星屑の逆襲
五日前、モスキーノとマルジェラは昏睡の淵から奇跡的に目覚めた。
医師が匙を投げ、希望の光が閉ざされた病床で、ヴェルヴァルト冥府卿の禍々しいオーラが彼らの魂を揺さぶった。
全身の細胞が警鐘を鳴らし、遺伝子に刻まれたヴェルヴァルト冥府卿への根源的な恐怖が、二人を死の淵から引き戻したのだ。
不幸中の幸いとも言うべきか、彼らは生還を果たした。
王都バレラルクが破壊される直前、マルジェラは生物の本能で危機を察知した。
瞬時に巨大な白い鳥へと姿を変え、モスキーノを背に乗せて大空へ飛び立った。
こうして二人は壊滅を免れ、命を繋いだ。
その後五日間、隠れ家を転々としながら療養し、討ち入りの機を伺った。
体調がほぼ万全に戻った今、彼らは燃える闘争心を胸に、魔族の根城へと向かった。
道中、運命の導きか、エンディとカインに遭遇した。
マルジェラは二人を背に乗せ、再び王都を目指した。
だが、雲一つない漆黒の空から突如、雷が落ちた。
マルジェラを狙ったその雷は、間一髪で躱されたが、四人は即座にその主を悟った。イヴァンカの仕業だ。
地上には、不敵な笑みを浮かべるイヴァンカが立っていた。
「私も連れて行け。君達だけではあまりにも心許ない。」
その高圧的な言葉に、マルジェラは激昂した。
かつて片腕を斬り落とされたこの男と手を組むなど、死んでも受け入れがたい。
だが、エンディが軽やかに言った。
「いいじゃん、マルジェラさん。あいつがいれば相当な戦力になる。」
カインも当初は反対だったが、「エンディがそう言うなら…良い。」と渋々同意した。
マルジェラは葛藤した。
火急の事態とはいえ、イヴァンカへの憎しみは消えない。
だが、エンディとカインの過去を思い出した。
イヴァンカによって一族を虐殺され、心に深い傷を負った二人が、なお共闘を選んだのだ。
それに比べれば、片腕の恨みなど些細なものかもしれない。悩み抜いた末、マルジェラは渋々イヴァンカを乗せた。
一方、モスキーノは無関心だった。
イヴァンカの同行などどうでもよく、ただ魔族へのリベンジに心を燃やしていた。
奇しくも、この五人の討ち入りは、ロゼたちの決戦と時を同じくしていた。
魔界城の「獄門」前で、ロゼ一行とエンディたちが再会した瞬間、仲間たちの絆が再び結ばれた。
「お前ら!生きてたか!良かった!」
「ったく、遅えんだよ!」
ロゼとノヴァの声には、心からの安堵が滲んでいた。
ラーミアはエンディの顔を見るや、感極まって涙を堪えた。
カインはマルジェラの背から飛び降り、妻子のアマレットとルミノアに駆け寄った。
「アマレット!ルミノア!無事だったか!」
この五日間、カインは妻子の安否を案じ、気が気でなかった。
無事を確認し、胸を撫で下ろした。
「おい…ところでよ、アマレット。なんでこんな危険な場所に来てるんだよ!?ルミノアまで連れて!!」
「危険な場所?今この世界に安全な場所なんてないでしょ?どうせどこにいたって危険な事に変わりないなら、私はみんなと一緒に戦うわ。」
アマレットの強気な言葉に、カインは気圧された。
「いや…確かにそうなんだけどよ…でもルミノアまで連れて来ることはないんじゃねえの??」
アマレットは優しく微笑んだ。
「ここは敵陣のど真ん中だけど、私にとってはある意味世界一の安全地帯と言えるわ?だって…カイン、貴方が居てくれるから。私たちのこと、護ってね?」
ルミノアはカインを見て無邪気にはしゃいだ。
その信頼の言葉が、カインの心に火を点けた。
「はっ、あまりめえだろ!全く、流石は俺の妻だぜ!」
アベルは微笑ましく呟いた。
「愛妻家で子煩悩…全く、随分と単純な男になったものだね。まあ、そんな兄さんも嫌いじゃないけどね。」
その瞬間、マルジェラは獄門へ突き進んだ。
エンディは重厚な門を見据え、風の力を右手に纏わせた。
凄まじい豪風が獄門を直撃し、木っ端微塵に吹き飛ばした。
「嘘だろー!?獄門が!!」
「あの分厚い門をたったの一撃でぇー!?」
魔族とナカタムの魔法戦士たちは驚嘆した。
「よーし!突撃だあー!!」
エンディの号令で、マルジェラはエンディ、モスキーノ、イヴァンカを乗せ、獄門を突破。
「エンディ達に遅れをとるな!」
「突入だぁー!!」
4000人の魔法戦士が「うおーーーっ!!」と叫び、魔界城へなだれ込んだ。
10万対4000。
兵力差は歴然で、無謀な戦いだった。
だが、ナカタムの魔法戦士たちの目は死んでおらず、士気は燃え上がっていた。
魔界城の一階は広大で、黒い壁に蝋燭が揺れる不気味な空間。
一万体の魔族が待ち構え、外の一万体もなだれ込んだ。
エンディたちは完全包囲された。
「道を開けろぉ!俺が通る!!」
エンディは両手を翳し、豪風を放った。
「うわあぁぁぁ!!」
2000体の魔族が宙を舞い散った。
イヴァンカが舞い降り、剣を一振り。
「奴らを殺せー!!」
「雷帝レムソフィア・イヴァンカ!討ち取ったりいぃぃっ!!」
青光る稲妻が場内を駆け、3000体以上が絶命。
「華麗なる復讐劇の幕開けだ。今のはほんの余興。さあ魔族の諸君…終劇までの間、とくと楽しんでくれ給え!」
モスキーノは笑顔で飛び降り、「2人ともしっちゃかめっちゃかにしてくれちゃって…美しくないよ!戦い方が!!それにイヴァンカ!幕を引くのは俺だからね!?」と叫び、表情が冷酷に変わった。
魔族たちは寒気を覚え、2000体近くが凍結し、氷の彫刻と化した。
「つ…強えぇぇぇっ!」
「な、なんだよこいつら!?」
エンディ、モスキーノ、イヴァンカは一瞬で7000体以上を一網打尽にした。だが、魔族は5000体近くが残り、闇の破壊光線を放った。
それをカインの豪火が相殺。
「道を開けろっつってんだよ。相棒が通れねえだろ?」
だが、魔族の精鋭が現れた。
ルキフェル閣下、ジェイド、メレディスク公爵が天井を破壊し、一階に降り立った。
モスキーノはルキフェルを睨み、「会いたかったよ!ルキフェル閣下ぁ!!」と狂気を帯びて叫んだ。
イヴァンカは冷静に再戦を望み、ジェイドは「イヴァンカは譲りますけど…エンディちゃんとカインちゃんは俺にぶっ殺させてくださいねえ!閣下ぁ!!」と懇願した。
一方、ロゼ一行40名は獄門前に留まり、焦っていた。
五日かけて練った作戦は、40名で魔族を倒す一か八かの策だった。
だが、4000人の連合軍の出現と、エンディたちの突入は想定外だった。
「おいおい!あの馬鹿ども、中に入っちまったぞ!?」
「こりゃ大番狂わせだな…。国王、どうしますか?」エラルドとノヴァが慌て、アズバールは苛立ちを募らせた。
ラーミアとアマレットは呆然とエンディたちを眺めた。
「エンディ…。」
「どうしよう、カインも中に入っちゃったよ。」
エスタが「おいロゼ、黙ってねえで何か指示を出せよ。」と偉そうに言うと、ジェシカとモエーネが「ちょっとエスタ!そんな言い方ないでしょ!」「そうだよ!こんな状況で国王様を急かさないで!」と注意した。
ロゼは沈黙を破った。「…作戦は当初の予定通り、滞りなく実行させる。ヴェルヴァルトは俺たちだけでぶっ倒すぞ…!」
バレンティノが不敵に笑った。
「フフフ…そうこなくっちゃねえ。俺もそうするべきだと思っていましたよ。ある意味、エンディ達は良い陽動になってますからねえ。」
アベルも冷静に言った。
「エンディ達を一時的に閉じ込めちゃう事になるけど、仕方ないよね。元々僕達だけでケリ付けるつもりだったし。」
「よし!ラーミア!アマレット!急いで準備を整えろ!気張れよてめえら!作戦開始だ!!」
ロゼの号令で、五日間の策が動き出した。




