狂乱遊戯と凍てつく神罰
魔界城最上階は、血と誇りが交錯する聖戦の場だった。
エンディとヴェルヴァルト冥府卿は、互いの命を賭けた死闘を繰り広げていたが、突如戦いを中断し、上空を見上げた。
闇の雲を突き破り、3つの巨大隕石が魔界城を目掛けて落下していた。
「はぁ!?なんだよ…あれ…!?」
エンディは口をあんぐり開け、驚愕した。
全身は打撲で傷つき、折れた肋骨が肺を刺し、肩で喘ぐ息は苦悶に満ちていた。
対するヴェルヴァルト冥府卿は、悠然と笑った。
「フハハハハッ!シュピールの奴め、中々面白い余興を見せてくれるではないか!」
彼の超速再生能力は、エンディの攻撃による傷を瞬時に癒し、その巨躯は不倒の要塞の如くそびえ立った。
部下シュピールの天変地異を、誇らしげに眺めるその姿は、破滅を愉しむ魔王そのものだった。
城内の戦士たち—ナカタム軍も魔族も、隕石の危機に気づかぬ者が多かった。
だが、ジェイドは異変を即座に察知。
「あぁ!?おいおいありゃあ隕石じゃねえかよぉ!?シュピールの野郎!頭イカれちまったのかぁ!?笑えねえぞコラ!」
窓を叩き割り、上空を見上げて怒号を上げた。
一方、イヴァンカは冷酷な微笑を浮かべた。
「なるほど…隕石か。今しがた、ヴェルヴァルトを斬首刑に処すイメージが沸いていたところだ。試し斬りにはちょうど良さそうだね。」
剣を抜き、狂気の瞳で天を仰いだ。
二階では、シュピールの錯乱が頂点に達していた。
「あっはっはっはっはー!何もかもぶっ壊れちゃえ!どいつもこいつも死んじゃえーー!!」
虚ろな目で空に吠え、オンシジウムの「遊び心」が世界を滅ぼす狂気を解き放った。
モスキーノは恐怖に震え、両手で頭を抱えた。
「わぁーー!!どうしよう!!どうしよう!!やばいよやばいよ〜〜!!隕石が落ちてくるよおーー!!」城内を走り回り、壊れた壁から外を覗いた。
「あははははっ!みっともないねモスキーノ!もっと叫べよ!喚け!泣け!慄け!絶望しろ!壊れろ!あはははははっ!!」
シュピールはモスキーノの狼狽を嘲笑った。
「あっはっはっはっ!だっせぇ〜〜!震えてやんの!!チキン野郎が!ねえねえ、怖いの!?それともあれか?武者震い!?」
だが、モスキーノは空を見上げ、微かに声を震わせた。
「ううん…どっちも違うよ。なんか…"寒い"なあと思ってさ。」
「は?寒い?どこが?ビビりまくって怖気が止まらないってか!?」シュピールが煽った。
だが、隕石が大気圏に突入し、数万度の熱で魔界城は蒸し風呂の如く灼熱に包まれていた。
魔法戦士たちも魔族の軍勢も汗にまみれ、気絶する者も続出した。
そんな中、モスキーノの「寒い」は異様な響きを帯びていた。
隕石は刻一刻と迫り、地上への着弾が目前だった。
「あははははっ!一緒に地獄へ行こう!一緒に堕ちるところまでとことん堕ちようよ!」
シュピールは心中を悦び、死を覚悟した。
だが、モスキーノは動いた。
壊れた壁から飛び出し、隕石へ向かって突き進んだ。
「はっ!トチ狂ったか!勝負だけじゃなくて身までも投げるなんて…それでも天生士か!?それでも団長か!?なんとか言えよモスキーノ!」
シュピールの叫びは届かなかった。
モスキーノは隕石を見据え、氷の瞳で微笑んだ。
「隕石かあ…こんなの落っこちたら大惨事だぁ…。とんでもない災害だね。だったら…それを上回る大災害で食い止めてあげるとするか。」
その声は、静かな決意に満ちていた。
「隔世憑依 天国の冷気」
唱えた瞬間、空気がパキパキと凍りつき、天地が震えた。
人智を超えた冷気が、世界を白銀の静寂で包んだ。
モスキーノの姿は純白に変貌し、雪の神使の如く輝いた。
まるで、悪を滅す天の使者そのもの。
その神秘性に、シュピールは心を奪われ、敵に魅入った己を恥じた。
モスキーノは軽く吐息を吹きかけた。
白い光を帯びた蒸気が、太い円柱となって隕石へ突き進んだ。
3つの隕石は瞬時に凍結し、巨大な氷塊と化した。
そして、落下する間もなく、微粒子すら残さず消滅した。
大地を荒野に変える脅威は、モスキーノの冷気によって無に帰した。
「どうした僕ちゃん?まさか怖いとか?この…万物を無に帰す無敵の冷気が!」
モスキーノの意地悪な声に、シュピールは憤激した。
「調子に乗るなよ!たかだか人間如きが!何が万物を無に帰す無敵の冷気だよ!笑わせてくれるじゃん!だったらさあ…太陽を凍らせてみろよ!!」
「太陽と戯れたいなぁ!!」
血走った目で叫ぶシュピールに、モスキーノの顔は凍りついた。
「あははははっ!流石の君も太陽を凍結させる事なんて出来ない!出来っこない!不可能だ!さあ太陽…こい!太陽を地球に衝突させて…お前ら全員!!惑星諸共消し去ってやる!あははははっ!」
シュピールの狂笑が響いた。
だが、彼の身体に異変が起きた。
感覚が冷気によって奪われ、肉体は凍結し、湯気のような熱が溢れ出した。
「ははっ、太陽って…勘弁してよ。でも、その判断が少し遅かったね。」
モスキーノは勝利の微笑を浮かべた。
シュピールは死を悟り、静かに佇んだ。
「あははっ…遊んでくれてありがとうね、モスキーノ。どうやら僕の遊び心の負けのようだ。いや…心中の道を選んだ時点で、僕も僕の遊び心も既に…君に負けてたんだね。そんな冷気、とてもじゃないが僕の手に負えないよ…。」
悲しげな瞳で呟き、シュピールの肉体は影も形もなく消滅した。
モスキーノはその最期を、寂しげな少年の姿として心に刻んだ。
「天晴れ!」
モスキーノはシュピールの超人的な力に敬意を表し、笑顔で一度だけ手を叩いた。
魔界城外の戦いは、モスキーノの勝利で幕を閉じた。




