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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
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2-10

バレンティノVS謎の男


エンディは、ドクンと自分の心臓の高まりを感じた。


このフードを被った黒装束の男は何者なのだろうか。


どこかで感じたことのあるこの空気感。

ひょっとすると、どこかでこの男と会ったことがあるのではないかと、エンディは直感した。


「誰だろうね、あれ。」

ラベスタは黒装束の男を指差しながらエンディに向かってそう言ったが、エンディの耳にその言葉は届いていなかった。


「フフフ…君、どういうつもり?」

バレンティノが問いかけても、男はうんともすんとも言わなかった。


「フフフ…何者か知らないけど、怪しいねえ。君もエンディと一緒に来てもらおうか。抵抗するなら殺すけどね。」

いつも口周りにスカーフを巻いていて表情が全く読めないバレンティノだが、この時は目元が若干笑っているように見えた。


その不気味な目つきに、エンディとラベスタはゾッとした。


付近の住民たちも、何やら只事ではないことを察してザワザワし始めていた。


普段、人々に全く姿を見せない団長の1人が、城下町の中心で、謎の男と対峙しているというあり得ない光景に恐怖を感じ、恐る恐るその場を立ち去っていく者がほとんどだった。


バレンティノは剣を抜き、初手でいきなり男の首を斬りつけようとした。


すると、男は腰から2本の剣を抜いた。

左手に持っていた剣でバレンティノの攻撃を防ぐと、辺り一体に衝撃波のような波動が走った。


せっかく復旧してきた城下町だったが、地面はひび割れ、近くの建物は再び倒壊してしまった。


「うわあー!」「危ねえな、逃げるぞ!」

住人たちは一目散に逃げ出した。


男は右手に持っていた剣でバレンティノを斬りつけようとしたが、バレンティノはそれを難なく躱した。


バレンティノが人間離れした強さを誇っていたことは周知の事実であったが、この黒装束の男もとてつもなく強かった。


エンディとラベスタは、男の強さを肌で感じていた。

実力者2人の非常にレベルの高い戦闘に目が離せず、内心ではワクワクしていた。


「フフフ…へえ、やるねえ。二刀流かあ、すごいねえ。」バレンティノは感心していた。


黒装束の男は相変わらず、うんともすんとも言わなかった。


「フフフ…ねえ、何か喋ってよ。」

バレンティノは嫌気がさしたような口調だった。



男はおもむろに、2本の剣をバレンティノに向かって振り上げた。


そして、2本の剣の刀身に魔力を収束させ、青白い斬撃の波動を発生させた。



それは十字の形をしていて、まるで巨大なカマイタチの様だった。


十字の形をした青白いカマイタチが矢の如く放たれ、バレンティノに襲いかかった。


バレンティノは両手で剣の鞘を握りしめ、切っ先で攻撃を防いだ。


巨大な力と力の衝突は、激しい応酬を見せた。


バレンティノは最初焦っていたが、最後には涼しい顔をして十字型のカマイタチをかき消した。


男の攻撃を相殺し、一段落して辺りを見渡すと、エンディとラベスタ、そして黒装束の男は忽然と姿を消していた。


逃げられてしまったか…と、バレンティノは確信した。


しかしバレンティノは、慌てて後を追うことはせず、静観していた。



黒装束の男はエンディとラベスタを両脇に抱えて、とてつもない速度で移動していた。


建物の屋根から屋根を飛び越え、瞬く間に人気のない静かな緑地へと入っては、木から木へ枝伝いに飛び移っていった。


ラベスタはあまりにも唐突すぎる出来事に困惑し、頭の中で疑問符が乱舞していた。


エンディは男に抱き抱えられていると、懐かしい気持ちと共に、何故か心が安らぐような感覚に陥っていた。


男の顔を覗き込もうとしたが、フードを深く被っているのと、あまりの躍動感が起因して顔を見ることができなかった。


エンディは男の顔を見るのを諦めて下を向いた。


すると、男のシワだらけの手の甲を見た。


ドクンと、心臓の鼓動が激しくなった。



「このしわくちゃの手…どこかで…え?まさか…。」エンディはボソッと呟いた。


背筋が凍りつき、全身の血の気が引いた。




3人は王都バレラルクの端にある山脈の麓へと辿り着いた。


そこは自然豊かで、透き通るように綺麗な泉があり、美しくて幻想的な場所だった。


男はエンディとラベスタをおろした。


ラベスタは強く警戒している様子で男をじっと見ていた。


エンディは尻もちをつき、冷や汗をかきながら呆然と男を見ていた。


「エンディ、どうしたの?」

エンディの様子が普段と違うと直感したラベスタが疑問を呈した。


ラベスタの目には、エンディは怯えている様に映っていた。


男はフードを取り、2人に顔を見せた。


男は白髪で、背の高い小粋な老人だった。


「久しぶりじゃな、エンディ。」

老人はかすれた声でそう言った。


ラベスタは、2人は知り合いなのか?と思いエンディと老人の顔をキョロキョロと交互に見ていた。


「その声…やっぱりあんた、あの時の…!!」

エンディは驚嘆した。



そして以前、丘の上の小さな病院の海を見渡せる庭で、ラーミアに話した事を思い出していた。


それは、記憶を失ったエンディが最も鮮明に覚えている古い記憶。


4年前の、ひどい嵐の夏の夜。


目を覚ますと海辺で横たわっていて、全身が痺れて動けなかった。


目の前には「エンディ!」とかすれた声で叫ぶ男。

手の甲にはシワ。顔は見えない。


気絶する以前の記憶が一切なく、置かれている状況が何も分からない。


全身が麻痺して身動きが取れず、声を発する事もできないエンディを置いて立ち去って行った男。


その男が今、眼前にいる。


エンディは愕然とした。


「エンディ…ずっとお前に会いたかった。」

老人は悲痛な表情を浮かべ、涙を流しながらそう言った。

この老人の登場で、色々と明らかになります

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