て、人類はゆっくりじゃが確実に進歩しておる。おどれらの思想は、そんな先人たちの努力を冒涜し無碍にする卑劣極まりないものじゃ!」

ノストラはかつての愛弟子であるウィンザーとハルディオスを一喝した。

しかし2人に、ノストラの想いは届かなかった。


「詭弁だね。君の下らない価値観なんて、君のその空虚な脳内でしか通用しないんだよ。」

ウィンザーは冷たい口調で言った。




「おい!どうでもいいからさ、早く!コイツら、喰わせて!腹減った!」

ガンニバリルドは空腹に絶えきれず、駄々をこね始めた。


「黙れガンニバリルド。まずは使徒隊の長であるウィンザーがこいつらの息の根を止める。喰うのはその後にしろ。」

ハルディオスがそう言うと、ガンニバリルドは素直に承諾した。


「ガ、ガ、ガンニバリルド….喰うのは構わないけどさ…そ、そ、その前に…こいつらの血を…採取させてくれないかな…?不浄の血を…コレクションにして…寝室に…飾りたいんだ…。」

バリーザリッパーのその頼み事は、周囲にその悪趣味さを露見させた。


「さようなら、侵入者及び裏切り者の諸君。賊軍がここまで辿り着いたのは、ユドラ帝国建国以来初めてのことだろう。胸を張れ、これは類を見ない快挙だ。しかし君達の健闘は、後世に伝えられることはない。」ウィンザーはそう言って剣を上にあげた。


万事休す。

絶体絶命。


皆、立ち上がる気力も、戦意も完全に消失していた。


救いようのないほど絶望的な状況だった。


しかし、奇跡と呼ぶに相応しいことが起こった。


なんと、剣を振り上げていたウィンザーの腕が突如凍ってしまったのだ。


「なんだ…これは?」

ウィンザーは意表を突かれて驚いていた。


「この氷…まさか…!?」

ロゼはゆっくりと後ろを振り返った。


すると、3人の豪傑がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「ごめーんみんな、遅くなっちゃった!」


「フフフ…でもまあ、中々良さげなタイミングで到着したよねえ。」



「なんだ貴様ら、何者だ?」

ハルディオスが尋ねた。



「俺たちが何者か…だとぉ!?ナカタム王国最強戦力の俺たちを知らねえたあ、てめえら勉強不足にも程があるぜ??」


モスキーノ、バレンティノ、ポナパルト。


ナカタム王国の最高武力、王室近衛聖道騎士団の3人の団長が現れた。


その姿、立居振る舞いはこの上なく勇ましく、そしてとてつもなく頼もしかった。


それはまさに、絶望が希望に変わった瞬間だった。


「へえ、噂の3団長か。何をしにきた?」

ウィンザーが尋ねた。


「何をしにって…決まってるじゃん!取材に来たんだよ!世界神話の続編を執筆するにあたってのね。神になり損なった君たちの哀れで惨めな末路を詳細に書きたいからさ!」

モスキーノは皮肉な口調で言った。


「何だと?」

ウィンザーは眉間にシワを寄せながら言った。


「栄華を極めたユドラ帝国の終焉…これより俺たちはその歴史的瞬間の生き証人となる。さてと、覚悟は出来ているかな…世界の黒幕さん?」

モスキーノは満面の笑みを浮かべながら言った。


その笑顔の裏には、底の知れない冷たさと凄みがあった

3団長終結!

これは頼もしい!

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