表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
125/158

狂乱遊戯と凍てつく神罰


魔界城最上階は、血と誇りが交錯する聖戦の場だった。


エンディとヴェルヴァルト冥府卿は、互いの命を賭けた死闘を繰り広げていたが、突如戦いを中断し、上空を見上げた。


闇の雲を突き破り、3つの巨大隕石が魔界城を目掛けて落下していた。


「はぁ!?なんだよ…あれ…!?」

エンディは口をあんぐり開け、驚愕した。


全身は打撲で傷つき、折れた肋骨が肺を刺し、肩で喘ぐ息は苦悶に満ちていた。


対するヴェルヴァルト冥府卿は、悠然と笑った。



「フハハハハッ!シュピールの奴め、中々面白い余興を見せてくれるではないか!」

彼の超速再生能力は、エンディの攻撃による傷を瞬時に癒し、その巨躯は不倒の要塞の如くそびえ立った。


部下シュピールの天変地異を、誇らしげに眺めるその姿は、破滅を愉しむ魔王そのものだった。


城内の戦士たち—ナカタム軍も魔族も、隕石の危機に気づかぬ者が多かった。


だが、ジェイドは異変を即座に察知。



「あぁ!?おいおいありゃあ隕石じゃねえかよぉ!?シュピールの野郎!頭イカれちまったのかぁ!?笑えねえぞコラ!」

窓を叩き割り、上空を見上げて怒号を上げた。


一方、イヴァンカは冷酷な微笑を浮かべた。

「なるほど…隕石か。今しがた、ヴェルヴァルトを斬首刑に処すイメージが沸いていたところだ。試し斬りにはちょうど良さそうだね。」

剣を抜き、狂気の瞳で天を仰いだ。




二階では、シュピールの錯乱が頂点に達していた。


「あっはっはっはっはー!何もかもぶっ壊れちゃえ!どいつもこいつも死んじゃえーー!!」

虚ろな目で空に吠え、オンシジウムの「遊び心」が世界を滅ぼす狂気を解き放った。


モスキーノは恐怖に震え、両手で頭を抱えた。

「わぁーー!!どうしよう!!どうしよう!!やばいよやばいよ〜〜!!隕石が落ちてくるよおーー!!」城内を走り回り、壊れた壁から外を覗いた。


「あははははっ!みっともないねモスキーノ!もっと叫べよ!喚け!泣け!慄け!絶望しろ!壊れろ!あはははははっ!!」

シュピールはモスキーノの狼狽を嘲笑った。


「あっはっはっはっ!だっせぇ〜〜!震えてやんの!!チキン野郎が!ねえねえ、怖いの!?それともあれか?武者震い!?」

だが、モスキーノは空を見上げ、微かに声を震わせた。


「ううん…どっちも違うよ。なんか…"寒い"なあと思ってさ。」


「は?寒い?どこが?ビビりまくって怖気が止まらないってか!?」シュピールが煽った。


だが、隕石が大気圏に突入し、数万度の熱で魔界城は蒸し風呂の如く灼熱に包まれていた。



魔法戦士たちも魔族の軍勢も汗にまみれ、気絶する者も続出した。


そんな中、モスキーノの「寒い」は異様な響きを帯びていた。


隕石は刻一刻と迫り、地上への着弾が目前だった。


「あははははっ!一緒に地獄へ行こう!一緒に堕ちるところまでとことん堕ちようよ!」

シュピールは心中を悦び、死を覚悟した。


だが、モスキーノは動いた。


壊れた壁から飛び出し、隕石へ向かって突き進んだ。


「はっ!トチ狂ったか!勝負だけじゃなくて身までも投げるなんて…それでも天生士か!?それでも団長か!?なんとか言えよモスキーノ!」

シュピールの叫びは届かなかった。




モスキーノは隕石を見据え、氷の瞳で微笑んだ。


「隕石かあ…こんなの落っこちたら大惨事だぁ…。とんでもない災害だね。だったら…それを上回る大災害で食い止めてあげるとするか。」

その声は、静かな決意に満ちていた。


「隔世憑依 天国の冷気(シエルキュルマ)


唱えた瞬間、空気がパキパキと凍りつき、天地が震えた。


人智を超えた冷気が、世界を白銀の静寂で包んだ。


モスキーノの姿は純白に変貌し、雪の神使の如く輝いた。

まるで、悪を滅す天の使者そのもの。


その神秘性に、シュピールは心を奪われ、敵に魅入った己を恥じた。


モスキーノは軽く吐息を吹きかけた。

白い光を帯びた蒸気が、太い円柱となって隕石へ突き進んだ。


3つの隕石は瞬時に凍結し、巨大な氷塊と化した。


そして、落下する間もなく、微粒子すら残さず消滅した。



大地を荒野に変える脅威は、モスキーノの冷気によって無に帰した。


「どうした僕ちゃん?まさか怖いとか?この…万物を無に帰す無敵の冷気が!」

モスキーノの意地悪な声に、シュピールは憤激した。


「調子に乗るなよ!たかだか人間如きが!何が万物を無に帰す無敵の冷気だよ!笑わせてくれるじゃん!だったらさあ…太陽を凍らせてみろよ!!」


「太陽と戯れたいなぁ!!」


血走った目で叫ぶシュピールに、モスキーノの顔は凍りついた。


「あははははっ!流石の君も太陽を凍結させる事なんて出来ない!出来っこない!不可能だ!さあ太陽…こい!太陽を地球に衝突させて…お前ら全員!!惑星諸共消し去ってやる!あははははっ!」

シュピールの狂笑が響いた。


だが、彼の身体に異変が起きた。

感覚が冷気によって奪われ、肉体は凍結し、湯気のような熱が溢れ出した。


「ははっ、太陽って…勘弁してよ。でも、その判断が少し遅かったね。」

モスキーノは勝利の微笑を浮かべた。


シュピールは死を悟り、静かに佇んだ。


「あははっ…遊んでくれてありがとうね、モスキーノ。どうやら僕の遊び心の負けのようだ。いや…心中の道を選んだ時点で、僕も僕の遊び心も既に…君に負けてたんだね。そんな冷気、とてもじゃないが僕の手に負えないよ…。」

悲しげな瞳で呟き、シュピールの肉体は影も形もなく消滅した。


モスキーノはその最期を、寂しげな少年の姿として心に刻んだ。


「天晴れ!」

モスキーノはシュピールの超人的な力に敬意を表し、笑顔で一度だけ手を叩いた。


魔界城外の戦いは、モスキーノの勝利で幕を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ