2-8
国葬
翌日、王都バレラルクの某広場で、レガーロ国王の国葬が急遽執り行われた。
時刻は正午をまわっていたが、曇り空のせいで日中とは思えないほど外は薄暗かった。
レガーロの亡骸が納棺された真っ白な棺の前には遺影が置かれていて、そのまわりには花束が手向けられていた。
遺影に写ったレガーロは、生前の厳格さを彷彿とさせるような威厳のある表情をしていた。
広場に駆けつけた国民達は喪服を身につけ、総じて悲しそうな表情を浮かべていた。
号泣している国民がほとんどだった。
広場を警備していた騎士団員や保安官の中にも、堪えきれずにボロボロと涙を流している者が何人もいた。
サイゾーも、いつもやる気のないクマシスですら涙を流していた。
3人の団長は、棺を前に毅然とした態度でドンと構えていた。
エンディは、この光景を目の当たりにして初めて、レガーロ国王の人望の厚さを理解した。
国中が、深い深い悲しみに包まれていた。
厳粛で暗いムードの中、棺は土に埋められた。
お墓は大きな十字架の形をしていて、それは立派なものだった。
雨がポツポツ降ってきた。冷たい雨だった。
まるで天までもが、レガーロの死を悼んでいるようだった。
「破滅の序曲が始まったな。」
重苦しい雰囲気の中、こんな不謹慎な発言をしたのはダルマインだった。
彼も一応、喪服を身につけ葬儀に参列しているようだった。
近くにいた旧ドアル解放軍の騎士団員数名が、ダルマインを凝視した。
「国王が暗殺され、王子も行方不明…さらに裏切り者が数人…こんなやべえ事をどれも未然に防げなかった時点で、完全にユドラ人共が一枚も二枚も上手だな?これからは瓦解の一途を辿るだけ。ナカタム王国ももう終わりだぜ?」
ダルマインは呆れた顔でそう言いながら、タバコに火をつけようとした。
すると、ドアル族の団員の1人が手を伸ばし、ダルマインが咥えているタバコを取り上げた。
「あんた、そんな言い方はあんまりだろ?本来なら処刑されてもおかしくない俺たちを…レガーロ国王も、バレラルクのみんなも迎え入れてくれたんだぞ?生き直すチャンスをくれたんだぞ?相手がユドラ人だかなんだか知らないが、みんなで一緒に戦おうって気持ちにならないのか??」
タバコを取り上げた団員がそう言った。
周りにいた者達も、ダルマインに対して信じられないものを見る様な冷ややかな眼差しを向けていた。
「なんだぁてめえら…上等じゃねえかよ?」
ダルマインは怒りに打ち震えながらそう言った。
かつての部下達に反論され、大層ご立腹の様子だった。
拳を振り上げようとするダルマインに、エスタが遠くから殺気を放った。
エスタに気づいたダルマインは拳を下ろし、大きな舌打ちをした後に、しおらしくしていた。
モエーネとジェシカは、そんな様子を見て呆れ返っていた。
しかしそれ以上に、殺害されたレガーロ国王を悼み、悲痛な気持ちになっていた。
国中が、まるで深い闇の底に突き落とされたような雰囲気に包まれていた。
葬儀が終わり、雨が止んだ。
王宮内のとある一室に、3人の団長が集結していた。
モスキーノはとてもカリカリしていた。
「おいモスキーノ、少し落ち着けよ。」
ポナパルトが言った。
「うるせえな、黙れよ!レガーロ国王が殺されたんだぞ!?ロゼ王子も消息不明だし…マルジェラの野郎は久しぶりに顔出したと思ったらユドラ人側に付いてるし…これで落ち着けるわけねえだろ!?」
モスキーノは怒鳴り散らしていた。
「テメェだけじゃねえんだよ!こっちだって腹わた煮えくり返ってるのを必死に我慢してんだよ!これからでけえ戦いが始まるのは確実だ!この国の最強戦力である俺たちが取り乱してどうするんだよ!?頭冷やせ馬鹿野郎!」
ポナパルトに怒鳴り返され、モスキーノは少しだけ冷静になった。
「フフフ…そうそう、今は内輪揉めしている場合じゃないよねえ。で、お二人さん…これからどう動く?」バレンティノが落ち着いた口調で言った。
「決まってるでしょ。ユドラ人は1人残らず
皆殺しだよ?」
モスキーノはいつもの明るい笑顔でそう言った。
さっきまで血走った目で瞳孔を大きく見開きながら怒鳴っていたのが、まるで嘘のような笑顔だった。
その変貌ぶりと狂気を感じさせる笑顔に、ポナパルトは微かに恐怖を感じていた。
一方その頃、エンディは下宿先の狭い部屋で1人、物思いにふけっていた。
床にぺたりと座り込み、色々なことを深く考え込んでいる様子だった。
しばらくすると、ゆっくりと立ち上がった。
「よし、決めた。」
窓から差し込む小さな日差しを見つめながら、静かにそう呟いた。
何を決めたんだ?




