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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
154/158

仲間の絆と神槍の閃光

カインの大爆発は、エンディの金色の風を凌ぐ爆風を巻き起こした。


粉塵が晴れ、エンディたちは爆心地を凝視したが、カインとヴェルヴァルト冥府卿の姿は消えていた。



「カイン…お前…。」


「あの野郎…自爆しやがったのか…?」


エンディとノヴァは声を震わせ、カインの安否を案じた。


アマレットは青ざめ、ルミノアを抱いたまま言葉を失った。



しかし、突如エンディの横に正体不明の物体が落下した。


「うおっ!?なんだ!?」


エンディは驚き叫んだ。


砂埃が晴れるのを待つ間、一同は緊迫感に身構えた。


「おいおいお前ら、勝手に殺すんじゃねえよ。」


力なき声が響いた。落下したのはカインだった。



「カイン!良かった!!」


アマレットは大泣きし、ルミノアを抱いて飛びついた。


エンディは心から安堵した。


だが、エンディとカインは力尽き、仰向けのまま動けず、気力だけで意識を保っていた。



「おめえら…よくやった…!ほんっっとうによくやった!!」

ダルマインは喜びで咽び泣いた。



「フフフ…喜ぶのはまだ早いんじゃないの…?」

バレンティノは冷や汗で呟いた。


クマシスが「人が喜んでいるとこに水を差すな!大体お前何もしてねえじゃねえかよ!まあ俺もだけどな!」と叫び、サイゾーは慌てて口を塞いだ。



モスキーノが深刻な表情で口を開いた。

「バレンティノの言う通りだ…みんな、空を見て。」


邪悪な闇が空を覆ったままだった。

それは、ヴェルヴァルト冥府卿の生存を意味していた。


エンディたちは背筋を凍らせた。



「フハハハハ…やってくれたな…虫ケラどもが図に乗りおって…。」


邪悪な声が響き、一同は心臓を鷲掴みにされる錯覚に陥った。


声はすぐ近くから聞こえた。


だが、ヴェルヴァルト冥府卿の変わり果てた姿に一同は目を疑った。


体長30メートルの巨体が、2メートルに縮小し、苦悶の表情を浮かべていた。


魔力は著しく弱まっていたが、なお脅威だった。



「おいおい御闇さんよぉ!往生際が悪いぞコラ!俺がトドメを刺してやんよ!」

エラルドは慢心し、迂闊にもヴェルヴァルト冥府卿に接近した。


ヴェルヴァルト冥府卿は人差し指から砲撃音のような衝撃波を放ち、エラルドの顔面に直撃した。


顎の骨が砕け、エラルドは失神し戦線離脱した。



「何やってんだ馬鹿が!油断してんじゃねえよ!」

ノヴァは叱責した。


エンディとカインは動けず、反撃の余力はなかった。



「小童どもが…舐め腐りおって…許さん!絶対に許さんぞぉ!」


ヴェルヴァルト冥府卿は羽根のない両翼を羽ばたかせ、恐るべき速度で接近。


すると、突如発生した稲妻が、横からヴェルヴァルト冥府卿を呑み、動きを止めた。


攻撃を仕掛けたのはイヴァンカだった。


「みっともないよ、御大。散り際は美しくなくてはいけない。」


先の攻撃を辛うじて受け流し、身を隠していたイヴァンカは、疲弊しながらも涼しい顔を装った。


ノヴァが横に立つ。


「エンディとカインがあの状態だ。俺たちで何とかするぞ!」


「退がれ、ケダモノ風情が。」


イヴァンカは拒否したが、ノヴァは無視し、黒豹化してヴェルヴァルト冥府卿に殴りかかった。


油断せず、完璧な攻撃を繰り出すが、ヴェルヴァルト冥府卿は肩で息しながら全てを間一髪で防いだ。


ノヴァは距離を取り、高速移動で翻弄。


常人には見えない速度に、疲弊しきったヴェルヴァルト冥府卿は目で追うのに難儀した。


ノヴァは勝機を確信し、顎を蹴り上げ、横に一回転して右頬に回し蹴りを炸裂させた。


だが、ヴェルヴァルト冥府卿は倒れなかった。


尻尾がノヴァの腹部に巻きつき、地面に叩きつけた。


右手で闇の破壊光線を放とうとし、拘束されたノヴァは絶体絶命だった。


すると、ジェシカが走り出し、ノヴァを覆うように抱きしめた。



「ジェシカ!?何やってんだ!」


「ノヴァ…死ぬ時は一緒よ。」


取り乱すノヴァに対し、ジェシカは覚悟の威厳を滲ませた。


共に死する道を選んだのだ。


だが、闇の銃口が逸れた。

モエーネがムチを振るい、ヴェルヴァルト冥府卿の右腕に巻きつけたのだ。


そして、その右手を自身に向けさせた。



「モエーネ!?あんた何考えてんの!?」

ジェシカが取り乱した。



「ジェシカ…あんたは必ず生きて、絶対に絶対に幸せになりなさいよ!バーカ!」

モエーネは舌を出し、震える腕でムチを握った。


恐怖は押し殺した。その行動に悔いはなかった。



「フハハハハッ!良いだろう!まずは貴様から殺してくれる!女!我こそは魔族の王!目障りな貴様らを葬り、世界の王に成る者なり!何人たりとも余の覇道を阻むことは許さん!」


ヴェルヴァルト冥府卿はモエーネに闇の破壊光線を放った。モ


エーネは目を瞑り、凶弾を受け入れた。


だが、背後からロゼの声が響いた。


「やんごとねえぜ?」


モエーネは目を開いた。


光り輝く神槍ヘルメスを手に、ロゼが闇の光線に立ち向かっていた。


神槍の力を解放し、一振りで光線を両断。


斬撃の余波がヴェルヴァルト冥府卿を深く斬った。


ヴェルヴァルト冥府卿は血を噴き出して、苦悶の表情を浮かべながら両膝をついた。


ロゼはモエーネを優しく抱きしめた。

「怖い思いさせちまったな。こんなところまで着いてきてくれて、ありがとう。」


モエーネは緊張が解け、ロゼの胸で泣いた。



「分を弁えろよ、誰の前で王を名乗ってんだ?周りから持て囃されてその気になってんじゃねえぞ。お前にその器はねえよ。」


ロゼは強い口調で非難した。


ヴェルヴァルト冥府卿は気力を失い、俯いたまま動かなかった。


そこへ、イヴァンカが歩み寄った。



「やれやれ…余計な真似をしてくれたね。君達はつくづく許し難い。」


剣をヴェルヴァルト冥府卿の首に当てた。


ヴェルヴァルト冥府卿は微動だにしなかった。



「実に醜き人外の者よ。君は所詮、おとぎ話に登場する架空の怪物に過ぎなかったね。だが安心して眠るといい。此度の戦いも、君の無様なその姿も、全て私が歴史の闇に葬ってやる。真の支配者たるこの私の手でね。」


イヴァンカは、こんな時でも支配欲を満たそうとした。


だが、ヴェルヴァルト冥府卿の指先がピクリと動き、イヴァンカは反射的に距離を取った。



「逃げろ!イヴァンカ!」

異変を察知したノヴァが叫んだ。


ヴェルヴァルト冥府卿は立ち上がり、大口から火を吹く龍のように闇の破壊光線を放った。


威力は落ちていたが、山を消すほどの脅威だった。



「まだこんな力を残していたのか…。」


イヴァンカは悔しげに雷を放ち、モスキーノが冷気を放った。


膨大なエネルギーを誇る雷と、骨の髄まで凍てつく脅威の冷気。


人智を超えた二つの力を以てしても、ヴェルヴァルト冥府卿の攻撃を相殺することは出来ず、むしろ2人は劣勢だった。


「イヴァンカ!もっと力を上げろ!」


「貴様ごときがこの私に命令するな!」


2人は小競り合いをしながら、闇に呑まれそうになった。


最早ここまで、万事休すか。

イヴァンカとモスキーノの頭に、ぼんやりと諦めの2文字が浮かびあがろうとしていた。


その時だった。


2人の背後から、温かく、今まで浴びたこともないような、それはそれは心地の良い優しい風が吹いた。


まさかと思い、イヴァンカとモスキーノは背後を振り返った。


そこには、脚をふらつかせたよろよろのエンディが立っていた。




「待たせたな…遅くなってごめん。」


エンディは力無く笑い、精一杯気丈に振る舞っていた。


誰の目から見ても無理をしている事は一目瞭然だったが、それでもエンディのその姿は、この上なく勇敢だった。




「エンディ〜〜!?もう動けるの!?」


さっきまで気を張っていたモスキーノは、エンディの登場により、無意識にいつもの軽快な口調に戻っていた。



「はい…何とか。てかモスキーノさんこそボロボロじゃないっすか。」


モスキーノは、冥花軍ラメ・シュピールとの戦いにより、その身体にはかなりのダメージが蓄積されていたのだ。


肉体の内部を酷く損傷していたため外見からは分かりにくく、ラーミアからの治療もほとんど受けないまま、この戦いに臨んでいたのだ。


それを見抜いたエンディが、突拍子もないことを口にした。


「モスキーノさん、ここは…俺とイヴァンカに任せて下がっててください!」


「貴様…何を言っている?気でも狂ったか?」

イヴァンカはエンディを睨みつけた。


するとエンディは、まるで仕返しをするかの様に、イヴァンカに対して鋭い眼光を浴びせた。



「イヴァンカ!今は俺たちが争っている場合じゃない!アイツとまともに戦えるのは、もう俺たちしか残ってないんだ!お前も分かってんだろ!?大人になれよ!」


感情が昂ったエンディは、強い口調で叱咤激励した。


イヴァンカは納得のいかない顔つきのまましばらく黙りこくった後、「ヴェルヴァルトの次は必ず貴様を消す。貴様の仲間とやらも例外なく消す。それだけは覚えておくんだな。」と言った。


エンディはこの言葉を、承諾と受け取った。



「はいはい、分かったよ。いくらでも受けて立ちますよ。」


まるで子供をあやすようなエンディの口ぶりに、イヴァンカは露骨に不快感を露わにした。



「何だよお前ら…仲良しかよ。」


カインはクスリと笑った。


モスキーノは戦線離脱し、場を離れた。


エンディは豪風を、イヴァンカは雷を放ち、ヴェルヴァルト冥府卿の闇を押し返した。


掻き消せなかったが、時間をかけて相殺した。


満身創痍のヴェルヴァルト冥府卿に対し、同様に満身創痍のエンディとイヴァンカ。


誰も予想だにしなかった異色のコンビが一時的に手を結び、最強の敵を前に共闘の道を選んだ。


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