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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
23/158

1-22

神父との約束、、

呆然とするノヴァとラベスタは、封印していた記憶の鍵を開け、過去の追憶に浸っていた。


2人はかつて、自分たちの選んだ復讐という道を正当化するために、自らに蓋をしていたのだ。


悲劇が起きたあの日。

燃え盛る修道院、殺されてしまったシスター、火災に巻き込まれて焼死した仲間たちの情景が、鮮明に脳裏を過っていた。


「うわあああん!みんなぁ!」

幼い頃のノヴァは絶望し、泣き叫んでいた。


ラベスタは恐怖でガタガタと震え、立つことすらままならぬほどに怯えていた。


そんな二人に優しく声をかけたのは、虫の息の神父だった。


騎士団員に扮したドアル族に背中を滅多刺しにされた神父は、命の灯火が消えそうになる寸前でも無理に笑顔を作り、たまたま近くにいたノヴァとラベスタに、うつ伏せ状態のまま語りかけたのだ。


「ノヴァ君…ラベスタ君…私は君たちも…他の子供達も…心の底から愛している。私はもう死ぬけど…君達はどうか…みんなの分も生きてくれ‥力強く…前を向いて…生きてくれ。決して復讐に取り憑かれるな…君達のその清らかな優しさを…純粋で綺麗な心を…どうか忘れずに…いつまでも変わらない君たちでいてくれ…」神父は最期にそう言い残し、息絶えた。


しかし、それからのノヴァとラベスタは、神父の遺言とは、まるで真逆の生き方をしてきた。



誘拐後、ドアル族に戦場を連れ回される日々の中で、理不尽に受けてきた痛み。

無惨に殺され、ゴミのように捨てられた仲間たち。

連中から逃げ出し、各地を転々とする日々で、魔法族から向けられた蔑視の目。


そんな日々を送ってきた二人は、とても神父の言う通りに生きる気になどなれず、神父の言葉を忘れたフリをして、魔法族へと復讐を糧に今日まで生きてきた。



しかし、それが全て、ドアル族による策略だったと知った今、果たして、二人は何を思うのだろう。



ノヴァはとても切なそうな表情浮かべていた。


ラベスタは崩れ落ち、泣いていた。


右手で両目を覆い、声を出さずに大粒の涙を流した。

「俺達は…今まで何のために戦っていたんだろう…。」今までの行いをとてつもなく後悔してる様子だった。


エンディもとても悲しそうな顔をしながら貰い泣きをしていた。


「もっと早くあいつらと向き合っていれば…こんな事にはならなかったのかもな。」

ロゼがそう言いながらエンディに近づいてきた。


「ロゼ王子!?いつの間に!」エンディはびっくりして思わず声を上げた。


「言葉って不思議だよな。言った本人は忘れていても、言われた側の人間はずっと覚えてる。何年も呪いみたいにしつこくまとわりついて人の心を蝕むこともある。けど言われて嬉しかった言葉ってのは、何年経っても御守りみたいに心に残るんだ。行き詰まった時には勇気を奮い立たせてくれて背中を押してくれる。辛いことがあった時には、心を救ってくれる特効薬にもなる。」

ロゼは優しく微笑みながら言った。


「良いと思った言葉は積極的に口に出した方がいいですね!」

エンディは涙を拭き、笑いながら言った。


ロゼはエンディの頭にポンっと右手を置き、「エンディ、お前はすげえ奴だぜ!」と言った。


「ふざけんなよ…。俺たちの4年間はなんだったんだよ…。本当に恨むべき相手であるドアル解放軍と取引までして…」


ノヴァはワナワナと怒りに震えている様子だった。

その怒りの矛先は自分自身に向いているのか、魔法族やドアル解放軍に向いているのか、自分でもわからないくらい頭の中がゴチャゴチャしていた。


すると、ノヴァの全身から黒い体毛がぐんぐん伸びていくのが見えた。

エンディとロゼは目を疑っていた。

ダルマインは気絶しそうになる程びっくりしていた。


「やめろノヴァ!」

ラベスタが珍しく声を荒げて叫んだ。


ノヴァはまるで、二足歩行の黒豹のような風貌になった。


「ほ〜う、異能者か。それも人獣タイプ!世界神話でしか見たことなかったが、まさかこの目で見れる日が来るとはなぁ!」ポナパルトが言った。


「へえ、これは強そうだな」カインも少し驚いている様子だった。


「異能者って‥ボスが…?」

「そんな…ボス、魔法族だったのか…?」

ノヴァファミリーの面々は、驚きを隠せない様子だった。


「はっ、魔法族を恨む集団のボスであるこの俺が…実は魔法族だったなんてよ。笑いたきゃ笑えよ!」

ノヴァは、ほとんど錯乱状態だった。


ノヴァは言った。

ラベスタと各地を転々と逃げ回っていた幼少時代、魔法族に対する激しい怒りで、異能者としての力に目覚めたと。

そしてこの姿は、親友のラベスタにしか見せたことがなかったこと。

そして、自分自身の身体に、憎悪の対象である魔法族の血が流れていることを心から恥じていたことを。


「俺たちは王宮を襲撃してクーデターを起こそうとしたんだ。怪我人も多数出てるしな。どうせ全員処刑だろ?」ノヴァは野獣のように鋭い目つきで言った。


皆、ノヴァの変わり果てた姿に怯えている様子だった。


「未遂で終わってるし死者も出てねえ。改心するなら俺が恩赦を出してやってもいいぜ?」ロゼは優しくなだめるように言った。


「もう今更後戻りはできねえんだ!行く道行ってやるよ!!」ノヴァは完全に正気を失っていた。


ロゼの居城前では、サイゾー、エスタ、ジェシカ、モエーネが緊迫した様子で警備をしていた。


すると、ラーミアが外に出てきた。


「あわわ…ちょっとラーミアさん、危ないですよお…。」ラーミアの後を着いてきたアルファが、ラーミアの身を案じて言った。


「どうしたの?」ジェシカが聞いた。

「なんだか…嫌な胸騒ぎがするの。」

ラーミアは星空を眺めながら、不安そうな表情を浮かべて言った。


正門前では黒豹化して、我を失っている凶暴なノヴァとポナパルトが睨み合っている。


「せめて団長の1人でも殺してやるぜ」


「おもしれえ、こいや!久しぶりに楽しめそうだぜぇ!」ポナパルトはかなりハイテンションになっていた。


「やめろよノヴァ!」エンディは叫んだ。

「ああなったノヴァを止めるのは難しい…」ラベスタは真顔で言った。


「おいおい、どーなっちまうんだよこれ?」

ロゼは少し呆れているような口ぶりだった。



まさに一触即発の状態。


2人の強者がぶつかり合おうとした次の瞬間、城下町中に爆音の警報が鳴り響いた。


あまりのうるささにビックリして、エンディは耳を塞いでしまった。


空から無数の爆弾が降り注ぎ、城下町は瞬く間に火の海と化した。



一同、一斉に空を見上げると、円盤のような形をした巨大な黒鉄のかたまりが空を飛んでいた。


あまりの突然の出来事に、エンディは思考が停止してしまった。


「なんだ…あれ?」


「まじかよ…城下町の奴ら避難させといてよかったあ…」街が焼かれたというのに、ロゼは前向きとも取れる発言をし、安堵していた。


円盤は、現在民衆の避難場所として使われている、騎士団の演習場に着陸した。



王宮の魔法戦士たちも、ノヴァファミリーの戦闘員たちも、激しく動揺していた。


ダルマインは今までにないくらいの激しさで体をガタガタ震わせていた。


「あああああ…あれは…ドアル解放軍だぁ…!あいつら、夜襲に来やがったんだぁ…!」

ダルマインがそう言うと、エンディはピクリと大きな反応をした。


「あいつらが来たのか…!」

エンディは身が引き締まる様な思いを抱きながら言った



「おいダルマイン、ドアル解放軍はあんなイカつい戦闘機を保有していたのか?」ロゼが聞いた。


「はい…あれはドアル族の優秀な科学者たちが駆使して作り上げた殺戮兵器"インドラ"です…!凄まじい破壊力を秘めた光線を放つと聞いたことが…」ダルマインは血の気の引いた青白い顔で答えた。


「光線?そんなの撃たれたら大変だ…!」

エンディは焦った様子で言った。


「いや、例えそんな光線を撃てたとしても、ラーミアがいる限り撃ってはこないだろう」

こんな時でもカインは冷静だった。


「あいつら…まだラーミアの力を利用しようとしてるのか…。」エンディは身が引き締まる思いに駆られていた。


「そうか、お前らラーミアの力のこと知ってたんだったな」

ロゼはそう言うと、辺りを見渡した。


ドアル解放軍の突然の夜襲に、皆腰が引けているようだった。


ダルマインは断末魔のような雄叫びを上げながら遥か遠くへと逃げて行った。


ノヴァはインドラが着陸した演習場の方角を、何やら遠い目をしながら眺めている。


「お、おい…やばくねえか?」

「いきなり来やがって…どうすりゃいいんだよ…」

戦士たちはザワザワし始めた。


すると、ロゼが今まで発したことがない様な大きな声を発した。


「うろたえるな!!」


ざわつきは一瞬でピタリとやんだ。


「俺が先陣を切る。迎え討つぞ!」

ロゼは怖気付いた部下たちに激励の言葉をかけようとしたが、ドアル解放軍はすでに侵攻を始めていた。


そのため、そんな悠長な事をしているひまはなく、手短に一言で済ませた。


しかしロゼのこの一言は、ナカタムの魔法戦士達の士気を高めるには充分だった。


先ほどまで意気消沈していた戦士たちの目は、まるで火を灯したようにギラギラし始めた。


「ロゼ、俺たちも行くぜ!」

「若!さすがのカリスマ性ですね!」

エスタとモエーネがロゼのもとへと駆けつけた。


「俺の背中は任せたぜ?エンディとカイン、お前らはラーミアを守ってやれ!」

ロゼがそう言うと、エンディは「はい!」と返事をして、ラーミアがいるロゼの居城へと向かった。カインもエンディの後を追った。



「よう王子様…悪いが、俺は俺で好きに動かせてもらうぜ?」

いつの間にか人間の姿に戻ったノヴァは、ロゼにそう言うととてつもない速度で演習場の方角へと走り出した。


「ボス!俺たちも行きます!」

ノヴァファミリーの戦闘員たちも士気が高まった様子で、ノヴァの後に続いて一斉に走り出した。


それを見ていたラベスタも、急いで後を追った。


「おい待てお前ら!…ったくしょうがねえ奴らだぜ。よし!俺らも行くぞ!」

ロゼがそう言うと、魔法戦士たちは「うおおおおぉ!」と声を発しながら、インドラが着陸した演習場へと向かった。



「エンディ!カイン!よかった無事で…!」

ロゼの居城に着いたエンディとカインを見たラーミアは、歓喜の声を上げていた。


「喜んでばかりいられないぞ。ドアル解放軍が攻めてきているんだ」 

「そうよ。おそらくまたラーミアを狙ってくるはず!」サイゾーとジェシカが言った。


「なんであいつら、こんなにしつこくラーミアを狙うんだろう…」エンディは首を傾げながら言った。


「外傷を完璧に治癒できる。そんな力を持った人間が味方にいれば向かう所敵なしだからな」カインが理に適った事を言った。


「ラーミアさんはボクがまもるんだぁ…!」

アルファはそう言いながら、木の棒をフラフラと振り回していた。


「ラーミア…あれ誰?」

エンディはアルファを凝視しながら尋ねた。


「給仕になったアルファ君よ。私の後輩!」


「あ、初めまして!エンディさんにカインさん!2人のことはラーミアさんから聞いています!ボクもお役に立てる様に精一杯頑張ります!」

アルファはそう言い終えた後、何もないところで突然転んだ。


エンディは、なんだか頼りなさそうな奴だなあ…と思いながらアルファを眺めていた。


カインはアルファをチラッと見たあと、すぐに視線を外した。

そして、本当にもう後戻りはできなそうだな…と、何か大きな覚悟を決めた様な表情で心の中で呟いた。



インドラからドアル解放軍の戦闘員たちがぞろぞろと降りてきた。

お決まりの戦闘服を身に纏って機関銃を両手で支え、足並みを揃えて行進していた。


ロゼたちは建物の物陰に隠れて様子を伺っていた。

「いいか?俺が合図したら一気に攻め込むぞ」ロゼが小声でそう言うと、エスタとモエーネは小さくコクリと頷いた。


後ろに控えている魔法戦士たちは、緊迫している様子だった。


ドアル解放軍が演習場の敷地から出ようとした瞬間、ロゼは合図を出そうとした。


しかし、ロゼが合図を出す前に、ノヴァが単身敵陣に乗り込んでしまった。


呆気に取られているドアル解放軍の戦闘員たちを、ノヴァはどんどん蹴り飛ばしていった。



「うおおおおっ!!」

そしてギャングのメンバーたちもノヴァに続き、怒号を発しながらなだれ込んできた。

先頭にはラベスタがいた。


ドアル解放軍対ノヴァファミリーの激闘が始まった。


「はぁ、調子狂うぜ。よし!俺たちもノヴァ達にに続け!!」


ロゼはそう言って、兵を率いて参戦しようとした。


すると、インドラから無数の小型ミサイルが発射された。


空から雨の様に小型ミサイルが降り注ぎ、人々は逃げ惑った。

小型とはいえ、殺傷能力はかなり高そうだった。


ドカーンと、大きな音が何度も鳴り響いた。


「引け!一旦引くぞ!」

危険を察知したロゼは、慌ただしい様子で兵を引き上げさせた。


ドアル解放軍の兵士たちも、ノヴァを相手に勝ち目がないと悟ったのか、インドラへと引き返していった。



ロゼが演習場の方を振り返ると、逃げ遅れたギャングの何人かは拘束され、インドラへと連行されていくのが見えたが、ノヴァとラベスタの姿は確認できなかった。


「ミサイルとは味な真似してくれるじゃねえかよ!」

ポナパルトが怒鳴るような大声で言った。


「ポナパルト!?お前も来たのか!?」

ロゼは驚いた様子で言った。


「ロゼ王子〜俺もいますよ!レガーロ国王にはバレンティノが付いてるから心配しないでくださいね!」

モスキーノはニコニコしながら言った。


「あんなクソ親父どうでもいいわ!それよりお前ら、何をする気だ?」ロゼが二人に尋ねた。


「決まってるじゃねえですか!あのクソ生意気なインドラとかいう飛行物体をぶっ壊しにきたんですよ!」ポナパルトはとても楽しそうな顔をしながら言った。


「ドアル解放軍共おぉ!全員俺がぶっ殺してやるぜえ!!」

ポナパルトはインドラに向かって雄叫びを上げた。


すると、演習場の地面から、アスファルトを突き破って無数の大木がインドラの周りを囲んで防御するように勢いよく生えてきた。


そして、大木の幹から分かれ出した無数の枝が、まるで触手の様に伸びて襲いかかってきた。


ロゼは槍を大振りしてその枝を切り刻んだ。

エスタとモエーネが咄嗟にロゼの前に出て、無尽蔵に生えては襲ってくる鋭利な先端をした枝を必死に防いでいた。


ポナパルトは驚くことに、襲ってくる枝の全てを握り拳をふるって跳ね返している。


モスキーノは軽い身のこなしでヒョイヒョイと避けていた。


攻撃が止んだ、と思ったのが束の間。

城下町の地面から突如、無数の大木が生えてきた。


空爆によって家屋が破壊され炎上している城下町の街並みは、一瞬にして密林地帯の様に変わり果てた姿になってしまった。


何が起きたのか理解できず、一同、頭の中が真っ白になってしまっていた。


「こりゃあ、やべえことになったな」

ポナパルトがいつもより少し小さな声で言った。


「おいおい、まさかこれって…。」

ロゼが冷や汗をかきながら言った。

エスタとモエーネは絶句している。


「間違いない、これはアズバールの能力だ…」

モスキーノが激しい見幕でそう呟いた。

一難去ってまた一難

ドアル解放軍夜襲!


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