朝日の誓い 生の賛歌
遺骨すら残さずこの世を去った最愛の夫、カインの消滅に、アマレットは茫然と立ち尽くした。
「本当…貴方って勝手な人。」
消え入るような声で呟き、虚空を見つめた。
彼女の心は、愛と喪失の狭間で彷徨った。
エンディは、終戦の直後に宴を提案した己の判断を、改めて正しいと確信した。
カインは命の終わりを予感しながら、家族との最後の時を極限まで味わったのだ。
その選択が、彼の魂に一片の安らぎを与えたと信じたかった。
「カイン…。」
「あの野郎…!」
ラベスタとノヴァは、突然の別離に胸を締め付けられ、やり場のない怒りと悲しみに呻いた。
その痛みは、仲間たち全てに共有された。
モエーネとジェシカは地に蹲り、顔を覆って泣き崩れた。
ラーミアはエンディの肩に顔を埋め、声を殺して涙を流した。
エラルドは言葉を失い、悲嘆に沈んだ。
だが、その重苦しい沈黙を破ったのは、エンディの声だった。
「生きよう…。俺たちは、これからも生きて行こう。」
歯を食いしばり、涙を押し殺しながら、決意を絞り出した。
ロゼがエンディの傍らに立ち、背中を優しく叩いた。
「死んだ奴の分まで生きよう…そんな見え透いた詭弁を言うつもりは毛頭ねえよ。だからよ…カインに、戦死していった全ての奴らに恥ずかしくない様、あいつらに顔向け出来るよう、生き残った俺たちは前向いて胸張って生きていこうぜ。」
声を震わせ、溢れる涙を堪えきれなかった。
「バーカ、泣いてんじゃねえよ…。お前…国王だろ…?お前がそんなんじゃ…俺たちは…これから誰について行けばいいんだよ…しっかりしてくれよ…。」 エスタはロゼの背を強く叩き、衣服を握りしめ、涙ながらに訴えた。
モスキーノ、バレンティノ、マルジェラの三団長は、静かにロゼに寄り添い、沈黙の中で支えた。
長き夜が明け、朝日が昇った。
朝靄を裂く光の美しさに、エンディたちは心を奪われた。
「綺麗だなあ…太陽って、こんなに綺麗だったんだ。ちっとも知らなかったよ。どうして今まで気付けなかったんだろう…。」
エンディは空を見上げ、大粒の涙を零しながら呟いた。
そして、朝日へ向かい、全魂を込めて叫んだ。
「生きてやる!絶対に生きてやるぞ!立ちはだかる試練も苦難も!迷いも煩悩も運命も!全部全部乗り越えてやる!四肢をもがれようが血反吐吐こうが走り続けて!絶対に幸せになってやる!」
その叫びは、胸の澱を洗い流し、顔に笑みを呼び戻した。
泣き顔と笑顔が交錯する表情は、朝日に照らされ、生命の輝きを宿していた。
ラーミアがエンディの右手を両手で強く握った。
「1人では走らせないよ?私も一緒に連れてって。」
頬を赤らめ、朝日の輝きと照れが交錯する眼差しで、エンディを真っ直ぐに見つめた。
「私たち、随分と長い間遠回りしちゃったね。でも…せっかくここまで歩いてきたんだもん。だから、これからも歩き続けようよ。2人で一緒に。」
「うん、そうだね。きっと…2人ならどこへだって行けるよ。」
エンディとラーミアは、互いの心に秘めた想いを交わし、五百年の時を越えた契りを果たした。
ここからが、真の旅の始まりだった。
アマレットの腕で眠っていたルミノアは、朝日の眩しさで目を覚ました。
父の死を知らぬ彼女は、天使の笑顔で無垢にはしゃいだ。
アマレットは娘を強く抱きしめ、誓った。
「あなたのことは…あなたのことは絶対に私が守るからね…!」
カインの分まで愛を注ぎ、どんな代償を払っても守り抜くと、心に刻んだ。
エンディは二人に近づき、ルミノアの頭を優しく撫でた。
「お前は、忘れちゃうんだろうな。大きくなったら、カインのこと覚えてないんだろうな。でも、それでいい…俺たちはずっと覚えているから。そのかわり…お前がもうちょっと大きくなったら、耳にタコが出来るくらいに聞かせてやるよ。お前の父ちゃんは、めちゃくちゃ格好良かったんだぞって…嫌になる程聞かせてやるからな…覚悟しておけよ?」
さよならを告げず去れば、心に残るわだかまりもあるだろう。
夢半ばで天に召されれば、悔恨は尽きないだろう。
だが、貴方なら、きっと笑って見守っているに違いない。
信念は異なれど、彼らは命ある限り、信じた道を歩み続ける。
信念ある者の歩みは、誰にも止められない。
誰もが己の物語の主人公であり、生きる限り物語は続く。
だから、生き続けよう。
いつか再び逢う日を信じて。




