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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
145/158

聖光の覚醒


「ワッハッハー!聞いたぜ?ルキフェル、お前よ…魔族になったんだってなぁ!神国ナカタム随一の魔法剣士と謳われたお前が魔族とはなぁ、笑っちまうぜ!」


ルキフェル閣下は毅然と立ち、挑発に乗らなかった。


かつて天生士のリーダーだった彼は、その歪んだ思想ゆえ、ユラノスに危険視され、監視の下で力を振るっていた。


だが、ユラノスの死後、11人の天生士の中で彼だけが力を与えられなかった。


屈辱と野心が、彼をヴェルヴァルト冥府卿の麾下へと導いた。

魔族となり、忠誠を誓ったのだ。



「まさか貴方達が行動を共にしているとは夢にも思いませんでしたよ。何を企んでいるのかは存じませんが、無駄な抵抗はおやめになって、速やかに投降することをお勧めします。」


ルキフェル閣下は、トルナドとルミエルの絆に驚きを隠さなかった。


トルナドは二人の知己に興味を示さず、嘲った。



「はっ、別に何も企んじゃいねえよ!投降しろだぁ!?てめえこそ何企んでやがる??」


「御闇より命を仰せつかりました。ユラノス氏より力を与えられた貴方たち天生士を麾下として迎え入れたい…それが御闇の御意志です。」


「ワッハッハー!何が御闇だよ、あんま笑わせんなよ!ボスをコロコロ変えやがって信念のねえ野郎だなぁおい!あの神気取りのオヤジから力を貰えなかった事がそんなに悲しかったのかよぉ!?」


トルナドの言葉に、ルキフェル閣下の眉がピクリと動いた。苛立ちが滲んだ。


「相変わらず聞き分けの悪い方ですね…。ならば致し方ありません。少々手荒ですが、力ずくで聞き入れてもらうしかありませんね。」


闘気と殺気が波動のように放たれ、剣がトルナドを捉えた。


「おもしれえ!てめえの剣と俺の風の刃!どっちが強えか試してみようじゃねえかよ!」


トルナドは右腕にカマイタチの渦を纏い、威嚇した。

剣豪の一太刀と風の刃が激突し、森に災害の渦が生まれた。


木々が折れ、地面が抉れ、ルミエルは大岩の影で身を縮めた。



「くっ…!」


「なかなかやりますね、トルナドさん。」


トルナドは押されていた。


ルキフェル閣下の嘲るような言葉に、怒りが爆発。

風力を上げ、隙を突いた。


カマイタチがルキフェル閣下の胸を抉り、血が噴き出した。


追撃の蹴りが左頬を捉えた。


だが、ルキフェル閣下はケロッとしていた。


「はぁ!?なんだ!?何が起きた!?」


トルナドは動揺した。

確かな手応えがあったのに、まるで応えていないからだ。



「流石です…素晴らしいお力ですね。しかし残念ながら、貴方の風は既に解析済みです。」


ルキフェル閣下は血塗れの口で勝ち誇った笑みを浮かべた。


ストレリチア。花言葉は万能。

ヴェルヴァルト冥府卿から与えられたこの能力は、敵の力を解析し、無効化する。


ルキフェル閣下は、自身を絶対無敵を信じていた。

500年後、雷の天生士の転生者がこの力を破るなど、この時は夢にも思わなかった。


ルキフェル閣下の剣が、トルナドを斬った。


致命傷を避け、2度の斬撃が上半身を裂いた。

血が噴き出し、トルナドは倒れ、意識を失った。



「トルナド…!しっかりして!」


ルミエルは駆け寄り、トルナドを揺すった。



「脆いですね。所詮は天生士など、我ら魔族の敵ではないのです。」


ルキフェル閣下が澄ました声で言い放った。


ルミエルは鋭く問うた。

「ルキフェルさん…魔族の王様は、何を企んでいるの??」


「御闇は、これより本格的に世界を奪いにいこうと一念発起いたしました。その為に、強力な戦闘部隊を新設したのです。部隊の名は冥花軍(ノワールアルメ)。私はそこの最高司令官に任ぜられました。強い戦闘能力を有する個体を集め、御闇は自らの血肉を分け与え、特別な力と不老の肉体を持った最凶の戦闘集団を作ろうとお考えなのです。トルナドさん、ルミエルさん…貴方達にも一枚噛んでもらいますよ。」


冥花軍の創設秘話が明かされた。

ルミエルは即座に拒絶した。



「断るわ…!そんな話に、乗るわけないでしょ!」


トルナドを背負い、逃走を図った。


華奢な体で視力もない、平均以下の腕力しかないルミエルが、火事場の馬鹿力を発揮した。


細い腕でトルナドを支え、無我夢中で走った。



「無駄な事を…。私から逃げ切れるわけないじゃないですか。」


ルキフェル閣下が嘲笑し、早歩きで追った。


トルナドは朦朧とする意識の中で目を開いた。

ルミエルの後頭部が揺れていた。



「おい…何考えてやがる…さっさと俺を置いて逃げろよ…!」


力ない声で呟いた。



「嫌だ!そんなこと出来るわけないじゃない!」


「馬鹿野郎!相手が誰だか分かってんのか!殺されるぞ!」


傷口が開き、激痛に歯を食いしばった。


ルミエルは茨の道を突き進み、棘が刺さり、足から血を流しながらも走り続けた。



「大丈夫だからね…トルナドは絶対に私が守るからね…!」


震える声で誓った。


トルナドは理解できなかった。


なぜ、盲目の少女が自分にここまでしてくれるのか。

損得も目論見もない、ただ純粋な行動。


初めて触れる優しさに、嬉しさが胸を刺した。

だが、満身創痍で動けない自分を、トルナドは心底恥じた。


ルミエルの体力は限界に近づき、速度が落ちた。

ルキフェル閣下が立ち塞がった。



「さて、お戯れはここまでです。一緒に来てもらいますよ?特にルミエルさん…貴女がユラノス氏から分け与えられたその力は、非常に魅力的です。必ずや、御闇のお役に立つことでしょう。」


剣の鋒がルミエルを捉えた。

だが、彼女は屈しなかった。


しゃがみ、トルナドに視線を向けた。



「トルナド…もう大丈夫だからね…?」


優しく呟き、両手をトルナドの傷口に翳した。


パッと眩い光が放たれ、傷がみるみる塞がった。


聖なる光。ユラノスの治癒術。


ルミエルの天生士としての力が披露された瞬間だった。


ルキフェル閣下は凍りついた。


本能的な恐怖が彼を襲った。

かつてユラノスの光を飽きるほど見た彼が、ルミエルの光に慄いた。


この光は、魔族の闇を無力化し、低級な魔族を消滅させる退魔の力を持っていた。


500年後、ラーミアがヴェルヴァルト冥府卿の闇を掻き消すように、この光は魔族の唯一の弱点だった。


だが、この時、その真実は誰も知らなかった。


「なんですか…これは…!?」


ルキフェル閣下は混乱した。

万能の能力でも、この光は解析できなかった。



「今日のところは見逃します。しかし…次はありませんよ。どうかそれまで、御覚悟を…!」


捨て台詞を残し、逃走した。

事の顛末をヴェルヴァルト冥府卿に迅速に報告する腹づもりだ。


ルミエルは肩の力を抜き、ホッとした。


「ルミエル…その力…まさか、お前も…!?」

トルナドは確信した。


「ごめんね…隠してたつもりはないんだけど、驚かせちゃったかな?私も貴方と同じ天生士なの。与えられた力は、治癒能力。貴方は絶対に私が助けるからね、安心して?」


ルミエルは優しく微笑んだ。

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