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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
130/158

虎穴の対峙 聖炎と闇の炎


魔界城の最上階、闇に閉ざされた玉座の間は、終焉の舞台と化していた。


エンディとヴェルヴァルト冥府卿の死闘は、ついに決着の局面へと至った。


だが、優勢は圧倒的にヴェルヴァルト冥府卿に傾いていた。


金色の風を纏ったエンディの攻撃は、雷鳴の如く轟き、空間を切り裂いた。


だが、ヴェルヴァルト冥府卿はその一撃を悠然と受け止め、傷すら瞬時に超速再生の力で癒してしまう。


まるで不滅の巨岩の如く、彼は揺るがなかった。


対するエンディは、肉体に刻まれる傷と疲労が積もり、勝機の光は遠く霞んでいた。

それでも、彼の魂は折れなかった。


「うおおおおおっ!!」

エンディはボロボロの身体を鋼の意志で奮い立たせ、歯を食いしばり、ヴェルヴァルト冥府卿に拳を振り上げた。


だが、ヴェルヴァルト冥府卿が人差し指を軽く弾くだけで、凄まじい風圧がエンディを吹き飛ばした。


仰向けに倒れたエンディは、荒々しい息を吐きながら、闇に覆われた空を見上げた。


その目は、悲しみと怒りに燃えていた。

「見れば見るほど邪悪な空だな…。お前が世界から光を奪ったせいで…!」


エンディはムクリと起き上がり、怒りの炎を瞳に宿し、ヴェルヴァルト冥府卿を睨みつけた。


ヴェルヴァルト冥府卿は鼻で笑い、悠然と答えた。


「奪ったとは…また随分と乱暴な言い方だな。余は、永遠に明ける事無き可惜夜の愉楽を、皆と平等に分かち合いたいだけだ。」


彼の眼差しは、闇に沈んだ世界を見渡す王のそれだった。


自身が創り上げたこの暗黒の楽園に酔いしれ、陶酔の微笑を浮かべていた。


だが、エンディはその言葉を戯言と切り捨て、聞く耳を持たなかった。



「さっさとお前ぶっ飛ばして…何もかも取り返してやるからな!覚悟しろよヴェルヴァルト!」


エンディは再び、果敢に立ち向かった。両者の戦いは、なおも終わりを迎える気配を見せなかった。



場面は魔界城第四階の広間へと移る。

そこは、血と絶望が染みついた戦場だった。


「そんな…キリアンさんが…。」

「キリアンさんが…やられちまった…!」


キリアンの敗北は、魔族の戦闘員たちに重い絶望を刻みつけた。


彼らの士気は、まるで風に散る灰の如く崩れ落ちた。


一方、キリアンを討ち取ったクマシスは、勝利の陶酔に浴し、哄笑を響かせた。



「がはははは!おいおいマジかよ冥花軍をたおしちまったぜ!!これは大金星だ!!おい!ロゼはどこだぁ!誰かあのバカ国王に伝えておけよ!今すぐこの俺に国民栄誉賞を贈れとな!」


クマシスの声は、主君ロゼへの無礼を極め、さらには直属の上司サイゾーや上級のマルジェラにまで矛先を向けた。



「おいコラ!お前らよくも今までこの俺を顎で使ってくれたな!コラ!サイゾー!今日から俺の事は様付けしろよな!もう貴様とは住む世界が違うんだからよ!コラ!マルジェラ!俺は今日から貴様と同格だ!歳下なんだからちゃんと"クマシスさん"って呼べよな!」


マルジェラとサイゾーは、内心で煮え滾る怒りと微かな殺意を抑え込んだ。


クマシスの勝利と彼が救った命は、否定しがたい事実だったからだ。


言葉を飲み込み、沈黙で応じた。


だが、ダルマインだけは我慢を捨て、吠えた。


「おいクマシス!調子に乗ってんじゃねえぞてめえ!てめえが勝てたのは、俺様の華麗なるアシストがあってこそだろうがよ!」


「がはは!何が華麗なるアシストだよ!この加齢臭がきつい中年オヤジめがぁ!」


クマシスの無遠慮な哄笑は、戦場の緊張を一瞬和らげた。


だが、その軽薄な空気は、突如として凍てつく殺気に呑まれた。


ジェイドが現れた。


狂気が獣の形を成したかの如きその姿は、広間を瞬時に支配した。


中性的な顔立ちとは裏腹に、粗暴な気性は冥花軍随一。


血に飢えたハイエナの眼差しが、獲物を求めて城内を舐め回した。


「ヒャハハッ!こんな所までご苦労さん!もう冥花軍生き残ってんのは俺と閣下だけかあ!てめえら意外とやるじゃねえかよぉ!」


空中に浮遊するジェイドは、高い天井からマルジェラたちを見下ろした。


マルジェラたちは臨戦態勢を整えようとしたが、長引く戦いで肉体は限界に達し、ジェイドに対抗する力はほぼ尽きていた。


ラーミアの治療を受ける時間もなく、ノヴァ、エラルド、ロゼの回復はなお遠かった。


「奴の首に刻まれた花は確か…"ジャーマンアイリス!"花言葉は…"炎"だったか!?」


「うん…。視界に入った万物を、闇の力と融合した黒い炎で焼き尽くす能力だったね…。」


マルジェラとラベスタの声は、警告の如く響いた。



「ヒャハッ!御名答!もうてめえら全員俺の視界にはまってんぜ!馬鹿どもが!ヒャハハハッ!まあ、馬鹿なのは当然か!君子は危うきには近寄らねえもんなぁ!」



ジェイドの両眼が黒く輝き、広間のほぼ全てをその視界に捉えた。


マルジェラたち、ナカタムの戦士、キリアンの亡骸、魔族の戦闘員。


彼は一切の例外なく、すべてを黒い炎で焼き尽くすつもりだった。


その無慈悲さは、残忍な狂人の本性を剥き出しにしていた。


黒い炎が広間を飲み込み、すべてを灰燼に変えんと迫った。



「アマレット!結界を張って!」


アベルが取り乱して叫んだが、アマレットは半泣きで答えた。


「無理!もう間に合わない!」


ナカタムの魔法戦士も魔族も、黒い炎から逃げ惑い、広間を駆け回った。


絶体絶命。

誰もが命を諦めかけたその瞬間、突如、黄金と深紅の豪火が天井に向かって昇った。


黒い炎と激突し、呆気なく相殺した。


「へぇ…お前頭悪そうに見えるけど、意外と難しい言葉知ってるんだな。感心したぜ?」


どこからともなく響く声。

その場にいた誰もが確信した。


黒い炎を打ち消し、幾度も窮地を救ってきたこの男の正体を。


カインだった。


「カインーーー!!」

アマレット、ラーミア、ジェシカ、モエーネ、クマシス、ダルマインの六人が、声を揃えて泣き叫んだ。


安堵が魂の底から溢れ出した。


「カインちゃ〜〜〜ん!会いたかったぜぇ〜〜〜!?」

ジェイドは狂気の笑みを浮かべ、カインを直視した。


「感心したついでに、今のお前にうってつけのことわざを一つ教えてやるぜ?"飛んで火に入る夏の虫"…!」

カインはジェイドを指差し、得意げに言い放った。


ジェイドは困惑の表情で反論した。


「夏じゃねえし入ってきたのはてめえの方だろぉ〜〜!?」



カインとジェイドが対峙した。


広間は、運命の炎に灼かれる新たな戦場と化した。

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