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まるで緊張感のない一同
翌朝、時刻は午前7時を回った。
約束の時間まで、残り2時間をきっている。
エンディ達はロゼの居城の屋上庭園で、観葉植物に囲まれながら優雅に朝食のサンドイッチを食べていた。
「まだまだあるから、どんどん食べてね!」
ラーミアは相変わらず気丈に振る舞っていた。
「静かだな…」
エンディはサンドイッチを頬張り、屋上からアズバールが発生させた広大な森林を眺めながら言った。
「ね、静かすぎる」ラーミアが言った。
城下町の国民の命が人質にとられているというのに、王都一帯は不気味な静寂に包まれていた。
「このまま何も起こらなければいいのにね。」ジェシカはラーミアの肩にポンっと優しく手を置いて言った。
「嵐の前の静けさってやつだな。」ロゼが呑気に寝そべりながらそう言うと、カインが続けて喋り始めた。
「そろそろ何か仕掛けてくるはずだぜ?あのアズバールって男が、いつまでも大人しくしているとは思えねえ。」
カインは、まるで自分が狙われている事を確信しているような口ぶりだった。
「あいつは来るだろうな。団長相手にリベンジでも狙ってんじゃねえか?」
「ロゼ王子、それはどう言う意味ですか?」
エンディは不思議そうな顔でキョトンとしていた。
「アズバールは4年前、うちの団長だったマルジェラにやられてるんだよ。」
「マルジェラ?そんな人がいたんですか?」
「4年前までは、団長は4人いたのよ。今はマルジェラさんが抜けて、3人になっちゃったけどね」ジェシカが間に入ってきた。
「一体何があったんですか?」
エンディは興味津々な様子で聞いた。
「4年前…第五次魔法大戦が終盤に差し掛かってた頃だ。アズバールが反ナカタム王国派の魔法族を世界中から集めてよ、大軍率いて王都目指して侵略しようとしてきたんだよ。まあ、魔法戦士の数もうちが圧倒的に多かったし、4人の団長はバケモンだし、戦局はこっちが有利に思われていた…だけどな、実際はかなり苦戦を強いられたんだ。」
「え?どうしてですか?」エンディがそう聞くと、ロゼは再び話し始めた。
「それがアズバールの野郎、意外と策士でよ…単なる頭のネジ外れた殺戮マシーンじゃなかったんだよ。奴の奇襲作戦にどれだけ手こずったか…。オマケに魔法族嫌いのドアル族の科学者までも取り込んでよ、科学兵器まで使ってきたんだ。無人爆撃機とか毒ガス兵器とかな。犠牲になったのはほとんど無抵抗の市民だった…戦争らしいよな。」
ロゼは悲しそうな顔で言った。
「だけど1番厄介だったのがアズバールの能力だ。あの野郎、戦地に今みたいに森林地帯作ってよ、近づこうとすると太い枝が襲ってきてうちの兵士たちを何人も串刺しにしやがったんだ。マルジェラはそんな森林地帯に1人で入って行ったんだ。」
「1人で!?そんな危ないところに!?」
エンディは声を上げて驚いていた。
サイゾーも固唾を飲んで話を聞いていた。
「マルジェラが入ってすぐに木がゆっくりと地中に戻っていってよ、ただの荒野に戻ったんだ。見に行ったら、首を斬られて血まみれになったアズバールが倒れてたんだ。だけどマルジェラの姿は無く、アズバールは木と一緒に地中に潜って逃げたんだ。あれだけ血を流してたから死んだと思ったけどな…」
ロゼは怪訝な顔で言った。
「最後までナカタムに歯向かってきたアズバールの敗北で、ようやく名実ともに第五次魔法大戦は終結したのよ。なんだか…今思い返してみても、呆気ない終わり方だったわ…」
ジェシカはどこか切なそうな顔で言った。
「ナカタム王国ってのはすげえ嫌われっぷりだな。他国の魔法族のみならず自国の非魔法族にまで恨まれて…今じゃその自国の反乱因子に足元掬われて、国民まで人質にとられて、国家転覆寸前だもんな?」
カインが皮肉な笑みを浮かべてそう言うと、ロゼは少しムッとしていた。
「マルジェラさんはそれ以来、行方不明なんですか??」エンディが空気を変えようと気を利かせたつもりでそう言うと、ロゼは静かに頷いた。
沈黙した気まずい雰囲気を払拭するように、エスタが大きな声を出した。
「おいそこ!何サボってんだ?シャキッとしろ!」
エスタは屋上から、王宮の庭園の警備を任されている騎士団員を注意していた。
2人の団員が、日陰に隠れて仕事をサボっていたのだ。
「うるせえよクソガキ。」
「ガキのくせに偉そうに…。」
注意された騎士団員は、わざと聞こえるような声で愚痴をこぼした。
「ちょっと!シェリフに向かってなんて口の聞き方なの!?」モエーネが怒鳴り声を上げると、団員達は逃げるようにして持ち場に戻って行った。
いくら組織が違うといえど、エスタは保安官のトップ。
一般の騎士団員が暴言を吐くなど、言語道断だった。
「エスタ君、気にしちゃダメだよ?」
「そうそう、言いたい奴には言わせとけばいい。お前まだ子供なのにすげえよ。」
ラーミアとエンディがエスタを励ました。
「別に気にしてないよ、慣れてるし。」
エスタは本当に気にしていないようだった。
「いまだに年功序列なんて古い考えに取り憑かれてる奴いるんだ。気持ち悪い、死ねばいいのに!」
「クマシス…それは言い過ぎだと思うぞ?」
サイゾーは引き気味に言った。
「出来るすぎる子供は出来損ないの大人に嫌われるからね。」エスタは鼻で笑いながら、皮肉を込めて言った。
「大人ってのはどいつもこいつも子供に対して自分を敬うように強要するからな。歳とって自分が偉くなったと勘違いしてるのか知らねえが、目に余る馬鹿が多すぎるぜ。どうして子供から尊敬されるような大人になろうって思えないんだろうな?」
ロゼがそう言い終えると、屋上庭園にレガーロが入ってきた。
「それは私への当て付けか?」
「クソ親父、てめえ何しにきやがった?」
ロゼは起き上がり、レガーロを鋭い眼光で睨みつけた。
レガーロ国王、突然の登場!




