2-19
ロゼとバスクの想い…
「はっ…!」
エンディは目を覚ました。
自身のやるべきことを思い出して我に帰ったエンディは、空を見上げた。
そして、バベル神殿のあまりの高さに圧倒された。
「とんでもねえ高さだな…。よし、待ってろよラーミア!すぐに助けてやるからな!!」
エンディは叫んだ。
そして神殿に向かって走り出した。
エンディ以外のみんなは、既に神殿内に侵入している様だった。
ラベスタは早速ユドラ帝国の憲兵隊に見つかったが、戦おうとはせずにコソコソと逃げ回っていた。
「雑魚を相手にしている暇はない。いつ使徒隊とぶち当たってもいい様に体力は温存しておこう。」
これがラベスタの考えであった。
一方その頃ロゼとバスクは、あるフロアのある部屋の前に来ていた。
「着いたぜ。俺の戦う理由を知りたいんだろ?その答えはこの扉の向こうにある。」
バスクはそう言って、ゆっくりと扉を開けた。
ロゼはごくりと固唾を飲んだ。
扉の向こう側に何があるのか気になって仕方がなく、ソワソワしていた。
「あー!バスクおじちゃん!!」
扉を開けると、30名ほどの無邪気で可愛い幼児達がキャッキャとはしゃぎながら出迎えてきた。
「おうオメエら!良い子にしてたかあ!?」
バスクが優しくそう言うと、幼児達は一目散にバスクに飛びついてきた。
「遊ぼう!バスクおじちゃん!」
「今日は何して遊んでくれるの?隠れんぼ?」
「僕鬼ごっこがいい!!」
「…は?」
あまりにも予想外の出来事に、ロゼは口をポカーンと開けながら唖然としていた。
「このピンクのお兄ちゃん誰〜?」
「ピンクのお兄ちゃん!遊ぼう!!」
幼児達はロゼの周りにも集まってきた。
「私が鬼だよー!みんな早く隠れて!」
1人の女の子がそう言うと、幼児達はワーッと散らばって走り出し、隠れ場所を必死に探していた。
いつの間にか、隠れんぼが始まってしまった。
子供の遊びというものは、突然始まるものだ。
「おいバスク、これは一体…?」
ロゼは戸惑っていた。
「おうロゼ、俺たちも隠れるぞ!」
バスクは乗り気だった。
バスクとロゼはバルコニーに出た。
そして、机の下に隠れた。
「おいバスク、あのガキどもはなんだ?」
「あいつらは神央院の幼稚舎のちびっ子どもだ。可愛いだろ?今は昼休みなんだよ。」
神央院とは、バベル神殿内に存在する、いわば魔法憲兵の養成学校だ。
「バスク、お前の戦う理由ってまさか…?」
ロゼは何かを勘づいた様な言い方をした。
「察しがいいな…ちびっ子たちの未来を守る。俺はその為に戦ってるんだ!」
バスクは声高らかに言った。
ロゼは驚いた。
この国にそんな思想を持つ戦士がいるのか…と。
「おい、下を見てみろ。」
バスクは机の下から出て、バルコニーから下を眺めていた。
ロゼはバスクの言われるがまま、下を覗いた。
バルコニーの下には、広く綺麗な空中庭園があった。
そこには、10代前半くらいの少年少女たちが複数人いた。
ロゼは彼らの顔を見てゾッとした。
まるで、血の通わない人造人間の様な表情をしていたからだ。
「大体あれくらいの歳になるとな、あんな風になっちまうんだよ。無垢なちびっ子たちは、教育という名の洗脳を受けて純粋な心を失っちまう。あの無邪気なちびっ子たちもよ、近い将来ユドラ人の歪んだ思想にどっぷり浸かっちまうんだよ。」
バスクは、楽しそうに遊ぶ幼児たちを切ない表情で見ていた。
ロゼは黙ってバスクの話を聞いている。
「あまりでかい声じゃ言えねえが…俺は自分も含めてユドラ人を高尚な存在だと思った事もないし、自分たちが神だと思ったことも一度もない。こんなクソの掃き溜めみてえな国、虫唾が走るぜ。」
「おいおい、そんなこと言って大丈夫なのかよ。雷帝さんの耳に入ったら消されるぜ?」
ロゼは心配する様に言った。
「…でもな、こんな国にも子供が産まれてくるんだ。それだけが唯一の希望だ。こいつらが大人になる頃にはよ、今より少しでも良い世の中になっていて欲しいんだ。子供の頃の純粋な気持ちも忘れないでほしいしな…だから俺はこいつらを守ってやりたい。そして若い世代に希望を託す…おこがましい気もするが、それが俺の使命だと思ってる。」
バスクはとても優しい顔をしていた。
ロゼは外の景色を眺めながらしばらくボーッとした後、重い口を開いた。
「俺は‥権力者って連中が死ぬほど嫌いだ。どんな人格者や善人に見えても、蓋を開けてみりゃ所詮は我欲の塊だ。王族の生まれってだけで、ガキの頃から気持ち悪い薄ら笑いを浮かべた大人どもがたくさん寄ってきたよ。ヨダレ垂らした汚い欲に塗れた大人どもがな。人間は自分の保身のためなら平気で嘘をつくし裏切る。そんな奴らの末路は悲惨なもんだったぜ?堕落していく奴らは止めようがない…。ほんと世の中汚いぜ、嫌になるくらいにな。歴史の真実ってのは、机上で教科書の文字の羅列を眺めてるだけでは伝わらないくらい残酷な破壊力がある。」
バスクは静かにロゼの話を聞いていた。
ロゼは無意識に、バスクに心を開いている様だった。
「だけどよ、こんな汚い世界でしか見つけられないモノも、確かにあるんだ。世の中には、損得勘定で動かない人間も少なからずいるんだ。だからよ、世の中まだまだ捨てたもんじゃないって思えるぜ?俺はよ、そういう奴らの期待に応えたいんだ。」
ロゼはこの時、エスタ、ジェシカ、モエーネ、そしてエンディの顔を思い浮かべていた。
「ロゼ〜、お前も随分と風変わりな王子だな?」
バスクは優しく笑いながら言った。
「バスクおじちゃんとピンクのお兄ちゃんみーつけたっ!!」
ロゼとバスクは、鬼役の少女に見つかってしまい、思わずビクッとした。
「おじちゃん!次は鬼ごっこしようよー!」
子供達がバルコニーに続々と入ってきて、ロゼとバスクに駆け寄った。
「わりいなオメエら!これから仕事があるからよ、今日はもう帰るわ!また遊んでやるからよ?」
バスクは申し訳なさそうに言った。
「え〜、おじちゃん、もう帰っちゃうの?」
子供たちはとても寂しそうにしていた。
「バスク…仕事って?」
ロゼが尋ねた。
「決まってんだろ、侵入者どもに挨拶してくるんだよ。ロゼよ、お前が何の目的でこの国に来たのかは敢えて聞かねえよ。だけどよ、お前はお前の信念を貫けよ?まあ歩む道は違うけどよ、お互い頑張ろうぜ?」バスクはそう言って、ロゼに右手を差し出した。
それを見たロゼも、少し照れ臭そうにしながら右手を差し出した。
2人は固い握手を交わした。
「また隠れんぼしようぜ?」
ロゼはニコッと笑いながら言った。
「ああ、そうだな。ロゼ、達者でな!」
バスクはそう告げて、部屋を後にした。
ロゼはバスクの大きな背中をしっかり見届けた。
子供たちは寂しそうな顔でバスクを見送った。
「ピンクのお兄ちゃん、遊んでよ〜!」
「わりいな、俺もこれからやらなきゃいけねえことがあるんだ。」
ロゼは駆け寄ってきた子供達にそう言った。
子供たちはとても残念そうにしていた。
ロゼは部屋を出る直前、子供達に
「おい…何も頑張ってない癖に足ばっか引っ張ってくるつまらねえ大人達に負けるなよ?」
と言い残して出て行った。
子供たちは、ロゼの言っている言葉の意味が分からず、ポカーンとしていた。
一方その頃、エスタとジェシカ、モエーネは神殿内を走っていた。
3人で固まりながら、ロゼを探してひたすら上層階を目指していた。
「もう!この広さに部屋の多さ…どうやって探せばいいのよ!」モエーネはうんざりしていた。
「あんたさっきからうるさい!文句ばっか言わないでよ!」ジェシカは苛立っていた。
「何よ偉そうに!あんたこそ何ピリピリしてるのよ?」モエーネは煽る様に言った。
「おいお前ら、こんな時に喧嘩すんなよな。落ち着いてゆっくり探そうぜ?」
エスタは冷静だった。
ジェシカとモエーネはバチバチに睨み合っている。
そうこうしているうちに3人は、いつの間にか巨大な扉の前に来ていた。
重厚な扉だった。
「この部屋…なんか怪しいな。」
謎の勘が働いたエスタは、その扉を恐る恐る開けた。
ジェシカとモエーネも、エスタに続いた。
広く天井の高いその部屋は、床も壁も天井もピンク一色で、とても女の子らしくて可愛い部屋だった。
クマとウサギのぬいぐるみが散乱していて、奥にはまるでお姫様でも眠っている様なお洒落で高級感の漂うキングサイズのベッドがあった。
「何この部屋…可愛すぎる〜!」
モエーネは瞳をキラキラと輝かせていた。
「私の部屋とは大違いね…。」
ジェシカは何故か劣等感を感じていた。
「なんか嫌だなこの部屋…入らなきゃよかったぜ。おい、さっさと出ようぜ?」
エスタがそう促すも、ジェシカとモエーネは聞く耳を持たず部屋を物色し始めた。
「あらあら、勝手に人の部屋に上がり込んじゃって…ナカタム人って礼儀がないのね?」
扉の奥からこんな声が聞こえた。
エスタ達は扉の方向を振り向き、即座に臨戦態勢に入った。
声の主は使徒隊の1人、アマレットだった。
「ようこそ、バベル神殿へ。」
アマレットはクスクス笑いながら言った。
エスタ達は、この女が只者じゃないと悟り、一気に緊張感が増した。
ついに使徒隊と激突!




