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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
61/158

2-30

ようこそパンドラへ


ノストラ達はついに、バベル神殿の最上階に辿り着いた。


雲より高いその場所は、山脈の山頂部に隣接しているためとてつもなく広大だった。


空中庭園とは名ばかりで、ゴツゴツとした岩肌が果てしなく広がっていた。


酸素濃度が薄く、とても戦闘には適さない場所だった。


そしてその広大な敷地にポツンと建てられているのが、パンドラだった。


「初めて来たけどよ、ここまで広いとは思わなかったな…次元が違えぜ。」

「パンドラってのはどれだ?見当たらねえな。」

エラルドとロゼは興味深そうに辺りをキョロキョロと見渡していた。


「あれじゃねえか?」

ノヴァは遠くを指差して言った。


ノヴァが指差した方角の先には、かなり年季の入ったドーム型の建物があった。


そのドーム状の形が岩肌の地形に紛れていたため、気付きにくかったのだ。


「あれがパンドラじゃ。あそこにイヴァンカがいるはずじゃ。さあおどれら、行くぞ!」

ノストラは張り切っていたが、先ほどと比較するとかなり緊張感が増している様だった。


「なんだよ、誰もいねえじゃねえかよ!」

ダルマインがつまんなそうにそう言うと、全員一斉にピタリと歩みを止めた。


ダルマイン以外の全員は気づいていた。

自分たちに殺気を放つただならぬ気配に。


「コソコソしてねえで出てこいよ。」

ノヴァが痺れを切らしてそう言った。


するとノストラ達の前に、ウィンザー、ハルディオス、バリーザリッパー、ガンニバリルドが立ちはだかった。


「侵入者及び脱獄者諸君…よくここまで辿り着けたね。褒めてあげるよ。」


「だが、それもここで終わりだ。今からこの場所は、愚か者共の墓場と化す。」


ウィンザーとバルディオスが言った。


「ククク…愚か者共ってのはてめえらのことか?」

アズバールが言った。


「こらアズバール!焚き付けるな!ええ?」

ノストラが注意した。

しかし、アズバールは聞く耳を持たなかった。


すると、岩肌からウネウネと波打つ様に無数の木々が生えてきた。

その木は4人の筆頭隊を取り囲む様に増殖した。


「チッ、マルジェラはいねえのか。まあいい…てめえら下っ端に用はねえよ。俺はここに…イヴァンカを殺しに来たんだからなぁ!!」

感情の高ぶったアズバールがそう叫ぶと、木々は4人の筆頭隊に一斉に襲いかかった。

そしてアズバール自身も、ウィンザー達に近づいて行った。


「馬鹿野郎!無闇に近づくな!」

ノヴァがアズバールに向かって叫んだ。



イヴァンカは、遠く離れたパンドラの前からその様子を見ていた。


すると、イヴァンカの横にマルジェラが現れた。


「イヴァンカ様、お呼びでしょうか。」


「マルジェラ、突然呼び出してすまないね。ご覧、ついに奴らがここまで辿り着いた様だ。」


「その様ですね。しかし奴らの長旅もここで終わるでしょう。」


「…ロゼ達は生きていた様だね。マルジェラ、君は意外とツメが甘いんだね。それとも…例え仮初でも、かつての主君を殺すのは心が痛むのかな?」

イヴァンカはマルジェラの目を直視しながら言った。


マルジェラは顔色ひとつ変えず、黙っていた。


「もう一つ聞きたい事がある。それこそが君を呼び出した最大の理由だ。…エンディも生きているね?さっきから彼の波動をヒシヒシと感じるよ。なぜ殺したと嘘をついたのか、教えてくれないか?」

イヴァンカは凄みのある言い方をした。

それでもマルジェラは沈黙を貫いていた。


「黙秘か。この私に誤魔化しが通用しないことは、君も知っているだろう?」

イヴァンカはマルジェラに顔を近づけて言った。


マルジェラは無表情だったが、心拍数が上がっていた。


「4年前…カインに解放してもらい、皇帝の座に就いて間もない頃だったかな…帰国した君から感じた微かな違和感と発する言葉の機微から、君が既にユドラ帝国を裏切っていた事を私は見抜いていた。見抜いた上で、私は君を我が麾下へと迎え入れた。君がどのようにして、内部からユドラ帝国の破壊工作を実行するのか興味があったからね。最期に教えてくれ…マルジェラ、君は何者だい?」


イヴァンカがそう問いかけると、マルジェラはゆっくりと瞼を閉じ、過去の追憶に耽りはじめた。



ユドラ帝国きってのスパイの名門、メゾタルト家の三男として生まれたマルジェラは、幼い頃より一族の錚々たる魔法戦士たちから、徹底した洗脳教育を受けていた。


しかし、幼き頃より思慮深かったマルジェラは、口にこそ出さなかったが、一族の在り方に疑問を感じていた。


マルジェラは洗脳されなかったのだ。


しかし、まだ幼かったマルジェラは一族や国に歯向かう事は出来ず、運命に従う以外に道はなかった。


そのため洗脳された演技をして、幼い頃より世界各地の魔法国家を転々とし、渋々スパイ活動に勤しんでいた。


他者を欺き、祖国と一族を欺き、自分自身すらも欺いていたマルジェラは、次第に自分が何者か分からなくなり、精神が崩壊しそうになっていた。


そして、今のエンディやカインと同じ16歳の頃、ナカタム王国にスパイとしてやってきた。


精神を疲弊し切っていたマルジェラの奇妙な挙動は、すぐに当時の0番部隊の諜報部員の目に留まり、拘束された。


すぐにユドラ帝国のスパイとバレたマルジェラ。


この頃、既にユドラ帝国に山を返していたレガーロ国王は、一部の騎士団員と保安官には、万が一ユドラ帝国の工作員を国内で見つけた場合、速やかに捕縛し、秘密裏に処刑するよう命じていた。


しかし、レガーロ国王はマルジェラに恩赦を出した。



処刑場で垣間見た、マルジェラの苦悩し精神をすり減らした様な目を、レガーロ国王は見逃さず、温情をかけたのだ。



更に、マルジェラの身分を他の者には内密にした上で、王室近衛聖道騎士団へと迎え入れたのだ。


マルジェラは、ユドラ帝国とナカタム王国の二重スパイになっていた。


そして四年前の第五次魔法大戦時、アズバールを倒したあの日。


ユドラ帝国からの使いの者が、アズバールの放出した木々に隠れたまま人知れず現れ、マルジェラにイヴァンカからの"祖国に帰還しろ"、という伝達を報せた。


"イヴァンカだと…?"

幽閉されていると聞いていた危険因子が、いつの間にか皇帝の座に就いている事にただならぬ事態を予知したマルジェラは、急いで祖国へと帰った。


そして、現在に至る。



「ユドラ帝国、神衛使徒隊筆頭戦力メゾタルト・マルジェラ。それが私の現在の立場です。しかし心はずっと…ナカタム王国にあります。今から14年前…大恩あるレガーロ国王様に拾って頂き、騎士団に入団したあの日から、私は身も心もウィルアート家に捧げました。そしてその忠義は今もこれからも、決して揺らぐことはない!俺の目的はただ一つ…ナカタム王国の平和の為…世のため人の為、レムソフィア・イヴァンカ…お前を殺すことだ!」

マルジェラはそう言い放ち、イヴァンカに刃を向けた。


しかし、マルジェラは刃を振り下ろす前に呆気なく斬られてしまった。


剣を握っていた右腕は切断され、胸部から下腹部にかけて深い斬り傷を負いそのまま倒れた。


マルジェラは、自身の行いに一片の悔いもなかった。全てをエンディに託し、そのままゆっくりと意識を失っていった。


「まさかこの程度だったとはね…興醒めだ。そう思わないかい?ラーミア。」


近くで一部始終を目撃していたラーミアは、恐れ慄いていた。


「どうして…どうしてこんなに酷い事ができるの!?」


「喚くな、耳障りだ。」

唐突に現れたカインが冷たく言った。


「カイン!?あなたどうしてこんな人に従ってるの!?良い人だと思っていたのにどうして…。」ラーミアはとても悲しそうな顔をしていた。


「"良い人"とは、架空の存在であって実在しない。魑魅魍魎の人間社会で、人は"世間"という名の魔物を恐れ、"他者"という名の俗物を欺きながら、無意識に偽りの見えない仮面を被り、地を這いずりかろうじて生き永らえる事が出来ている。自らにとって都合の良い何者かを"良い人"と誤認しながら生きる君達の姿は、私の目にはこの上なく滑稽に映るよ。」

イヴァンカは皮肉な笑みを浮かべながら言った。


ラーミアは何も言葉を返せなかった。

ただひたすらに、エンディ達の勝利を天に祈るしかなかった。


一方その頃決戦の地では、アズバールの放った無数の木々が緩やかに地中へと潜っていた。


「かつて殺戮の限りを尽くし、その冷酷非道さゆえ死神と恐れられた男が…この程度か。」

ウィンザーはガッカリしたように言った。


アズバールはウィンザーに髪を掴まれ、血塗れになって白目を剥いた状態で意識朦朧となっていた。


「そんな…あのアズバールがこうもあっさりと…。」

いつも無表情のラベスタが、目を見開いて絶句していた。


アズバールを、まるで赤子の手をひねるように一蹴したウィンザーの圧倒的な強さに、一同度肝を抜かれていた。


しかし、ノストラは違った。

アズバールにトドメをさそうとするウィンザーの背後に回り込み、斬りかかった。


しかし、その攻撃は2人の間に入ったハルディオスによって防がれてしまった。


ガキン、と大きな太刀音が鳴り響いた。


「ガッハッハー!ウィンザー、ハルディオス、腕をあげたのう!流石は我が愛弟子じゃわい!」

ノストラは豪快な笑い声を上げた。


「裏切り者風情が、いつまでも師匠面するな。」


「その通り。それに、俺たちの実力は既に全盛期のお前を遥かに凌駕している。」


ハルディオスとウィンザーはノストラを小馬鹿にするように言った。

2人とも、ノストラと同じく二刀流の剣士のようだ。


「生意気な口聞くようになったのう、ええ?」


「ノストラ先輩、割り込んですみませんね。ウィンザーは俺にやらせてください…!」

エラルドは真剣な眼差しでノストラに懇願した。


「僕も加勢するよ、エラルド。」


「アベル、てめえはすっこんでろや!」


「そんなこと言わないでよ。相手があのウィンザーならさ、2対1でも卑怯じゃないでしょ?」

アベルとエラルドが少し揉め始めた。


「エラルド…アベル…おどれら改心したのは良い事じゃがのう、満身創痍のおどれらにウィンザーの相手はキツいぞ?」


「こいつはバスクを殺したんです。お願いします、俺にやらせてください…!」

エラルドは強い覚悟を決めた眼差しで言った。


「エラルド…おどれ前に会った時よりも良い目をしとるのお。わかった、好きにせい。」

エラルドの熱意に負けたノストラは、渋々意を汲んで引き下がった。


「足引っ張んなよ、アベル。」

「こっちのセリフだよ。お前こそ感情的になって脳みそまで硬化しないように気をつけなね?」


「異能者2人が相手か、面白いね。お前らはそれなりに楽しませてくれると期待してるよ。」


エラルド・アベル対ウィンザー。


「ウィンザーは若いもんらに取られちったからのう、わしら2人で仲良く師弟対決といこうか、ハルディオス。」


「図に乗るなよ、老いぼれが。」


ノストラ対ハルディオス。



「あぁ〜…あぁ〜…血を…真っ赤な鮮血をくれ!!」バリーザリッパーは激しい殺人衝動に駆られ、目の前の獲物に対して大興奮していた。


「…キモ。」

「病院行ってこいよ、頭のおかしな奴は社会の脅威だからな。」

ラベスタとエスタはバリーザリッパーに軽蔑の眼差しを浴びせていた。


ラベスタ・エスタ対バリーザリッパー。



「若い女の、肉!喰わせろぉ!」

ガンニバリルドは涎を垂らしながら、ジェシカとモエーネ、アマレットの3人に向かって飛びつこうとした。

3人はかなり顔が引き攣っていた。


まずはじめに、ガンニバリルドはジェシカに飛び付こうとした。


しかし、ノヴァがとてつもない速度で間に入り、ガンニバリルドの顔面を蹴り飛ばした。


ガンニバリルドは蹴り飛ばされたというのにニヤニヤしていた。

どうやらノヴァの攻撃が全く効いていないようだった。


「この女に手出すんじゃねえよ。」

ノヴァは怒りのあまり、無意識にこんな言葉を吐き捨てた。


こんな状況だというのに、ジェシカはノヴァのこのセリフに思わず胸がキュンとしてしまった。


「どんな理由があろうと女に手をあげる野郎は最低最悪のゴミクズ野郎だ。おい男の風上にも置けないブサイク!俺がレディーファーストってやつを教えてやるぜ?」

ロゼが言った。


「あははっ…メインディッシュの前に、前菜を!まずは喰わなきゃなぁ…!」

ガンニバリルドの食人衝動の矛先が、ロゼとノヴァに向けられた。


ロゼ・ノヴァ対ガンニバリルド。


ダルマインは大きな岩肌の影に隠れ、亀のように丸まってガタガタと震えていた。



ついに、最終決戦の火蓋が切られた。


ついに始まる、使徒隊筆頭戦力との戦い!

各々対戦相手が決定!

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