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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
135/158

雷帝の逆襲と慢心の奈落

イヴァンカとルキフェル閣下の戦いは、まるで神々の決闘だった。


空間は二人の殺気で歪み、時間の流れすら停滞した。


イヴァンカは剣を握り、刀身をルキフェル閣下に向けたまま立ち尽くした。


ルキフェル閣下の「万能」の能力。

あらゆる攻撃を無効化する力の前に、彼の斬撃も雷も無力だった。


だが、イヴァンカの瞳は茫然とは程遠く、冷徹な光を宿していた。


ルキフェル閣下の剣が、嵐の如く彼を襲う。


「おやイヴァンカさん、もしかして無抵抗主義ですか?万策尽きて孤立無縁…挙句の果てには無抵抗とは失笑ですね。雷帝の名が泣きますよ?」


ルキフェル閣下の挑発は、氷の刃のように鋭い。


だが、イヴァンカは顔色一つ変えず、ひたすら防御に徹した。


ルキフェル閣下の斬撃は凄まじく、イヴァンカの右肩と腹部に浅い傷を刻み、血が滴る。


ルキフェル閣下の剣技は、常人の目では捉えきれぬ速さで繰り広げられ、風を裂く音が広間を震わせた。


だが、イヴァンカは痛みの気配すら見せず、黙々と剣を構えた。


突如、ルキフェル閣下の顔が強張った。


イヴァンカから放たれる殺気が、広間を凍てつかせた。


彼は両手で剣を握り、雷鳴の如く振り下ろした。

その一撃は、ルキフェル閣下がかつて見たこともない威力だった。


「ばかな…なぜ…!?」


ルキフェル閣下の胸部に斬り傷が生じ、血飛沫が舞った。


彼の驚愕の声が響く。

イヴァンカは不敵に笑った。



「なるほど、読み通りだ。君の人体に施された私の攻撃に対する耐性とは、私が放つ最大出力以下の全ての攻撃を無効化するもの。つまり、君が解析した私の攻撃の最大出力、それを上回る斬撃ならば、君に届くと言うわけだ。」


「まさか…そんなことが!?」


「出来るさ。この私を誰だと思っているんだ?」


イヴァンカの声は、勝利を確信した獣の咆哮だった。


だが、ルキフェル閣下は再び余裕を取り戻した。



「なるほど…まさかここまで理屈や道理が通じないとは思いませんでしたよ。やはり貴方は恐ろしい人だ。しかし、所詮は付け焼き刃。今の斬撃も解析済みです。先程までの最大出力…限界を上回る攻撃など、そう何度も繰り出せるものではないでしょう?」


その言葉を聞き、イヴァンカは静かに呟いた。



「隔世憑依 天罰の万雷(メネジストルトニス)


前触れなく、イヴァンカは隔世憑依の形態へ移行した。


身体が青紫に発光し、凄まじい電流がビリビリとスパーク音を響かせた。


雷の速度でルキフェル閣下に詰め寄り、雷を帯びた剣を喉元に突き刺した。


攻撃の余波は魔界城第四階を崩壊させ、第五階から最上階まで貫いた。


半径50メートルの雷の渦は、青紫の火柱となって天を衝いた。


最上階でヴェルヴァルト冥府卿と激闘中のエンディは、雷の柱を見て戦慄した。


「イヴァンカめ…暴れすぎだろ…!」


第五階のマルジェラたちは、魔族の死体の山に驚き、雷の柱に絶句した。


だが、ルキフェル閣下は無傷だった。

「残念でしたね、イヴァンカさん。貴方の隔世憑依は既に解析済みです。」


ルキフェル閣下の得意げな声に、イヴァンカは澄ました表情で応じた。


彼の態度に、ルキフェル閣下が眉を細める。



「イヴァンカさん、一つ面白いことを教えて差し上げましょう。私が司る"ストレリチア(極楽鳥花)"のもう一つの花言葉は…"全てを手に入れる"です。」


ルキフェル閣下が酷薄な笑みを浮かべると、左手の掌から強烈な雷が迸った。


イヴァンカは至近距離で直撃を受け、全身に火傷を負った。


感電した身体は思うように動かず、彼は片膝をつき、肩で息をした。



「ふっ…あははははっ!イヴァンカさん!御自慢の雷にその身を包まれた気分はいかかですか?隔世憑依などしたところで、最早貴方の力など私の前では無力です!更にその傷ついた身体では、先ほどの様に最大出力を超えた力を放つことなど不可能!更に私は貴方の能力を手に入れた…どう足掻いても、貴方はここで私に殺される未来しか訪れませんよ!」


ルキフェル閣下は勝利を確信し、イヴァンカの眼前まで近づいた。


イヴァンカは俯き、黙していた。


隔世憑依を解除し、元の姿に戻った。



「さようなら、イヴァンカさん。貴方との戦い、非常に愉しかったです。こんなにも私の心を躍らせてくれる方とは、もう2度と出会えないでしょう。」


ルキフェル閣下が剣を振り上げた瞬間、イヴァンカは俯いたままニヤリと笑った。


口角が上がる不敵な笑みが、ルキフェル閣下に不吉な予感を抱かせた。


イヴァンカは左腕を上げ、掌をルキフェル閣下に向けた。


一瞬の出来事だった。


黒い閃光。

魔族の闇の破壊光線が放たれ、ルキフェル閣下の胸部を貫いた。


「ぐはっ…!」


ルキフェル閣下は吐血し、両膝をつき、血が溢れる患部を抑えた。


イヴァンカは立ち上がり、冷酷な笑みで彼を見下ろした。



「閣下殿、失念していた様だね。私は2年前ユドラ帝国のバベル神殿にて、ヴェルヴァルトが封印されていた巨大水晶から闇の力を吸収していたんだよ。まあ微量ではあるがね。」


ルキフェル閣下の目が見開かれた。

イヴァンカは続けた。



「やはり思った通りだ…どうやら君のその能力、同族である魔族の闇の力を解析することは不可能の様だね。もしそれが可能であれば、君はヴェルヴァルトが持つ強大な力にも耐性をつけることができる筈だ。ヴェルヴァルトを凌駕する力があるのであれば、君はヴェルヴァルトを殺し、自身が魔族の頭領になる道を選んでいるに違いない。だが君はヴェルヴァルトに忠誠を誓っている…それは、ヴェルヴァルトが君を遥かに凌ぐ強さを誇っているからだろう?君の様に高慢ちきな男は、自分よりも弱き者になど絶対に従わないだろうからね。万能とは程遠かったね、閣下殿。」


イヴァンカの言葉は、ルキフェル閣下の全てを見透かしていた。


怒りに震えるルキフェル閣下が叫んだ。


「許さねえ!絶対に許さねえぞテメェ!イヴァンカてめえこの野郎!!クソガキ1匹が図に乗りやがってコラ!ぶっ殺してやる!絶対にぶっ殺してやる!この俺をコケにしやがった野郎は誰であろうと許さねえ!!1人残らずぶっ殺してやるからなあぁ!!」


その豹変ぶりは、ジェイドやエラルドのような粗野なチンピラを彷彿とさせた。


気高く冷静だったルキフェル閣下が、我を忘れて癇癪を起こす姿に、イヴァンカは一瞬、目を疑った。


ルキフェル閣下は叫び疲れ、顔を伏せ、苦渋に沈んだ。


「安心したまえ閣下殿、私はこう見えて口が堅いんだ。今のは見なかった事にしよう。」


イヴァンカは黒い稲妻を刀身に纏わせ、冷たく言い放った。


「華麗なる復讐劇など、私にとっては序曲に過ぎない。君とヴェルヴァルト、エンディにカイン…厄介で目障りな連中は須く葬り去り、人類も魔族も全て傅かせ、今度こそ万物の頂点へと立ってみせる。誇れ、新たなる神話創生の礎となる事を。」


ルキフェル閣下は顔を上げ、皮肉な笑みを浮かべた。


命乞いなどせず、潔く死を受け入れた。

イヴァンカの剣が振り下ろされ、闇の力と雷が同時攻撃を繰り出した。


ルキフェル閣下の上半身は深い斬り傷を負い、黒い雷に灼け、崩れ落ちた。



「愉しかったよ閣下殿。もし君が過信さえしていなければ、死んでいたのは私の方だったね…。」


魔界城第四階の戦いは、イヴァンカの勝利で幕を閉じた。


強力な敵幹部、冥花軍(ノワールアルメ)は壊滅した。


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