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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
14/158

1-13

遂にラーミアが真の力をお披露目する!


「助けることが出来るだあ?例えお前が凄腕の外科医でも不可能だぜ?」

ダルマインはラーミアを小馬鹿にするように言った。


エンディは全身の血液の3分の1を失い、いつ失血死してもおかしくない状態だった。

ラーミアはダルマインを無視し、深呼吸した後に両手をエンディのお腹の上にスッとかざした。


全員、その様子を固唾を飲んで見守っていた。


「おいやめろやめろっ!せっかく俺様が自由を手に入れた記念すべき日にこんな死に損ないのガキを船に乗せてちゃ縁起が悪い!さっさと海に捨てちまえ!」

ダルマインは文句を言いながらエンディとラーミアの方へズカズカと歩き出した。


すると、ジェシカが短剣を振りかざしダルマインを制止した。


「それ以上近づかないで。エンディに何かしたら許さないから」

ジェシカは強い口調で言った。


「お前ギャングだろ?ミルドニアによく来てたよな?何度か見かけたことあるぜ?なんでお前がエンディを庇う?」疑問を呈したダルマインだったが、またしても無視された。


「あわわわわ…ジェ、ジェシカさん…見てください…!」


ジェシカの部下の1人があんぐりと口を開きながら言った。

後ろを振り向いたジェシカは、信じられない光景を目の当たりにした。


ラーミアは両手から眩い光を放ち、その光はエンディの全身を包み込んでいた。


その光景はあまりにも神秘的で、一同目から鱗が落ちた。


「なるほど、そういうことか」

カインは腑に落ちた様な顔で言った。



生死の境を彷徨っているエンディは徐々に意識を取り戻していき、顔色まで良くなっていた。




エンディはゆっくりと目を開けた。


傷口がみるみるうちに回復していき、生気が宿っていた。


「エンディ…また助けに来てくれたんだね。ありがとう。生きててくれて…ありがとう…」

ラーミアは震える声で言った。


「ラーミア…無事で良かった…」

エンディは両目に涙を浮かべながら、心の底から安堵していた。


「隠しててごめんね。私、人の傷を治せるの。この能力が原因で私は狙われてたの。巻き込んでしまって、本当にごめんなさい…」ラーミアは心苦しそうに言った。


すると、ダルマインがパチパチと拍手をした。


「恐れ入ったぜラーミア!異能者とは聞いてたが、まさか人体の外傷を治癒できる能力とはな…こりゃアズバールが欲しがるわけだぜ!俺様が助けてやらなきゃ、お前死ぬまでこき使われてたぜ?」

ダルマインは掌を返すように言った。


「ふっ、よく言うぜ。お前、俺の忠告無視して勝手に出航しやがって。その女を人質にして逃げるつもりだったんだろ?」

カインがそう言うと、ダルマインはギクっとした。


「懲罰房の囚人たちを囮に使って、最初から自分だけ逃げるつもりだったんでしょ?あなたのせいで大勢の人が死んだわよ。あなたって地上最低のクズね!」

ジェシカは畳み掛けるように、厳しい口調で叱責した。


「う、うるせえー!全員助かったんだからいいじゃねえか!終わりよければ全てよしだ!」

ダルマインは軽蔑の眼差しを一心に受け、切ない気持ちになっていた。



「あなた、せめてもの罪滅ぼしとして私たちをバレラルクまで送り届けなさいよ」


ジェシカにそう言われたダルマインは、勘弁してくれよと言わんばかりの表情で「冗談じゃねえ!むざむざ捕まりに行くようなもんだぜ!」と言った。


「絶対に見つからない抜け穴ルートを教えてあげるからその心配はないわ。向こうに着いてから居場所がないなら私の部下にしてあげてもいいけど?」


ジェシカの発言に、ダルマインは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。


「言う通りにしろ。いいな?」

カインが高圧的な態度で凄むと、ダルマインは苦渋に満ちた表情を浮かべながら、渋々操縦室へと歩いていった。


「あなた達、念のためあいつを見張っててちょうだい!」


「へい!」


ジェシカの命令で4人の部下達も操縦室へと入っていった。


そんなやりとりをしているうちに、エンディの傷は完治していた。


「すげえ、もう治った!」

エンディは感動していた。


「まだ動いちゃダメ。傷は治ったけど、失った血液は戻ってないんだからゆっくりしててね?」

ラーミアは優しくそう言うと立ち上がり、カインとジェシカに向かって深々と頭を下げた。


「2人ともありがとう。エンディと一緒に戦ってくれたんでしょ?2人の協力がなかったら私は人質に取られたままで、エンディを治すことができなかった。本当にありがとう」そう言い終えたラーミアはゆっくりと頭を上げ、穏やかな笑顔で二人を見つめていた。


「あなた王室の給仕って聞いたけど?そんな人がギャングなんかに頭なんか下げちゃダメよ?バレラルクに着いたら、今度は私があなたを人質として監禁するかもしれないわよ?」

ジェシカは不敵な笑みを浮かべながら言った。


「あら、そんなの関係ないわ。それにあなたは絶対にそんな事しない。だって全然悪い人に見えないよ?私ラーミア、よろしくね!」

屈託のない笑顔でそう言いながら、ラーミアはジェシカに右手を差し伸べた。


「…ジェシカよ。お礼なら船に備え付けてあった飛行艇で救出にきてくれた私の部下達に言ってくれる?」

ジェシカはそう言いながら、照れ臭そうにラーミアに右手を差し伸べ、2人は握手を交わした。


「これで私たちお友達ね?怪我したらいつでも言ってね。あなたのお名前は?」

ラーミアはジェシカとの握手を終えると、今度はカインの方を見ながら言った。


「カインだ」ぶっきらぼうな答え方だった。


「カインはエンディのお友達なの?」


「別にそんなんじゃねえよ」

カインはそう言いながら、甲板の人気のない場所へと歩き出した。


「照れんなよカイン。あいつ無人島でひとりぼっちで寂しそうだったからさ、俺が連れ回してやってるんだ!」

エンディがニヤニヤしながらそう言うと、カインはムカッと腹を立てている様子だった。


「エンディ、今からジェシカとご飯作ってくるからまだ安静にしててね?」


「ちょっと、なんで私が!?」


「いいからいいから!」

ラーミアはジェシカの腕を引っ張りながら、インダス艦の厨房へと向かった。


エンディは上体を起こした。


東の空から朝日が昇ってきた。


「わあ〜っ、綺麗!」

ラーミアははしゃぐように言った。


「綺麗だな〜…」

エンディはそのあまりにも美しい朝焼けと、朝焼けに包まれたラーミアの綺麗さにすっかり心を奪われて見惚れていた。




インダス艦の厨房は意外にも綺麗で、衛生面は素晴らしかった。


冷蔵庫の中には見るからに高級そうな肉やチーズ、新鮮な野菜や果物が沢山入っていた。


ジェシカは手慣れた手つきで野菜をカットしていた。


「すごいジェシカ!上手!」


「ギャングなんだから包丁くらい使えて当たり前よ?」

ジェシカは冗談まじりに言った。


2人はすっかり意気投合している様子で、楽しそうにクッキングしていた。


すると厨房にエンディが入ってきた。


「エンディ、動き回っちゃダメ!安静にしててって言ったでしょ?」


「いや、もうすっかり元気になったから大丈夫だよ!」


「あなたは邪魔だから出て行って」

ジェシカが冷たい口調で言った。


「いや、ちょっと聞きたいことがあってさ。ラーミア、なんで傷を治せるんだ?それに、ダルマインが言ってた異能者って…?」

エンディがそう聞くと、ラーミアは作業を止めて真剣な顔つきになった。


「小さい頃ね…第五次魔法大戦真っ只の頃に、足に大怪我を負った軍人さんを見かけたの。助けを求めようにも周りには誰もいなくて…どうしていいか分からなかった。とりあえず血を止めなきゃと思って咄嗟にその軍人さんの傷口を両手で塞ごうとしたら、突然両手が光りだして…その光を当てた傷口がだんだん回復していったの…」


「そっか、さっき俺を治してくれた時も光ってたもんな!すげえよラーミア!」

エンディは目をキラキラ輝かせながら言った。


「それから数年後、ナカタム王国の聖堂騎士団員さんに保護されて王室に招かれたの。国王様が直々に私のところに来て"その力のことは決して他言するな。君の事は国の威信をかけて守る"なんて言われちゃってびっくりしたわ?提督さんが言ってた異能者の意味は私にも分からない」

ラーミアは包み隠さず話しているかのように見えたが、実はまだ何かを隠していた。


自身の出自と、初めて能力を開花させた日から騎士団に保護されるまでの数年の間に何があったかまでは、とても話す気になれなかったのだ。


「世の中にはラーミアみたいに不思議な力を宿した魔法族が10人いると聞いたことがあるわ?異能者は、その不思議な力を宿した10人の総称よ。通常の魔法族と同じ魔法は一切使えない代わりに、異質な魔法力を宿す魔法族…それが、異能者と呼ばれる所以なのよ」

ジェシカがそう言うと、エンディはハッとした。


「不思議な力…そういえばミルドニアにいたアズバールって奴は木を操っているように見えたぞ!あいつもその異能者か?」


「そうよ。彼はある魔法小国の出身で、第五次魔法大戦時に残虐の限りを尽くした伝説の軍人よ。木を操って敵味方問わず大量虐殺したとか…死神と呼ばれる所以はそれよ。でも戦死したと聞いていたから、生きてると知った時は本当にびっくりしたわ?しかも魔法族を憎むドアル解放軍を隠れ蓑にしているだなんて…」ジェシカは言った。


「なるほどなあ、教えてくれてありがとう!邪魔したなっ!」心のモヤモヤが晴れたエンディは厨房を出た。



ダルマインは見張りのギャングを煩わしく思いながらバレラルクを目指して操縦していた。


「みんなー、ご飯できたよー!」

しばらく経って、ラーミアが言った。

お腹を空かした者たちが続々と船長室に集まった。


「おいおいおめえら、ここは俺の部屋だぞ!入るんじゃねえ!」

ダルマインは激怒していた。


船長室のテーブルには人数分のビーフカレーが配膳されていた。


「うまそー!!早く食べようぜ!!」

エンディは大はしゃぎしている。


「待って、まだ食べちゃダメ!」

ラーミアはそう言うと、甲板に出た。


「ちっ、肉全部使いやがったな。あの肉高かったんだぜ?」

ぶつぶつ文句を言いながらカレーを食べようとするダルマインを、ジェシカは腕を掴んで止めた。


「ラーミアがまだダメって言ってるでしょ?」

ジェシカがそう言うと、部下の4人は席を立ってダルマインを囲んでは「言う事聞けやこの野郎!」と怒鳴りつけて威圧した。



ダルマインは舌打ちをして、乱暴にスプーンを置いた。


カインは1人で空を見上げていた。

すると、そこにラーミアが駆け寄った。


「カイン、カレー冷めちゃうよ?」


「俺はいらねえよ。別に腹減ってねえしな」

カインはそう言った直後にお腹が鳴った。


頬を赤らめてるカインを、ラーミアはニヤニヤしながら見ていた。


「早く来てよ。みんな待ってるよ?」


「後で食べるからいい。別にみんな揃って食べる意味ないだろ?俺に構うな」カインは心底鬱陶しそうに言ったが、それでもラーミアは折れなかった。


「ご飯はみんなで食べるから美味しいんだよ?せっかくみんなで同じ船に乗ってるんだから、仲良くは出来なくても、せめてご飯くらいは一緒に食べよ?」

ラーミアは優しい顔で微笑みながら言った。


「…わかったよ」

カインは気怠そうに、そそくさと歩き出した。


船長室に入ると、全員座って待っていた。


「カイン、早く座れよー!」

エンディは急かすように言った。


「それじゃ、いただきます!」

全員の着席を確認したところで、ラーミアが言った。


カイン、ジェシカ、ラーミアは上品に食べていた。

他の6人は勢いよくがっついていた。


みんな美味しそうに、幸せそうに食べていた。


こういうのも意外と悪くないな…と、カインは心の中で呟いた。


なかなか素直になれないカイン。

彼がみんなに心を開く日は、果たして訪れるのか?

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