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各々思う所があり…
エンディとカインは、王宮の敷地内にあるロゼの居城に来ていた。
居城の中は宝石が埋め込まれた装飾品が展示物のように並べられていて、とてもギラギラしていた。いかにも派手好きのロゼが住んでいそうな居城だった。
天井にはおなじみのシャンデリア。エンディは目をチカチカさせながら、落ち着きのない様子で部屋をキョロキョロと見ていた。
ジェシカとラーミア、ダルマインも来ていた。
エンディは、さっきノヴァとラベスタに会ってきた事と、二人からから聞いた話を、ロゼ達に詳細に説明していた。
「なるほどな。俺も今しがた、ダルマインから奴らが地下に潜伏していたことを聞いたところだ。それを聞いたお前が血相変えてパニス町に走って行ったと聞いたからよ、今から騎士団率いてカチコムところだったんだぜ?」
ロゼはエンディを心配していたようだった。
「ノヴァファミリーのトップの2人にそんな過去があったとはなあ。それにしてもその話、どこかで聞いた事があるような気がするなあ…なんだったっけなあ…」
ダルマインは偉そうに腕を組みながら、小骨が喉に突っかった様な表情でボソボソと言った。
「確かにこの国にはいまだに"魔法族至上主義"が根強く残っているわ。昔ほどではないけど…」ラーミアは深刻そうな表情で言った。
「憎しみの連鎖ね…私たち魔法族を恨む人達は国内にまだまだたくさんいる。ドアル解放軍だけじゃなかったってことね…」
ジェシカは真剣な顔で言った。
「俺は前々から、第五次まで続いた魔法大戦が全ての諸悪の根源だと思っていた。欲深い王族の傲慢なプライドのためにどれだけの人間が犠牲になったか…。魔法族至上主義だけじゃねえ…全魔法族の中じゃ"ナカタム人至上主義"なんて下らねえ大義名分掲げてよ…国の為だとか戦死した英霊達の無念を晴らす為だなんだの言って罪の無え国民まで巻き込んでよ…そんな無意味な戦いを500年も続けやがって!」
ロゼはそう言うと、バンッと力強く机を叩いた。
「ロゼ、感情的になるなよ。一国の王子ならもっとビッとしてろ」
いつの間にかロゼの横に幼い男の子が立っていた。
男の子はロゼに対して偉そうに意見をした。
エンディは、この生意気そうで可愛げのない男の子はいつの間に表れたんだろうと不思議に思っていた。
「何だあこのガキ?ロゼ王子に向かって無礼だぜ?よし、俺様がお仕置きしてやろう!」
ダルマインは指の関節をポキポキ鳴らしながら、男の子に対して威圧的な態度をとった。
「あらエスタ、いつの間に?」ジェシカが男の子を見て言った。
「おう、紹介するぜ!こいつは0番部隊隊長、エスタだ!全保安官の中でも最高位に位置するシェリフの称号を持つ男だ!まだ12歳だけどよ、めちゃくちゃ強えぜ?」ロゼは鼻高々に言った。
「じゅ、12歳!?」
「こんなガキがシェリフだとぉ〜!?」
エンディとダルマインは耳を疑っていた。
「そして私が副隊長のモエーネよ!」
ツインテールの派手な少女が、そう言いながら元気よく部屋に入ってきた。
結び目から下をピンク色に染めた、お洒落で可愛いらしくて、見るからにぶりっ子そうな少女だった。
ジェシカはモエーネを見ると、嫌な女が来てしまったと言わんばかりの冷めた顔をしていた。
「話は聞いたわ。ジェシカ、あんた1年もノヴァファミリーに潜伏してたくせに何も知らなかったのね?」モエーネは嫌味ったらしく言った。
「あら、何もしていないあなたに言われたくないわ?見た目ばかり気にしてチャラチャラしてる口だけ副隊長さん?」
2人はバチバチと睨み合っていた。
ジェシカとモエーネは犬猿の仲のようだ。
「おいおい、よさねえかお前ら。今は内輪揉めしてる場合じゃねえだろ?」ロゼが言った。
「はーい!」モエーネはロゼに向かって笑顔で元気よく返事をした。
「あなたノヴァ達に"受け止めてやる"って言い放ったらしいけど、どういうつもりなの?」ジェシカはエンディに疑問をぶつけた。
「あいつらの憎しみは話し合いじゃ到底解決できないくらい根深いと思う。だったら、その憎しみ全部ぶちまけて向かってくるあいつらに、こっちも思いっきりぶつかって行けばいいと思った!拳で語り合えば分かり合えるかもしれないだろ!」
エンディは清々しい顔で言った。
「あんた新入りのくせに気合い入ってるじゃん。でも少し考えが甘いんじゃない?あいつらはクーデターを起こそうとしてるのよ?」
「これから始まるのは"拳の語り合い"なんかじゃなくて"殺し合い"だぜ?分かり合うなんて不可能だね。」
モエーネとエスタがそう言うと、エンディは返す言葉が見つからなかった。
「いいじゃねえかよ。俺はエンディの考え方好きだぜ?よし決めた!今回の戦い、お前が指揮を取れ!」ロゼが唐突に言い放った。
「え〜〜!?指揮って、俺が!?」
エンディはひどく困惑している。
「ラーミアを守る、苦しんでる人達を救う、敵の憎しみを受け止めて分かり合う。全部お前が言った言葉だ。口で言うだけなら誰にでも出来るんだよ。大事なのはどう行動に移すかだぜ?お前の器量を俺に見せてくれよ!」
ロゼは珍しく厳しい口ぶりで言った。
「若、いくらなんでもそれは無茶ですわ?」
「そうですよ、こんな頼りなさそうな男に何が出来るって言うんですか?」
ジェシカとモエーネがここぞとばかりに反論した。
「これは決定事項だ。異論は認めない!」
ロゼが険しい表情でそう言うと、その場の空気がピリピリと張り詰めた。
「ロゼが言うならそれでいいんじゃねえの?もし失敗したらエンディは口だけ男だったって事で、ギャング共々、俺が皆殺しにしてやるぜ!」エスタは両手をズボンのポケットに突っ込んで、ニヤリと笑いながら言った。
主君を呼び捨てにするなんて…いけすかねえガキだぜ!と、ダルマインはエスタを見ながら心の中で呟いた。
すると、ラーミアが両手でエンディの右手をギュッと握った。
不安そうなエンディを見かねて、勇気づけたのだ。
「大丈夫、エンディならできるよ?私は信じてる。」優しい笑顔でエンディの目を見ながら言った。
すると、さっきまで全く自信がなさそうだったエンディは、一気に強い目になった。
そして、真っ直ぐな目をして言った。
「約束する。あいつらは絶対に俺が止めるし、誰も死なせない。」
「頼りにしてるぜ?カインとダルマイン、お前らはエンディの援護をしろ。」
「いいだろう」「えぇ!?俺様もですかい!?」
「これから市民達を避難させろ。騎士団員、保安官は万が一の時の為にいつでも出撃できるよう近くに待機させておけ。」
ロゼは0番部隊トップの3人に命を下した。
ジェシカとモエーネは元気よく返事をしたが、エスタは気だるそうに手を挙げるだけだった。
「あの、私はどうすれば?」ラーミアが言った。
「危ないからお前はここにいろ。あ、そういえば最近入った新入りの給仕がよ、全然仕事の出来ねえ奴でみんな手を焼いているんだよ。今頃庭園の掃除でもしてるだろうから、お前先輩としてビシビシ指導してきてくれねえか?」
ロゼがそう言うと、ラーミアは返事をした後、キビキビと歩き出して外に出た。
外へ出る前、エンディの顔をチラッと見た。
とても凛々しくて頼りがいのある顔をしていた。
しかし、それでもラーミアは内心、心配でたまらなかった。
「エンディ…死なないでね」
ラーミアは、ロゼの居城を出た後、誰にも聞こえないように小さな声でそう呟いた。
時刻は午後18時をまわり、外は薄暗くなっていた。
城下町とパニス町付近の住人達は皆、騎士団の演習場にある大きな施設に避難していた。
そのため町は静かだった。
エンディ、カイン、ダルマインの3人は王宮の正門前に立っていた。
王宮の周辺とその敷地内には、騎士団と保安官の、選りすぐりの魔法戦士たちが身を潜めて見張っていた。
ロゼの居城の前では、サイゾーとクマシスが警備をしていた。
王宮周辺は異様な静けさが漂っていた。
「おいサイゾーにクマシス、お前ら中に入れよ。」ロゼは警備に没頭している2人を気遣うように言った。
「いえ、そういうわけには…。」
サイゾーは遠慮をしている様子だった。
「ラーミアがメシ作ってくれたんだ。せっかくだからみんなで食おうぜ?」
「それではお言葉に甘えて。」
クマシスはそう言って図々しくロゼの居城に入っていった。
サイゾーはクマシスの無礼さにヒヤヒヤしながらも、後に続いた。
細長いテーブルの上には大量のローストビーフと生ハムサラダ、ソーセージにパンが置かれていた。
エスタ、モエーネ、ジェシカの3人は既に着席していて、早く食べたそうな様子だった。
「さあ、みんなで食べましょう!」
ラーミアは気丈に振る舞っていた。
すると、少年が何かにつまずいてバタンッと勢いよく転んだ。
「あの者は?」サイゾーが少年を見ながらロゼに聞いた。
「最近王宮で働き始めた新米給仕だ。たしかアルファって名前だったかな?ラーミアが教育係として色々教えてやってるところだ。」
「アルファ君、お手伝いしてくれてありがとう。一緒に食べよ?」ラーミアが言った。
「そ、そんな!ボクなんて何の役にも立ってないのに申し訳ないです…。ごめんなさい。」アルファのオドオドとした挙動不審な振る舞いからは、卑屈な性格が滲み出ていた。
アルファは度数の強い丸眼鏡をかけた銀髪のボサボサ頭で、とても鈍臭そうな少年だった。
「いいからいいから」とラーミアに手を引っ張られてアルファも席につき、全員はようやく食事にありつけた。
玉座の間では、ポナパルトとバレンティノ、モスキーノがレガーロの警護をしていた。
「全く、あのバカ息子は何を考えているのだ…」
レガーロにとって、自由奔放すぎるロゼは、大きな悩みの種らしい。
「まあまあ国王様!きっとロゼ王子にも、何か考えがあるんですよ!」ポナパルトが大きな声でそう言うと、モスキーノは両耳を塞ぎながら、わざとらしく嫌な顔をした。
「フフフ…まあ、俺たちがいれば問題はないですよねえ。」バレンティノは余裕がある感じで言った。
「ギャングが1歩でも王宮の敷地に入ったら、1人残らず殲滅しろ!」
レガーロが貫禄のある顔つきでそう言うと、3人は瞬時に緊張感ある顔つきになり、玉座に向かってひざまずき、頭を下げた。
正門で見張りをしているエンディは、不気味な静寂さに疑念を抱いていた。
「静かだな…。」
「そうだな。」カインは珍しく、エンディの独り言に反応した。
「今日は来ねえんじゃねえか?もう帰ろうぜ。」ダルマインは鼻をほじくりながら、退屈そうに寝っ転がっていた。
すると、遠くから2つの人影がこちらに向かってくるのが見えた。ノヴァとラベスタだった。
「きた!って…え?2人だけ?」
エンディは思わず拍子抜けてしまった。
「まさかお前ら、襲撃はやめて和解にきたのか??」エンディは淡い期待を抱きながら言った。
「うるせえよ。お前らそもそも話し合いなんかする気ねえだろ?王宮の中も外も大量の魔法戦士が殺気だったまんま待機してんじゃねえか、バレバレだぜ?」ノヴァはニヤニヤしながら言った。
「俺たちの部下がそろそろ襲撃にくるはず。」ラベスタが言った。
「ハッタリかますなよ小僧!全然そんな気配ねえじゃねえか!どうせ怖気付いて逃げたんだろ!?」ダルマインは嘲笑うように言った。
「パニス町から王宮の庭園まで続く地下通路を通ってるから気配がないのは当然。苦労したよ?4年もかけて作ったんだから」
そう言い放ったラベスタは無表情だったが、その瞳の奥からは冷酷な凄みを感じた。
ラベスタの言葉を聞いたダルマインは青ざめた顔をしている。
エンディは冷や汗をかきながら、恐る恐る後ろを振り向き、正門の隙間から庭園を凝視した。
すると庭園の土を突き破り、武装した多くのギャング達がなだれ込んできた。
庭園内はたくさんの怒声が飛び交い、一気に騒がしくなった。
そしてギャング達は、王宮目掛けてロケットランチャーとグレネードランチャーを連射し始めたのだ。
荘厳な王宮は一部崩落して燃え盛り、騒然とした。
それを確認した騎士団と保安官の連合隊はすぐさま駆けつけ、王宮内は瞬く間に戦場と化した。
開戦の火蓋は切られた。
「行くぞっ!」ノヴァが言った。
ノヴァとラベスタは正門目掛けて正面突破を計ろうと、エンディ達に向かって走り出した。
ついに激突!




