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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
138/158

世界の結束と裏切りの微笑

魔界城第五階は、希望の光と裏切りの闇が交錯する戦場だった。


外では、4万を超える連合軍が魔界城に突入し、魔族との第二次戦争が始まった。


魔族に恐れをなし、逃げたナカタムの元魔法戦士。

それだけではない。

かつて魔族に屈した国の民や戦士、ナカタム王国に恨みを持つ魔法国家の者達や、悪しき魔法族により結成された犯罪組織や国際過激派集団まで。


彼らは遺恨を脇に置き、共通の敵に立ち向かっていた。


歴史に刻まれる血戦の幕が上がった。


第五階では、ノヴァとエラルドがベルゼブと激闘を繰り広げ、カインたちは最上階のヴェルヴァルト冥府卿へ向かおうとしていた。


だが、エンディの復活とロゼの覚醒が、新たな波乱を呼んだ。


そして、誰も予期せぬ真実が、戦士たちの絆を切り裂いた。


---


外の光景は、奇跡そのものだった。

「何あれ〜!?やばくな〜い!?」


モスキーノのわざとらしい驚きが響く。


遠くから見ると、連合軍は波打つ蟻の大群のようだった。



「ざっと4万は超えてるね。やば。」


ラベスタが呆然と呟く。

ナカタムの元戦士が3分の1を占め、かつて王都を捨てた者たちが誇りを取り戻し、戦場に帰還していた。



「うちのがほとんどだな…武器を捨てて国を捨てた奴らが戻ってきたか…!」


エスタが嬉しそうに言うと、サイゾーが難しい顔で呟いた。


「じゃあ他の連中は何者だ?」


「あの軍服…ネルド王国の人達じゃない!?」

「あの特徴的な鎧は…ヨコルト王国よ!」


モエーネとジェシカが驚きの声を上げた。


魔族に屈した国、滅亡を恐れ白旗を上げた国々の戦士たちが、武器を手に魔界城へ押し寄せていた。


異なる種族、歴史的遺恨を抱える者、冷戦中の国の民が、互いに歪み合いながらも手を握り、共闘していた。



「俺たちパマトリ人はお前らネロウド人に故郷を滅ぼされた…!勘違いするなよ!お前達のことを許したわけでは無いからな!」


「それを言ったら、俺の家族と多くの仲間はお前らパマトリ人に殺された!この戦いが終わったら覚えておけよ…魔族の次はお前らパマトリ人共を血祭りに上げてやるからな!」


口喧嘩が至る所で勃発したが、殺し合いは起こらず、ただ魔界城を目指した。


裏社会の巨悪、カモラファミリーのドン・アルカポ。

クロノアのギャング、ヤタガラスのMr.Jも群れに潜み、こう言った。


「ぐっふっふっ…俺の首を取るならよ、この戦いが終わった後にしてくれねぇかぁ?」


「俺たちゃ逃げも隠れもしねえよ!いつでも殺し合いの準備はできてっからよぉ!ただし…この戦いが終わった後で頼むわ!」


種族も歴史も善悪も、この瞬間だけは消えていた。


全ては魔族を倒し、世界に光を取り戻すため。

連合軍42,000対魔族51,000。


魔族は奇襲に動揺し、心意気の差が戦況を揺さぶった。


---


第五階では、ヴェルヴァルト冥府卿の命を受けたベルゼブが咆哮を上げた。



「下らん…実に下らぬわ!虫ケラが少しばかり増えたからといって図に乗るなよ人間共が!おいベルゼブ、魔界城諸共全てを破壊しろ!」


ベルゼブが大口を開き、闇の破壊光線を吐き出した。


だが、ノヴァとエラルドが立ちはだかった。


「隔世憑依 憤怒の聖獣(コレルレオパル)

「隔世憑依 金剛蒼王(キングオブダイヤモンドマン)


二人は巨大化し、ベルゼブの光線を相殺。

「早く行け!お前ら!」

「害虫駆除は任せろや!」


カインたちは最上階へ向かった。


ノヴァとエラルドの勝利を信じ、迷いはなかった。


だが、エンディがフラフラと立ち上がったことで、足が止まった。


「エンディ…もう立てんのか?」


「おう!」


エンディはラーミアの治療で動けるまでに回復したが、疲労とダメージは残っていた。


それでも闘志は燃えていた。


「エンディ!無理しないで!まだダメよ!」


ラーミアの心配に、エンディは優しい笑顔を向けた。

「ありがとう、ラーミア。けどもう大丈夫だ!」


彼は天井の穴からヴェルヴァルト冥府卿を見上げ、拳を翳した。



「おいヴェルヴァルト、見えているか?お前を倒す為に、今まさに世界は一つになろうとしている。いや…一つになった!覚悟しろよ…必ずお前をぶっ飛ばして、俺たちは生きてまた太陽の光を浴びるんだ!」


ヴェルヴァルト冥府卿は鼻で笑った。

「戯言だな。」


再び最上階へ進もうとした一同だったが、新たな異変が足を止めた。


ロゼが目を覚ましたのだ。

「ロゼ国王…?」


エンディが不審げに見つめる。

ロゼは槍を抜き、ただならぬ雰囲気を漂わせていた。



「国王様!?もう大丈夫なんですか!?」


「おいおい、あんま無理すんなよ?もうちょい休んどけよ。」


モエーネとエスタの言葉に、ロゼは無表情で立ち尽くした。


様子がおかしいのは明らかだった。



「ロゼ国王、もう少し休んでいてください。まだまだ療養が必要です。」


ラーミアが優しく歩み寄る。

だが、エンディは本能的に危険を察知した。


案の定、ロゼが槍の鋒をラーミアに向けた。


「…え?」


ラーミアは硬直し、エンディが彼女を庇って間に立った。



「ロゼ国王…?何をしているんですか?こんな時に変な冗談はやめてくださいよ。」


「どけよエンディ…死ぬぞ?」


ロゼの鬼気迫る表情に、エンディは震撼した。


ヴェルヴァルト冥府卿の内通者がロゼだと疑った。

退魔の光を宿すラーミアを狙うなら、辻褄が合う。



「エンディ…悪い様にしねえからこっちへ来い。」


「ロゼ国王…"死ぬぞ?"って…俺を殺すって意味ですか?どうしてそんなことを…?」


エンディの悲しげな問いに、ロゼは舌打ちした。



「そういう意味じゃねえよ。いいから言う通りにしろ。」


エンディは呆然とした。


だが、ロゼが叫んだ。

「分からねえのかエンディ!さっきお前に攻撃を仕掛けたのは!お前の後ろにいる"その女"だ!!」


時が止まった。


エンディは後ろを振り返った。

そこには、青白い肌の長い黒髪の女が、口角を上げ、目を細めて悍ましく笑っていた。



「おい…うそだろ…?なんだよそれ…?」


エンディは脂汗を噴き出し、呼吸が荒くなった。


彼女はラーミアだった。

肌、髪、顔のパーツは一致していたが、その恐ろしい表情は別人のようだった。


首に薄ピンク色の花の刻印が浮かんでいた。



「ああ…これ?この花はね…"カルミア"っていうの。花言葉は…"裏切り"。」


ラーミアの言葉は、戦士たちの心を切り裂いた。


エンディは血の気が引き、唇が青紫に変色した。


その隙に、ラーミアが至近距離から闇の破壊光線を放った。


ロゼがエンディを強引に引き倒し、床に転がって回避した。


エンディは震えながらラーミアを見た。

彼女の悍ましい笑顔は、もはや自分が知っているラーミアではなかった。


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