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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
12/158

1-11

死体の山に絶句するジェシカ一向!


ジェシカ達は塔の入り口の前で呆然と立ち尽くしていた。


「これは…ひどいね…」


そこは無数の死体が乱舞する阿鼻叫喚の血の海と化していた。


銃撃戦は続いていたが、明らかに囚人グループは劣勢だった。


「ジェシカさん、こりゃとても取引なんかできる状況じゃねえ!引き返しやしょう!」

ギャングの男達はひどく怖気づいていた。


「そうね、あなた達先に船に戻ってなさい」


「え、ジャエカさんはどうするんですかい?」


「ちょっとね…すぐ戻るから待ってて」

そう言い残したジェシカは、単身戦禍の中へ飛び込んでいった。


手下の4人は逃げるようにしてその場を立ち去り、船着場へと引き返した。



いっぱいエンディとフロッドは、エレベーターのあるフロアに到着していた。


各階停まりの9機のエレベーターは高層階から一階に向かって降下している様子だった。


おそらく上の階から援軍が向かって来ているのだろう。


フロッドは40階まで直通のエレベーターが上に向かっているのを確認して、いったい誰が?と言いたげな顔で不信に思っていた。


「だめだ、エレベーターは使えそうにない。くそっ、一足遅かったか!」


「じゃあ階段を登るしかねえ!」


「えぇっ!?冗談でしょ!?」


猛スピードで階段を駆け登るエンディを、フロッドは渋々後ろから追いかけた。



「ところでさっき君が助けたいと言っていた人って、もしかしてラーミアって名前の少女かい?」


「そう!知ってるの??」


2人は階段を駆け上がりながら会話を始めた。


「やはり…そうか、ついに捕まってしまったのか」


「どうしてラーミアは狙われているんだ?」


「これはあくまで噂だが、その少女は"不思議な力"を持っているらしい。ギルド総統はその力を利用して近々、ナカタム王国王都、バレラルクに侵攻するつもりだと聞いたことがある」


「不思議な力?ギルド総統って何者なんだ?」


「不思議な力については分からない。ギルド総統…いや、ギルドはドアル解放軍のトップで、"軍師"と恐れられるキレものだ」


「そっか…そのギルドって奴は、今まで差別してきたナカタムの魔法族に復讐しようとしているのか。それでラーミアを利用しようと…許せねえ!ぶっ飛ばしてやる!」


エンディは怒りで階段をのぼるスピードが加速した。


「かくいう僕もドアル族…無能者と罵られ差別されてきた非魔法使いだ。魔法族を恨んでいないと言えば嘘になる。しかし、こんなことは間違っている!復讐なんて何も生まない!」フロッドは熱く語った。


「フロッドさんの言う通りだ!」エンディは言った。


「君はラーミアって子が好きなんだな?」


「そ、そんなんじゃねえよ!」


エンディは、分かりやすいくらい目が泳いでいた。


そうこうしているうちに、2人は10階に到達した。

すると上から援軍がぞろぞろおりてきて、エンディとフロッドを見つけるなり発砲してきた。


「いたぞ!」「ははっ、正面突破して上に向かっているのはこの2人だけか!」

「おい見ろよ!あいつフロッドじゃねえか!?おい腰抜け野郎!てめえガキ引き連れて何してんだ!?」


2人は不意をつかれたが、運良く被弾を防ぐことができた。


フロッドが持っていた機関銃で応戦すると、軍人達は逆走して身を隠した。


エンディは身を隠している兵隊達を瞬く間に蹴散らし、更に激走した。



一方その頃、ダルマインとその部下達はとっくに40階に到着していた。

45階を目指して、息を潜めながら階段を登っていた。


「しかし提督、えげつないことしますね〜」


「馬鹿野郎!誰かの幸せってのは誰かの不幸の上に成り立ってるんだよ。血の海に浮く屍の山の上に立ち、民衆は平和を謳歌してるんだぜ?」


40階から45階までの階段は驚くほど静かで、人の気配すらなかった。


「よし、着いたぜ。このフロアはギルドとラーミアの部屋があるから今までみたいにすんなり行けねえ…陽動が必要だ…よしおめえら、提督命令だ!派手にぶっ放してこい!」


「えぇ…提督はどうするんで?」


不安げな表情をする部下達を、ダルマインは一喝した。


「おい、少しはオレ様を信用しろよ。おめえらを見捨てる訳ねえだろ?心配すんな、危なくなったらすぐに助けに行くからよ」


「はいっ!俺たち提督に一生着いて行きます!」


すっかりダルマインを信じこんでいる3人は、廊下に出るなり一斉に発砲し、ラーミアのいる部屋とは反対側の通路へと走り出した。


「待て!」「貴様ら何をしている!」


それを見た45階フロアを警備していた軍人達は、一斉に3人を追った。


「ギャハハッ!やっぱ持つべきものは頭の悪い部下だぜ!思考停止した馬鹿が下にいると、上に立つ者は楽だぜ!」


ラーミアの部屋の周辺には誰もいなくなっていた。


ダルマインはこの千載一遇の大チャンスを絶対に逃すまいと、ラーミアの部屋のドアを破壊して中に入った。


「ようラーミア!助けに来たぜ?」


「え、あなたどうしてここにいるの?」


ラーミアは目を丸くしていた。


「エンディは生きてたぜ?お前を助けるために、今下で戦っている!」


「嘘でしょ?本当に…?」

ラーミアは両手で口を塞いで驚愕していた。


「下で騒ぎが起きてるのはお前も何となく察しがついてただろ?俺は仲間を連れてミルドニアを出ることにしたんだ。そこで、お前を助けようとしているエンディと手を組んでクーデターを起こしたんだよ。あいつは今頃インダス艦に向かってるはずだぜ?時間がねえ、オレ達も早くここから出よう!」


「…あなたの言うことは信用できない」


「てんめえぇぇ、時間がねえっつってんだろぉ?グズグスすんなよ!」


ダルマインは癇癪を起こしかけたが、背後に人の気配を感じ、恐る恐る振り返ると、ギルド総統が立っていた。


「ダ、ダルマイン…お前ここで何をしてるんだぁ…?」


「うるせぇドチビ!!」


混乱状態のギルドを、ダルマインは思い切り殴り飛ばした。


「な?これで分かったろ。俺様はもう立派な反逆者なんだよ。お前とエンディはバレラルクまで送り届けるからよ、信じてくれよ!」


「…分かったわ」

半信半疑状態だったが、ラーミアはダルマインと共に部屋を出た。


すると、廊下には十数人の軍人が銃を構えて待ち構えていた。

そして奥から、血潮の付着した大刀を持ったジャクソンが歩いてきた。


「ダルマイン、貴様何の真似だ?」


「お、おいおい落ち着けよ!俺さ…あれはただラーミアが敵に奪い返されてねえか心配でよ、確認にきただけだぜ?」

そんな苦し紛れの言い訳が通用するわけがなかった。


「お前の部下達がさっき全部吐いたぞ。その後殺したがな。お前、楽に死ねると思うなよ?」


「くそっ、あいつらぁ!口の軽い奴は何やらせてもダメだぜ!」

ダルマインは顔をしかめた。


「ラーミアを人質に取ろうなんて思うなよ?お前はもう完全に詰んでるんだよ」

ジャクソンが刃に付着した血をベロリと舐めながら、残忍な笑みを浮かべてそう言うと、ダルマインの表情はみるみるうちに青ざめていった。


絶体絶命の大ピンチに、何を思ったのか、ヤケになったダルマインは、ラーミアを抱き抱えて廊下の窓ガラスを体当りで叩き割った。


「ちくしょう!もうどうにでもなりやがれえぇぇっ!」


ダルマインはそう叫びながら、ラーミアを抱えたまま45階から飛び降りた。


ダルマインは落下している最中に失神した。


ラーミアは目を瞑って恐れ慄いている。

この高さから落ちたら、間違いなく即死であろう。


絶体絶命の2人を救ったのはカインだった。


カインは14階の窓から飛び出して、右腕でラーミアを丁寧に抱き抱え、左手でダルマインの髪の毛を乱暴に掴み、華麗に地上へと着地したのだ。


突然の出来事に、ラーミアは震えが止まらなかった。ダルマインは髪の毛を掴まれた痛みで目が覚めた。


「痛えなあ…なんだあ…?」


「ありがとう。あの…あなたは?」


ラーミアの問いかけに対し、カインは返事をせず、ラーミアの顔をジーっと見つめた。


「うおお!生きてる!奇跡!何だ?お前が助けてくれたのか?おお、こりゃ良い男だなあ!お前見かけねえ顔だが何者だ?」ダルマインは興奮冷めやらぬ様子で尋ねた。


「その女を連れてインダス艦で待機してろ。まだ出航はするなよ、いいな?」


のんきにはしゃいでいるダルマインに、カインは凄んだ。

狂気を匂わせる眼付きと迫力に、ダルマインは圧倒され、ゴクリとつばを飲み込んだ。


「あ、ああ分かったよ…。お前気に入ったぜ?どうだ、俺様の部下にならねえか?」

ダルマインはカインに対し、お前如きにビビってなどいないぞ、と言わんばかりに虚勢を張ってみせたが、カインには通用しなかった。


「黙れ。早く行け」


カインにそう言われると、ダルマインはラーミアを連れて船着場まで走った。


「チッ、いけすかねえガキだな。何様だよあいつ!」


「ねえ、本当にエンディは生きてるの?」


「ああ、今頃インダス艦で俺様の帰還を待っているはずだ!」

ラーミアはどうにも、ダルマインの言うことを信じることができなかった。

そして2人とも、待機してろと言ったカインの言葉が引っかっていた。

まるで、自分が事を収めるから大人しく待っていろ、と言われているようだったからだ。


45階では、ジャクソンとその部下達がダルマインの突然の奇行に呆気に取られていた。


そして気絶していたギルド総統が目を覚まし、ゆっくりと立ち上がった。


「ちくしょうあのやろぉ…この俺を殴りやがった…ぜってぇ許さねえ!」

ギルド総統は、大層御立腹のようだ。


「おめえら何ぼさっとしてやがる!あのクソ野郎はどこだ!」


「ダルマインは死にました。死んだはずです…」

ジャクソンが青ざめた顔で答えた。


「何?殺したのか!?ハハハハッ!仕事が早いな!さすがだぜ!でも俺は殴られたんだぜ?せめて生捕にしてほしかったよ。そうすりゃじわじわとなぶり殺しにできたのによ」


「いえ、それが…ラーミアと一緒に飛び降りました」


ジャクソンがそう言うと、ギルド総統の顔も青ざめていった。


「はあ!?飛び降りただぁ!?ラーミアと!?」


「はい。おそらく拷問されて殺されるのを悟って、自決する道を選んだのかと。そしてラーミアまで道連れに…」


その場にいた全員は、全身の血の気がサーッと引いた。


「どうすんだよ!こんなこと"あいつ"に知られた、俺ら全員殺されんぞっ!?」ギルドは慌てふためいていた。


「"あいつ"って誰のことだ?」


一同、声のする方に目を向けると、ダルマインが割った窓ガラスからカインが侵入してきた。


「なっ、何だお前は?!どうやってここまで?」


「登ってきた」


カインはサラッと答えた。ギルドは腰を抜かしている。


「ナカタム王国の少数民族、ドアル族。お前らは魔法を使えない反面、頭脳明晰な知能派民族と聞いたことがある。科学兵器ばかり製造して何を目論んでるかは問うまでもねえ。おおかた、魔法族に対抗でもしようと目論んでるんだろ?」



カインはカツカツと足音を立てながらギルドの前まで歩み寄った。


「あんたがギルドか。ドアル解放軍のトップであるはずのあんたが、一体誰に怯えているんだ?まさか、死神にでも憑かれてんのか?」


ギルドは腰をぬかしたまま、声も出せないくらい縮み上がっていた。


すると、ジャクソンがカインの首に刃を向けた。


「貴様、何者だ?殺される前に答えろ」


カインは物ともせず、ジャクソンの忠告を無視して再び喋り出した。


「おい、"あいつ"って誰なんだ?お前ら誰の命令で動いてる?」


「な、なんのことだ…??」


「とぼけんなよ、お前らの目的くらい大体見当はつく。これからバレラルクに侵攻でもするんだろ?けどよ、いくらなんでもこんな烏合の衆どもと見掛け倒しのボディガードだけじゃ心許ないだろ?"上"に誰かいるはずだ。そうだろ?武闘派気取りの、お勉強大好き真面目っ子ちゃん?」


「見掛け倒しだと?それは俺のことか?」

ジャクソンは怒りで打ち震えていた。


「アズバールだろ?」


カインがそう言うと、ジャクソンとギルドの脈拍数が増加した。


「図星みたいだな。なるほど、やっと死神の正体が分かったぜ。まさかあの男が生きていたとはな」

カインはそう言いながら、再び歩き出した。


「ま、待て!貴様…どこへ行く!?」

ジャクソンが動揺しながら尋ねた。


「どこって、帰るんだよ。俺はただエンディの付き添いで来ただけだからな。ついでに死神の正体も気になっただけだ。お前らが何を企んでいようと興味はない。もう用はねえよ、じゃあな」


カインは、ジャクソンとギルド総統に背を向け歩きながら言った。

カインが歩くと、軍人達は無意識に道を開けた。


「待てよ小僧、世の中そんな甘くないぞ。生きて帰すわけないだろ?」


ジャクソンがそう言うと、カインはぴたりと歩みを止め、ゆっくり後ろを振り向いた。


「ああ?誰に向かって言ってんだ?」

カインの表情は、狂気を感じさせる恐ろしいものだった。








カイン怖すぎ…

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