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火急の事態!
「あわわわわわ…。」
アルファは絶句している。
ようやくロゼの居城の掃除を終わらせて、みんなに混ざろうと思い屋上庭園に来てみたら、みんな爆睡しているからだ。
そして、ラーミアがどこにもいないことに気が付き、気が動転している様子だった。
「た、た、大変だぁ〜〜!!」
アルファは只事ではないと察し、勢いよく外へ飛び出した。
すると、カインがムクリと起き上がった。
「なるほど、睡眠薬か。サンドイッチを一口も食べてない俺が倒れても、一切不審がられなかったな。」
そう独り言を言った後、カインはエンディの顔を軽く蹴って起こし、単身森林地帯へと入って行った。
カインに顔を蹴られたエンディは、顔を押さえながらゆっくりと起き上がった。
そして状況を把握し、一気に眠気がさめた。
「おいみんな!!起きろよ!!」
エンディは大声を出して、ロゼ達の身体を激しく揺さぶった。
「これで良かったんだよね…。」
ラーミアは寂しそうな顔をしながら、インドラを目指して1人で森の中を歩いていた。
「エンディ…また会いたいなあ。」
そんな声が、静寂の森の中に虚しく響き渡った。
すると、後ろからアルファが全力疾走で追いかけてきた。
「ラーミアさーん!!」
「アルファ君!?」
ラーミアはびっくりしてしまった。
アルファの服は泥だらけだった。おそらく、道中で何度も転んだのだろう。
アルファはフラフラになりながらラーミアの腕をつかんだ。
「何してるんですか!戻りましょうよ!」
「だめだよ。そんなことしたらみんなに迷惑かかっちゃう。」
「エンディさん達は迷惑だなんて思ってないですよ!1人で行くなんて無茶です!」
「こうするしかないの!もう決めたことだから邪魔しないで!」
ラーミアが強めにそう言うと、アルファは少しビクッとした。
「そ、そこまで言うなら…ボクも一緒に行きます!」
アルファがそう言うと、ラーミアは反応に困ってしまった。
すると、そこにダルマインが登場した。
「ラーミア〜、探したぜ?」
ダルマインは獲物を見つけた野獣の如くニヤニヤしていた。
「提督さん?何してるの?」
ラーミアは意表を突かれて驚いていた。
そしてダルマインは、ラーミアの体を乱暴に抱き抱えた。
「お前をギルドに引き渡す。悪く思うなよ?」
「ちょっと待って!あなたがそうしなくても、私は今からインドラに向かうつもりだったのよ!?」
「は?どういうことだ??」
ダルマインは不思議そうな顔をしていた。
すると、アルファがダルマインの服を両手で掴み、引っ張った。
「ラ、ラーミアさんを…はなせ…!」
アルファは勇気を振り絞ってダルマインに立ち向かった。
「はあ?なんだこのガキ!」
ダルマインはアルファの腹部を思い切り蹴り上げた。
アルファは悶え苦しんでいた。
「アルファ君!!ちょっとあなた、なんてことするの!やめて!」
「うるせえ!早く行くぞ…痛えっ!!」
アルファに腕を噛みつかれたダルマインは、断末魔のような叫び声をあげた。
「ラーミアさんに触るな!!」
「このクソガキ…!!」
憤慨したダルマインはアルファを蹴り飛ばし、何度も何度も踏みつけた。
「お願い!もうやめて!アルファ君が死んじゃう!」ラーミアが泣きながらそう言うと、ダルマインは攻撃をやめた。
アルファは血だらけになって気絶している。
「お願いおろして!アルファ君を治さなきゃ!」
「うるせえ!そんな暇はねえ!」
ダルマインはラーミアを片手で抱えたまま、急いでインドラへと走って向かった。
「ちくしょう、睡眠薬か…イカついぜ。」
「ラーミア…やっぱり自分だけ犠牲になろうと…。」目を覚ましたロゼとジェシカが言った。
「カインがいないな…。あいつは一足先にラーミアを追ったのか?」エスタはまだ少し眠たそうだった。
エンディは深刻な表情でしばらく黙りこくった後、無言で走り出した。
そして、屋上から王宮内の塀へ飛び乗り、森の中へと入って行った。
「待てエンディ!俺たちも行くぞ!」
ロゼ達は急いでエンディの後を追った。
「お待ちくださいロゼ王子!今急に動くのは危険です!」サイゾーのそんな言葉には誰も耳を貸さず、ロゼとエスタ、ジェシカとモエーネまでも森の中へ入って行った。
「大変なことになった…。」
サイゾーは青ざめた顔でそう言うと、急いで玉座の間へと向かった。
クマシスは寝たフリをしている。
エンディ達の慌ただしい動きに、アズバールとジャクソンが気がついた。
2人はカインを探していて、木の上から偶然にもインドラへ向かうエンディ達を見かけたという感じだった。
「あの黒髪のガキ、生きてやがったのか。金髪のガキがいねえな」
「ええ。しかしラーミアを連れずにインドラの方へ向かうとは…奴ら、奇襲でもする気ですかね?」
「だろうな、こっちの条件を踏み倒す気だ。手始めに避難所にいるナカタム人を皆殺しにするか。」アズバールは冷酷な笑みを浮かべながら言った。
アズバールは遠く離れた木も操ることができるようだ。
その場所の様子も、自らが出現させた木を通して目視することができるのだ。
インドラを囲む大木を操り、大量の枝がクネクネと波打つように動き出した。
そして、その鋭利な先端をもつ大量の枝は避難所に向かって勢いよく伸びていった。
しかし、凶刃が避難所へと到達する寸前で、全ての枝が燃え始め、瞬時に灰と化してしまった。
「まさか…!」カインがインドラの近くにいると、アズバールは強い確信を持った。
「どうかしましたか?」
「ジャクソン、俺たちもインドラへ向かうぞ。」
「?…はい。」
アズバールとジャクソンはインドラへが着陸している演習場へと向かった。
一方、インドラのコックピット内では、ギルド総統が退屈そうに頬杖をついている。
「もうすぐで12時間経つが、なんの動きもねえな?アズバールは出て行ったまま帰ってこねえし。あの野郎、俺の専属ボディガードまで勝手に連れ回しやがって…暴れるしか能の無え低脳魔法族の分際で!」
ギルド総統は激しく憤っていた。
専属ボディガードとは、ジャクソンの事を指していた。
「ギルド総統!」男が1人、血相を変えてギルド総統を訪ねてきた。
「なんだようるせえな!」
「申し訳ございません…。捕らえていたノヴァファミリーのメンバー14名が、いつのまにか脱走していました!」
「そんなどうでもいい事いちいち報告してくんな!大体、てめえら何でギャングなんざ捕らえてきたんだ?拷問して吐かせたい事もねえし、人質にもならねえじゃねえか!」
ギルド総統がそう怒鳴り声をあげると、報告に来た男は萎縮してしまった。
そして、何者かに後ろから頭を強く叩かれ、気絶した。
「お、おいどうした!?」
ギルド総統はひどく取り乱しながら言った。
すると、コックピット内にノヴァが入ってきた。
「あいつらは俺が逃したんだ。かつての部下を巻き込むわけにはいかねえからな。」
「部下?巻き込む?どういう意味だ?てかてめえ誰だよ!」
するとノヴァは、ギルドのアゴを思いきり蹴り上げた。
「さあ、これから俺と一緒に心中してもらうぜ?ドアル解放軍よ」ノヴァはニヤリと笑ってそう言った。
憎しみの果てに、ノヴァは何を企む?




