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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
118/158

闇穿つ星芒

ロゼの記憶には、幼き日の剣の重さが今なお刻まれていた。


ナカタム王国の王宮、その練兵場で、彼は背丈に似合わぬ長剣を両手で握り、覚束ない足取りで素振りを繰り返した。


王室近衛聖道騎士団員の厳しい指導の下、汗と涙を流しながら、ただひたすらに剣を振った。


だが、その刃は彼の手になじむことなく、才能の欠如はあまりにも明らかだった。


誰もがその事実に気づいていたが、幼いロゼの懸命な姿に、誰も口に出せなかった。


ロゼの胸には、幼少期から燃えるような願いがあった。


第五次魔法大戦の炎が世界を焼き尽くす中、戦地で命を賭す戦士たちの叫びが、彼の耳に響いていた。


王族として守られた王宮の安寧は、彼にとって耐えがたい重荷だった。


「自分はこんな風にはなりたくない。国のため、民のため、命を賭して戦いたい。号令を下すだけの王ではなく、民を導く真のリーダーになりたい。」


その誓いは、彼の心に深く根を下ろした。


だが、ある日、父レガーロ国王がその夢を打ち砕いた。


「何すんだよクソ親父!返せよ!」

ロゼは剣を奪われ、怒りに震えた。


レガーロは冷ややかに告げた。


「お前に剣の才は無い。いい加減、無駄な努力は辞めろ。」

その言葉は、ロゼの薄々感じていた真実を突きつけ、目の前を闇で覆った。


絶望に打ちひしがれるロゼに、レガーロは背を向けて一言。「着いて来い。」


連れられた先は、王宮の宝物殿だった。


500年の歴史を誇るナカタム王国の遺産—古の鎧、武器、敵国から奪った戦利品や宝物が並ぶ神聖な空間。


ロゼは過去に何度か足を踏み入れたことがあったが、その時はただ呆然と立ち尽くした。


レガーロは一振りの槍を取り出し、ロゼに差し出した。


「なんだよこれ??」

ロゼの問いに、レガーロは静かに答えた。


「これは500年も昔からウィルアート家の国王、もしくは王子へと代々継承されてきた神器だ。お前にやる。」


ロゼは恐る恐る槍を受け取った。


鉄製のロングスピアは、500年の歳月を感じさせぬほど清新で、まるで昨日鍛え上げられたかのように輝いていた。


驚嘆するロ ゼに、レガーロは言った。


「精々精進することだな、放蕩息子よ。」

その言葉には、深い含みがあった。


実はレガーロは、ロゼの剣術の修行を密かに見守り、彼の動きに槍術の才を見出していた。

こいつは化けると確信し、神器を継承させたのだ。


その予見は見事に的中した。


反抗期のロゼは父の言葉を無視しがちだったが、この日を境に槍を握り、修行に没頭した。


12歳で軍事演習に参加し、一般騎士団員を凌ぐ戦闘力を発揮。


年を重ねるごとに槍術の才が開花し、20歳の今、真髄を極めていた。

そして、宿命の敵、ヴェルヴァルト冥府卿に立ち向かう時が来た。




魔界城の最上階、屋根なき玉座の間は、運命の頂点だった。


漆黒の空の下、砕けた玉座の残骸が散乱し、戦士たちの息遣いが闇に響いた。


ロゼは槍を握り、ヴェルヴァルト冥府卿と対峙した。


「ほう…その槍、かつてユラノスが手にしていたものと同じだな。どうりで見覚えがあるわけだ。」

ヴェルヴァルト冥府卿は不敵に笑った。


「ああ…これは500年前、全知全能の唯一神ユラノスが魂込めて作り上げた代物だ。その名も、"魔裂きの神器 聖槍ヘルメス"。てめえをぶっ殺すために、魔法族の始祖ユラノスが直々に作り上げた至高の一品だぜ?」

ロゼは誇らしげに語り、華麗な手捌きで槍を振り回した。


その動きは、まるで風を切り 裂く舞のようだった。


聖槍ヘルメスは、ユラノスがヴェルヴァルト冥府卿を討ち斃すために鍛えた神器だった。


だが、500年前、ユラノスは不意を突かれ、槍を使う間もなく倒れた。


神器は神国ナカタムの貴族、ウィルアート家に託され、秘密裏に受け継がれてきた。


ロゼは一子相伝の神器と共に、宿命を背負ったのだ。


「ふははははっ!そんな吹けば飛ぶような鉄屑が、一体何だと言うのだ!そんなもの…貴様もろとも粉々に打ち砕いてくれる!」

ヴェルヴァルト冥府卿は哄笑し、聖槍の力を軽視した。


その油断こそ、ロゼの狙いだった。


「はっ、これだから間抜けヅラで高い所から人を見下ろすタイプの野郎はダメなんだよ。下が霞んで見えなくなっちまってるせいで、てめえの寝首をかこうと画策する存在の脅威に気が付けねえ。1つ良い事を教えてやるよ。歴史的観点から見ても、てめえみてえに恐怖で人々を屈服させるタイプの独裁者は、例外なく悲惨な末路を迎えているぜ?必ず天罰が下るんだよ。因果応報ってのは、マジであるからな?」


ロゼの言葉は、鋭い刃のように冥府卿を刺した。


「独裁者だと?のぼせあがった愚かなニンゲン如きと余を同列に語るのはよせ。余は唯一無二の存在なのだ。貴様らなどに引き摺り下ろされるものか!」


ヴェルヴァルト冥府卿は怒りに震え、絶対の自信を誇った。


だが、ロゼは動じなかった。


聖槍ヘルメスの鋒を再びヴェルヴァルト冥府卿に向け、静かに構えた。


刹那、槍の先端が純白の光を放った。


まるで星々が集い、聖なる炎が宿ったかのように、眩い輝きが鋒を包んだ。


「御闇さんよ、あんたじゃ桃源郷は拝めねえよ。驕れる者は久しからず…だぜ?」

ロゼは皮肉な笑みを浮かべ、勝利を予言するように言い放った。


「なんだあの光は!?」


「分からねえが…得体の知れねえ力をヒシヒシと感じるぜ。」


エンディとカインは、槍の光に目を奪われた。


「あれが…国王の言ってた"秘密兵器"か。」


「ああ…どうやらそうらしいな。」


ノヴァとエラルドは囁き合った。


ロゼは5日間の作戦会議で、聖槍ヘルメスの真の力を秘していた。


結界で魔族を封じ、ノヴァとエラルドの隔世憑依で時間を稼ぎ、最後に聖槍で一気に仕留める。

それが彼の策だった。


だが、ヴェルヴァルト冥府卿にはその光が見えなかった。


「なんだ…?なんの変化も見られないではないか。その鉄屑が…一体どれ程の物だというのだ??」

動揺したヴェルヴァルト冥府卿は、一瞬の隙を見せた。


ロゼはその刹那を逃さなかった。

「ああ…お前には見えねえだろうな。この光は、悪しき者の眼には映らねえ。」


ロゼは聖槍を振り上げ、ヴェルヴァルト冥府卿の腹部を力強く突き刺した。


「ぐわあああああっ!」

ヴェルヴァルト冥府卿の巨体に、槍を中心とした30センチの風穴が穿たれた。


聖なる光が闇を焼き、ヴェルヴァルト冥府卿は断末魔の叫びを上げながら、ゆっくりと膝をついた。


500年の遺志が、ついに運命を貫いた瞬間だった。


やったか!?

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