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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
117/158

金色の風と五夜の謀


漆黒の空が覆う魔界城の最上階、屋根なき玉座の間は、運命の戦場と化していた。


エンディの黄金の拳がヴェルヴァルト冥府卿を打ち倒し、砕けた玉座の破片が闇に散った。


30メートルを超える巨体が地面にめり込み、しばし仰向けで静止した。

だが、ヴェルヴァルト冥府卿はゆっくりと身を起こし、未知の感覚に浸った。


「なるほど…これが…痛みというやつか!」


その声は、深淵から響く雷鳴のように重く、初めての「痛み」に奇妙な喜びを滲ませていた。


500年にわたり無敵を誇ったヴェルヴァルト冥府卿が、エンディの拳、ユラノスが天生士に遺した神聖な力によって初めて傷ついたのだ。


「すげえ…なんだ今の力は!?」

カインは、エンディを包む黄金の風に息を呑んだ。


それは、まるで星々が地上に降り、闇を貫く光の柱のようだった。


「なるほど、更なる力を手にしたというわけか。やれやれ…つくづく許し難い男だね。」

イヴァンカは、苛立ちを隠さずエンディを睨んだ。


「チッ、バケモンが。」

ノヴァは、ヴェルヴァルト冥府卿の無傷に近い姿に冷や汗を流した。


「良いものだな、痛みというのは。肉体に危険信号を伝達している様な感覚だ。これもまた一興。」

ヴェルヴァルト冥府卿は哄笑し、巨体を悠然と起こした。


その存在は、まるで闇が意志を持ち、形を成したかのようだった。


エンディは怯まず、全身に黄金の風を纏い、再び戦いの構えを取った。


「うおーーーっ!!」雄叫びと共に、ヴェルヴァルト冥府卿へ突進。


先ほどを凌ぐ巨大な黄金の風を右拳に集中させ、顔面を目掛けて渾身の一撃を放った。


その姿は、古の神話に刻まれる英雄そのものだった。


黄金の光が闇を裂き、希望が人の形を成して巨悪に立ち向かう瞬間だった。


だが、エンディの心には微かな綻びがあった。

最初の成功が彼を過信させ、慢心を招いていた。


ヴェルヴァルト冥府卿は、そんな隙を見逃さなかった。


軽く拳を振り上げるだけで、嵐のような風圧がエンディを襲い、巨大な握り拳が直撃した。


全身の骨が軋み、激痛が彼を貫いた。


「クッソォ…痛え…!!」


咄嗟の防御がなければ、エンディは砕け散っていただろう。


それでも彼は立ち上がり、再び挑もうとした。


だが、ノヴァ、エラルド、ロゼが素早く前に出た。


「すっこんでろエンディ!元々こいつは俺らだけでぶっ殺す予定だったんだ!てめえの出る幕はねえよ!」エラルドの声は、闘志と興奮に震えていた。


「国王、援護はよろしく頼みますよ!よし…やるぞエラルド!」ノヴァが合図を送り、ロゼは静かに頷いた。


刹那、二人の全身から炎のような闘気が迸った。


「隔世憑依 憤怒の聖獣(コレルレオパル)


「隔世憑依 金剛蒼王(キングオブダイヤモンドマン)


ユドラ帝国の決戦から2年間、密かに修練を重ねた二人が、初めて隔世憑依を解放した。


ノヴァは10メートルの白毛の豹となり、鋭い牙と鉤爪、眉間の深い皺が獰猛な気性を露わにした。


エラルドは青く輝くダイヤモンドの装甲に覆われ、まるで神々の彫像のようだった。


「すげえ!!お前ら隔世憑依できるようになってたのか!かっけえぇーー!!」エンディは目を輝かせた。



「キ…キングオブダイヤモンドマン〜!?ダッサ!!ダサすぎるよエラルド!!」

モスキーノは名前のセンスにずっこけた。


「ぷっ…キングオブダイヤモンドマンだってよ…あはははっ!」エンディも笑いを堪えきれなかった。


カインも口元を押さえた。


「黙れてめえら!隔世憑依した俺の異次元の強さを見せてやる!!」エラルドは激昂した。


「ほう!これはまた素晴らしい余興だ!さあ…もっともっと余を楽しませてくれ!くるしゅうないぞ!」

ヴェルヴァルト冥府卿は哄笑した。


「くたばれヴェルヴァルト!!」


「てめえの喉笛引き裂いてやる!」


ノヴァとエラルドが同時に突進。


ノヴァの速度は、巨体に似合わぬ驚異的なものだった。


姿が消えたかのように移動し、鋭い鉤爪でヴェルヴァルト冥府卿の首を突いた。


だが、傷一つ付けられず、僅かに凹んだだけだった。


「ぐっ…中々やるな。素晴らしい!」

ヴェルヴァルト冥府卿は楽しげに笑った。


「嘘だろ…せめて、少しでもいいから出血ぐらいしてほしかったぜ。」ノヴァは肩を落とした。


次にエラルドが動いた。


「オラァ!どこ見てんだよ御闇さんよぉ!」

背後に回り込み、頭部を鷲掴みにして地面に叩きつけた。


衝撃波が広がり、地面に亀裂が生じた。


「てめえの皮膚の硬さは織り込み済みだ!だがな…いくら皮膚が硬くてもよ、世界最高硬度のダイヤモンドの拳で殴られりゃあ!ちったあ痛えだろぉ!?」

エラルドは連打を浴びせたが、ヴェルヴァルト冥府卿は涼しい顔だった。



「ほう…これが"痒み"という感覚か!また新たな発見をしてしまったな!さあお前たち…もっともっと興じてくれ!」

ノヴァとエラルドは悔しさに歯を軋ませた。


「やれやれ…とんだ肩透かしだな。退け、君達では話にならない。」

イヴァンカが冷たく言い放ち、剣を握った。


殺気と闘気が空間を震わせ、まるで空気が悲鳴を上げていた。


「散れ、御大。目に物を見せてあげるよ。」


「来い!イヴァンカ!お前の力を見せてみろ!」

ヴェルヴァルト冥府卿が応じた。


イヴァンカの剣がバチバチと雷鳴を放ち、刀身は凝縮された稲妻に覆われた。


驚異的な速度で迫り、剣を振り下ろした。


稲妻が炸裂し、雷鳴が玉座の間に轟いた。

魔界城全体が震え、魔法戦士も魔族も一瞬動きを止めた。


イヴァンカの斬撃は、ヴェルヴァルト冥府卿の胸に5センチの傷を刻んだ。


「あの野郎…ヴェルヴァルトを斬りやがった!」


「ねえ!見て見て!ヴェルヴァルトが血を流してるよー!!」

ノヴァとモスキーノは絶句。


「イヴァンカ…やっぱすげえな、あいつ!」

エンディは感嘆した。


ヴェルヴァルト冥府卿は傷口を触り、鮮血を眺めた。


「驚いたな。一刀両断するつもりで斬ったのだが…まさか薄皮一枚程度しか斬れないとは。」

イヴァンカは冷静に、だが内心で喜んでいた。


「イヴァンカよ、つまらぬ謙遜はよせ。誇るが良い…余が血を出すなど、初めての経験だ。」

ヴェルヴァルト冥府卿の笑顔が消え、殺意が空間を支配した。


その時、ロゼが槍を抜き、イヴァンカの前に進み出た。


「さてと、作戦は滞りなく進んでるな。ノヴァ、エラルド、命懸けの足止めありがとな?あ、あとイヴァンカ、お前の登場は予想外だったが…助かったぜ?お陰で準備は整った。」

ノヴァとエラルドの猛攻は、ロゼの作戦の時間稼ぎだったのだ。


「ロゼ王子、私を利用した様な口の利き方はやめてくれないか?とても不愉快だ。それに、何故天生士でもない君如きがこの場にいる?足手まといにしかならないことは、君自身も自覚しているだろう?」

イヴァンカの言葉は刺々しかった。


「ははっ、まあそう言うなよ。それに、俺はもう国王だ。お前が社会不在の間に未来は進んでたんだぜ?まあ黙って見てろよ…ここからが…5日間練りに練った作戦の…本格始動だ!!」

ロゼは不敵に笑い、槍の鋒をヴェルヴァルト冥府卿に向けた。


500年の遺志と5日間の策が、運命の頂点で花開く瞬間だった。

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