表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
123/158

漢気炸裂 外道の矜持


魔界城一階の広間は、血と静寂が交錯する戦場の墓標だった。



メレディスク公爵を一刀両断で討ち取ったバレンティノは、両頬の赤褐色の十字架がスーッと消えるのを見届けた。


プルトノア族の呪い払いの力は、500年の因果を断ち切った。


だが、彼はすぐにスカーフを巻き直し、顔半分と首を隠した。


十字架の有無に関わらず、スカーフは彼の心の鎧だった。


人前で素顔を晒すことへの抵抗は、長年の習性を超えるものではなかった。


バレンティノの脳裏に、ポナパルトの言葉が甦った。



「俺たちは仲間の死に涙を流すべきじゃねえ。それは、国の為に命を賭して戦った者に対する侮辱行為の他ならねえからな。仲間の死を次の何かに繋げる…それこそがせめてのも餞だ。」

あの時のポナパルトの目は、涙に濡れていたのか、ただの錯覚だったのか。

答えは永遠に失われた。


「フフフ…全くもってその通りだよねえ、ポナパルト。仲間の死を嘆いて涙を流すなんて愚の骨頂…そんな事しても現実は何も変わらないしねえ。でも…冥福を祈ることは、個人の自由だよねえ。君が為す術無く敗北した男は、俺がきっちり殺しておいたよ。だから…化けて出てこないでよね。大人しく眠っててよね。」


彼は手を合わせず、静かにポナパルトの魂に語りかけた。


「フフフ…俺もすぐそっちへいけると思ってたけど…どうやらもう少し長生きできそうだよ。まあ…この戦いに勝てればの話だけどねえ。」

剣を鞘に収め、バレンティノは上階への長い階段を登り始めた。

その背中は、孤独と決意の重さを静かに湛えていた。



一方、魔界城二階は混沌の坩堝だった。


ダルマインは、13体の魔族に追い詰められ、泣き叫びながら逃げ惑っていた。


「ぎゃー!やめてくれ!金ならやる!だから命だけは勘弁してください!!命だけはあぁぁ!!」

涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし、命乞いの叫びを上げた。だが、魔族の殺意は容赦なく彼を追った。


その時、5人のナカタムの戦士が剣を振り、魔族を一掃した。


「おお…おめえら!助けてくれたのか!くるしゅうねえぜ!!」

ダルマインは歓喜したが、戦士たちの目は冷たかった。


「誰がお前なんか助けるかよ!」


「邪魔だからすっこんでろ!大体、なんでお前ここに来たんだよ!?」


彼らの剣はダルマインのためではなく、敵を討つためだけに振るわれた。

ダルマインは肩を落とし、悄然とした。


だが、刹那、異変が起きた。


天井から小型爆弾が雨のように降り注ぎ、魔法戦士たちを直撃。


「なんだ!?何事だ!?」


「なんだこの爆弾は!!」

フロアはパニックに陥った。


続けて、20丁の機関銃が虚空に現れた。


引き金も射手もない銃が、意志を持ったかのように戦士たちへ弾丸を浴びせた。


発砲音と悲鳴が響き合い、鎧や防弾装備で軽傷を免れた者もいたが、頭部を撃ち抜かれた数名は即死した。


「くそっ…なんなんだ今のは!?」

魔法戦士たちの間に恐怖が広がった。


「な…何が起きたんだ…!?」

物陰に隠れたダルマインは、血の気を失った。


背後から、少年の無邪気な笑い声が響いた。



「あははっ!おもしろーい!ねえねえ!見た!?今の!あいつらの驚く顔!傑作だよねえ〜!!」

振り返ると、漆黒のローブを纏い、首に黄色い花を刻んだ少年が立っていた。


ラメ・シュピール。

魔界城の建造者であり、冥花軍の筆頭戦力だ。


「おおおおおおい…お前が…やったのか…!?」

ダルマインの震える問いに、シュピールは答えず、顎をつま先で蹴り上げた。


「おわああぁぁっ!いでぇー!いでぇよぉ!!」


シュピールは小さな手でダルマインの首を絞めた。


「や…やめてくれっ!俺様はお前に危害を加える気なんてねえんだ!信じてくれ!第一、俺様を殺したって箔なんかつかねえぞ!?むしろ笑い者になるだけだ!なっ!?良い子だからその手を離してくれ!どうか慈悲を!!」

ダルマインは白目を剥き、命乞いに喘いだ。


シュピールは顔を近づけ、屈託なく笑った。


「ねえ、エンディはどこ?僕あいつを殺したいんだ!」

彼はついさっきまで眠っていたため、ヴェルヴァルト冥府卿とのエンディの死闘を知らなかった。


「強いんでしょ?エンディって。だから僕が殺してやりたいんだ。エンディの首を献上すれば、御闇は喜んでくれるかな?僕ね、御闇に褒められたいんだ!だから教えてよ、エンディがどこにいるのか!」

胸を躍らせて問うた。


「知らねえ!あいつがどこにいるかなんて、俺様が知るわけねえだろ!?」

ダルマインは首を激しく振った。


「嘘つかないでよ。早く教えてよ。」

シュピールが苛立つと、ダルマインはさらに激しく首を振った。


「嘘じゃねえ!本当に知らねえんだ!口の軽さでこの俺様の右に出る者はこの世にいねえ!この口の軽さで、俺様が今までどれほどの災いを起こしてきたと思ってるんだ!その俺様が知らねえって言ってんだから信じてくれよ!!」


シュピールは汚物を見るような目でダルマインを見下ろした。


ダルマインは首を振りすぎて疲れ果て、「ぜぇ…ぜぇ…」と呼吸を整えた。


だが、大きく深呼吸した後、歯を剥き出しにニヤリと笑い、シュピールを見上げた。


「つうかよお…知ってても教えねえよ馬鹿野郎…!あいつは俺様の仲間だからなあ…!」


その目は泳ぎ、声は震え、身体は恐怖で震えていた。だが、そこには確かな意志が宿っていた。


「…どういうつもり?」

シュピールの声は冷たかった。


「どういうつもりもクソもねえよ…確かに俺様はよぉ、自他共に認める救いようのねえゴミクズ野郎だ。だけどな…腐っても男だ!!だからこの命に換えても…見込んだ男を敵に売る様な真似は絶対にしねえんだよ…分かったかクソガキ!!」

ダルマインは啖呵を切り、歯をガチガチ鳴らしながら震えた。

だが、彼の言葉に悔いはなかった。


「見込んだ男?君みたいなブタに見込まれてるエンディが気の毒に思えてきたよ。」

シュピールは嘲笑した。


ダルマインは言葉を続けた。

「エンディはな…あいつは…いつも自分よりも他人の事ばっか考えてんだよ。自分の危険なんて一切顧みずによぉ…仲間の想いやら悲しみやら…全部1人で背追い込んで…もがいてもがいて、いつも何かと戦ってやがるんだ…まだ18やそこらのガキのくせしやがって…。長いことあいつを見てきたせいでよぉ、俺様はそんなあいつの男気に惚れちまったのさ。人類が滅亡しちまうかもしれねえこんな戦いですら、あいつは必死に足掻きながら…自分のことは二の次で…この世界をぜーーんぶ1人で背負った気になって戦ってんだ!こんなカッケェ奴他にいるか?だから俺様は…惚れ込んだ男の生き様をこの目でしっっかりと見届けてえんだよ…。」


その言葉は、威厳とは程遠い姿ながら、純粋な信念を響かせた。


かつてのダルマインなら、命乞いか裏切りを選んだだろう。


だが、エンディの不屈の魂に触れ、彼の卑劣で荒んだ心は変わったのだ。


シュピールの手を振り払い、立ち上がったダルマインは、一点の濁りもない瞳で叫んだ。


「男一匹ダルマイン!外道と呼ばれて早47年!人を嫌い人に嫌われ、人を憎み人に憎まれ、お天道様に顔向できねえ生き方ばかりしてきた!だが…それでも見込んだ男は死んでも裏切らねえ!命は捨てても…魂だけは死んでも売らねえ!それが男の中の男、ダルマイン様の生き様よ!」


その叫びは、遺言のように響いた。


シュピールは冷めた目で睨み、「あっそ。で?言いたいことはそれだけ?くだらな。もう死ねよ。」と言った。


右手に闇の力を込め、ゼロ距離で破壊光線を放とうとした。


だが、刹那、シュピールは冷たい殺気を感じ、肝を冷やした。


攻撃を止め、後方を振り返ると、満面の笑みを浮かべたモスキーノが立っていた。


「やるじゃんダルマイン!見直したよ!か〜っこ良い!!」モスキーノは拍手を送った。


「モスキーノーー!!助けにきてくれたのかあ!!!」ダルマインは涙を流し、安堵した。


「別に助けに来たわけじゃないよ〜。たまたまだよ、たまたま。後、個人的にこういうガキは嫌いだからね…ついお仕置きしたくなっちゃって!」

モスキーノの無垢な笑顔の裏に、シュピールは狂気と殺気を見抜いた。


「調子乗ったクソガキの長い鼻っ柱へし折るのが、年長者の義務でしょ〜?」


「僕、こう見えても君より500個以上先輩なんだけどな。」


モスキーノとシュピールは、笑顔で対峙した。二人の間に、嵐の前の静寂が広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ