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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
119/158

聖光の代償と結界の葬送

集団リンチ!


ロゼの聖槍ヘルメスがヴェルヴァルト冥府卿の腹部を貫き、30センチの風穴を穿った瞬間、時間そのものが凍りついた。


「やったか!?」

カインは、地面に倒れたヴェルヴァルト冥府卿を凝視し、恐る恐る呟いた。


だが、その巨体は微動だにせず、まるで闇の深淵が息を潜めているようだった。


ロゼは膝をつき、聖槍を支えに崩れ落ちた。


全身が小刻みに震え、滝のような脂汗が頬を伝った。


過呼吸に喘ぎながら、彼の瞳には勝利の光と果てしない疲弊が宿っていた。


聖槍ヘルメスの純白の輝きは、悪を焼き尽くす神聖な力だったが、その代償はあまりにも重かった。


「ロゼ国王!大丈夫ですか!?」


「うわー!大変だー!国王様がー!!」


エンディとモスキーノが駆け寄った。

モスキーノの軽快な声に、エンディは一瞬疑念を抱いたが、ロゼの背を優しくさすった。


「くそっ…扱いが…難しいぜ…。」

ロゼは絞り出すように呟き、苦痛に耐えた。


「おいおい、聞いたか?あの光は悪しき者の眼には映らねえらしいじゃねえかよ。なあノヴァ、お前ちゃんと見えてたか??」

エラルドがニヤケ顔でノヴァを挑発した。


「あ?どういう意味だ?見えてたに決まってんだろうが!」ノヴァはムッとして反撃。


「え!?見えてたんか!?ギャングのボスのくせに!?」


エラルドが畳み掛けると、「うるせえ!使徒隊の下っ端だった男に言われたくねえよ!てめえこそ見えてなかったんじゃねえか!?」ノヴァが吠えた。


「んだとコラァ!!」

二人の言い合いは、戦場の緊張を一瞬和らげた。


「あー…そういえばそんな時代もあったなあ…懐かしい。確か…ぷっ…ノヴァファミリーだったっけ?」

エンディが横槍を入れた。


「ぎゃっはっはー!ノヴァファミリー!俺の耳にはギャングとは名ばかりの素人の武器商人とチンピラの集まりだったと聞いてるぜ!?」エラルドが哄笑した。


「てめえら…人の黒歴史には容易く踏み込むべきじゃねえぜ?死にたくなかったらな!!」

ノヴァは激昂し、堪忍袋が破裂。


「なんだコラ!やんのか!?」

エラルドとノヴァは、隔世憑依の巨体で取っ組み合いを始めた。


「おいやめろよこんな時に!」

エンディは黄金の風を纏い、仲裁に飛び込んだ。


「いいぞー!やれやれー!!」

モスキーノはまるで祭りでも見るように囃し立てた。


「ったく、緊張感のない奴らだぜ…。」

カインは呆れつつ、内心で安堵した。


聖槍の光が見えていた自分に、かすかな誇りを感じていた。


彼はイヴァンカに視線を向け、「おい、お前は見えてたのか?」と尋ねた。


「ふっ、聞くまでもないだろう。当然…見えていない。」イヴァンカは誇らしげに微笑んだ。

その答えは、彼の悪人としての矜持を物語っていた。


だが、刹那、ヴェルヴァルト冥府卿がムクリと起き上がった。


巨体から放たれる殺気は、空間を凍てつかせた。


カインとイヴァンカは瞬時に構え、モスキーノはロゼを守るべく身を挺した。


ヴェルヴァルト冥府卿は巨大な足を薙ぎ払い、鉄をも砕く風圧が戦士たちを襲った。



「おい!でけえのきたぞ!避けろ!」

カインが叫んだが、エンディ、エラルド、ノヴァは喧嘩に夢中で耳に入らなかった。



「うわあああああぁっ!!」

三人は風圧に呑まれ、間抜けな叫びを上げながら宙を舞った。


「何やってんだお前ら!ふざけてんじゃねえぞ!」

カインは怒りと呆れを爆発させた。


「ふははははっ!中々やるではないか!みくびって悪かったな!ロゼ…お前を強敵として認めよう!だが、その力は諸刃の剣…扱いはお粗末なものだったな。」ヴェルヴァルト冥府卿は、腹部の風穴から血を流しながらも哄笑した。



「無理しないでよ、御闇さん!」

モスキーノはニコリと笑い、周囲の空気を瞬時に凍らせ、無数の氷の刃を創出した。


刃は傷口を目掛けて襲いかかり、「ぐおおおおおおっ!!」ヴェルヴァルト冥府卿は苦悶の声を上げた。


カインが間合いを詰め、傷口に右手を翳した。


「内部からお前を焼き尽くしてやるよ。」

ニヤリと笑い、豪火を注入。



「ぐはああぁぁぁっ!!」

ヴェルヴァルト冥府卿は内側から焼かれ、もがき苦しんだ。


「大口開けてみっともないぞ、御大。」


イヴァンカが雷を口内に叩き込み、落雷の轟音が響いた。


ヴェルヴァルト冥府卿は叫ぶ余裕すら失った。


「よし!一気に追い討ちかけるぞ!!」


「言われなくても!」


ノヴァとエラルドが畳み掛けた。


「傷口もっと拡げてやるぜ!」ノヴァの鉤爪が傷口を突き、「オラオラオラァ!!」エラルドがダイヤモンドの拳で連打した。


だが、ヴェルヴァルト冥府卿が突然起き上がり、エラルドを弾き飛ばした。


苛立つヴェルヴァルト冥府卿の拳がエラルドの頬を捉え、地面に叩きつけた。


ダイヤモンドの身体が地割れを起こし、エラルドは気を失い、隔世憑依が解けた。


ノヴァが動揺した刹那、ヴェルヴァルト冥府卿の指先から放たれた衝撃波が彼を血反吐と共に吹き飛ばし、失神させた。


ヴェルヴァルト冥府卿が二人に止めを刺そうと腕を振り上げた瞬間、「やめろー!!」エンディが膝蹴りをアゴに叩き込み、巨体を一瞬浮かせた。


黄金の風を右拳に纏い、顔面を狙ったが、頭突きのカウンターで吹き飛ばされた。


「うわあああ!痛えええーー!」

額から血を流し、のたうち回った。


その時、ヴェルヴァルト冥府卿の傷口がみるみる塞がった。


「なんだ…!?どうなってるんだ!?」

エンディは動揺した。


「超速再生だ。生きとし生けるものは須く、傷を負っても時間が経てば自然と癒えるだろう?余は、その再生が他の生物と比較して少しだけ速いだけだ。何も驚く事はない。」

ヴェルヴァルト冥府卿は傷が癒えた身体で不敵に笑った。


「嘘だろ…?この強さとタフさに加えて…超速再生って…。」カインは絶望に呑まれかけた。


だが、エンディの瞳は死んでいなかった。


「はっ、なーにが超速再生だよ。だったらその自慢の再生能力が追いつく前に、お前をぶっ飛ばせばいいだけの話だ!」

彼は立ち上がり、黄金の風を纏い、再び構えた。


ヴェルヴァルト冥府卿はニヤリと笑い、戦士たちの不屈を嘲うように見下ろした。




一方、魔界城一階は血と鋼の戦場だった。


ナカタムの魔法戦士たちは圧倒的な数的不利を覆し、バレンティノとアベルの奮闘で優勢を保っていた。


だが、運命は無情にも逆転した。


ラーミアとアマレットが編み出した退魔の結界。


冥花軍の筆頭戦力、ルキフェル閣下、ジェイド、メレディスク公爵を封じていた聖なる障壁が、不気味な予兆と共に揺らぎ始めた。


結界内で、ルキフェル閣下の冷徹な声が響いた。


「おっ!閣下ぁ!やっと解析が終わりましたか!」

ジェイドが歓喜を爆発させた。


「はい。手間取ってしまって申し訳ありません。いくら私の能力をもってしても、退魔の力が施されていてはどうしても時間がかかってしまいました。」

ルキフェル閣下は淡々と答えた。


次の瞬間、結界がガラスのようにパリーンと砕け散った。


「え…?どうして…?」


「そんな…まだ10分しか経ってないのに…なんで!?」

ラーミアとアマレットは呆然とし、頭が真っ白になった。


1時間持つはずの結界が、わずか10分で破られたのだ。


解き放たれたルキフェル閣下は鋭い眼光を放ち、魔界城全体を覆う結界をパリパリと破壊した。


「お前…何をした?」

アベルが問うと、ルキフェル閣下は無言で剣を抜き、一閃。


アベルは反応できず、血を噴き出しながら倒れた。


「ヒャハハっ!殺っちゃうからなぁ!てめぇらぁ!」ジェイドが血に飢えた獣のように吠えた。


「さて…反撃といきますか。」

ルキフェル閣下は酷薄に微笑んだ。


ナカタムの魔法戦士たちは血の気を失い、魔族の猛攻が始まる恐怖に慄いた。


形勢は一気に逆転し、絶望の影が一階を覆った。

解き放たれた3体の強敵!

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