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計画性のないエンディと冷静なカイン!
2人は別行動をとることになる。
エンディとカインは瞬く間に岩山の頂上までたどり着いた。
下を見下ろすと、ダルマインの部下と同じ戦闘服を身につけた軍人が数十人、両手で機関銃を支えながら徘徊していた。
そして2人は、島の中心にそびえ立つ白い塔をジーッと見つめた。
「あの無機質な建物が奴らの根城だろうな。ラーミアって女もあそこにあるはずだ」
「あの中にラーミアが…!」
「思ったより警備はザルだな。あの物騒ななりの軍人どもから戦闘服を拝借して変装でもするか?そうすれば怪しまれることなく建物に侵入できるぜ?」
カインはとりあえず一つの案を出し、それをどのように行動に移していくか、これから2人で作戦を練ろうと考えていた。
しかし、そんなカインの提案は虚しく終わった。
気がついたらエンディの姿がなく、カインは唖然とした。
まさかと思い岩山の絶壁から下を覗くと、エンディは岩山から飛び降りて、既に地上にいた。
「チッ、あのバカっ!」
カインは呆れ果て、苛立っていた。
「痛えっ!」
50メートルほどの高さから飛び降りたため、エンディは足を痛めてしまった。
そして、塔に向かって一直線に走り出した。
「あ?なんだあいつ?」
「おいマジかよ!侵入者か?」
警報が鳴った。嫌な音だった。
軍人達は一斉に、エンディに向かって乱射したが、一発も当たらなかった。
いかに訓練を受けた軍人でも、暗闇の中を猛スピードで走る的に命中させるのは至難の技のようだ。
「なんだよ、うるせえなぁ!」
塔の入り口のすぐ近くに、懲罰房がある。
一階建ての錆びた鉄筋コンクリートで建てられたこの懲罰房も、また無機質な建物だった。
埃まみれでゴキブリが巣食う劣悪な房の一室に、ダルマインが収監されていた。
どうやら外の騒ぎに気がついたようだ。
「俺様をこんな所に閉じ込めやがって…!どうせバレラルクに侵攻する時だけ俺様に指揮をとらせて、後はもう用済みってか?チキショウ…!」
ダルマインは酷く嘆いている様子だった。
窓もなく、光が一切差し込まない独居に長時間隔離され、かなり精神的苦痛を味わっているようだ。
すると、突然鉄格子が開き兵隊が3人入ってきた。
「あぁ?何の用だよ?」
「提督、俺ですよ!」
「お、おめぇら…!」
よく見ると見覚えのある顔ぶれだった。
彼らはインダス艦の乗組員で、ラーミア誘拐の時も行動を共にしていた部下の中でも、特にダルマインを慕っている3人だった。
「おめえら、助けに来てくれたのかぁ!?」
嬉し涙をグッと堪えながら言った。
「はい!どうやら侵入者が現れたらしくて、みんなそいつの迎撃に手一杯のようです!その隙に救出に参りました!」
「ありがとなあ。お前ら頼りねえからよう、助けに来てくれるなんて思わなかったぜ。とりあえずタバコ一本くれや!」
ダルマインは部下からタバコを受け取り、火を付けさせた。
「提督、のんびりしてないで逃げましょうよ!俺もうあんな奴らの言いなりになるのはうんざりですよ!」
部下の一人が、幸せそうな顔で一服しているダルマインを急かすようにして言った。
「逃げるったって、どこへ?ラーミアを誘拐した上にあいつらまで裏切ったらどうなると思う?俺様はナカタムからもドアル解放軍からも追われる身になっちまうぜ?」
ダルマインはいつになく深刻そうだった。
「たしかに…。でもこのまんまじゃ死ぬまで奴らに利用され続ける…」
そんな会話をしていると、外から大きな声が聞こえた。
「ラーミアー!助けに来たぞー!」
たしかにそう聞こえてダルマインは驚愕し、ある事を閃いた。
「え?今の声ってエンディじゃねえか?」
「まさか生きてやがったのか…どうやってここまで?」
「落ち着けおめえら!どうやら天は俺様に味方したようだぜ?」
「と、言いますと?」
「ラーミアを人質にとって逃げりゃあいいんだよ!そうすりゃ誰も俺たちにゃ迂闊に手は出せねえ筈だ。」
ダルマインは、この上なく極悪な表情でニヤリと笑いながら言った。まるで勝利を確信したような笑みだった。
「なるほど!でも人質にとるって、どうやって?」
「あのエンディとかいうバカな小僧を利用するのさ。そうと決まったら行くぞおめえら!反逆の狼煙をあげろ!」
「へいっ!」
ダルマイン一行は懲罰房を出て、エンディの声のする方向へと向かった。
一方、ジェシカ一行も、塔に向かって歩き始めていた。
鳴り響く警報と銃声を聞き、エンディとカインの侵入がバレてしまったんだと確信した。
「バカじゃないのあいつら!こんなに早く見つかるなんて信じられない!」
「あいつらきっと殺されますぜ」
部下の1人がそう言うと、ジェシカは右手を挙げて横に振った。
「あの2人はそんな簡単にやられないわよ」
「た、たしかに。あのカインってガキは相当強そうですもんね」
「カインだけじゃないわ。エンディもかなり強いはずよ?」
ジェシカのこの言葉が意外だったのか、後ろを歩く4人は顔を見合わせて驚いていた。
エンディは弾丸の雨をかわしながら、なんとか塔の入り口付近にたどり着いた。
中に入ろうとした次の瞬間、背後から大男に両腕を掴まれて口を塞がてしまった。
何が起こったか分からずもがいたが、そのまま懲罰房まで連行された。
「おい!中へ入っていったぞ!」
ダルマインの配下が塔の入り口を指差しながら叫ぶと、エンディを追いかけていた軍人たちはあっさり騙され、急いで塔の中へとなだれこんで行った。
「あ!お前は!ラーミアはどこだ肉団子!」
「誰が肉団子だクソガキ!このダルマイン様に向かって!」
ダルマインはつばを飛ばしながら怒鳴り散らした。
「提督、あまり大きな声を出さねえ方が…」
「おっといけねえ。俺様としたことが…久しぶりだなあエンディ!まさか生きてるとはな。大したやつだぜお前は!」
「おい、俺は今急いでんだ。ラーミアはどこにいるんだ?」
「この塔の45階のどこかの部屋にいるはずだ。協力してやるぜ?」
ダルマインは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「本当か?なんか知らねえけどお前って実はいい奴だったんだな!!」
エンディのあまりの単純さに、一同拍子抜けてしまった。
「1人で正面突破なんてあまりにも無謀だぜ?むざむざ殺されにいくようなもんだ」
「じゃあ、お前らも一緒に戦ってくれるのか?」
「俺たちだけじゃねえさ」
ダルマインは、無数の鍵が付いているリング状のキーケースをチラつかせながら言った。
「ここはミルドニアの懲罰房だ。ルール違反を犯した奴らや脱走しようとして捕まった奴らが収監されてんのさ。まあ言っちまえば、上のやり方に不満を持つ反乱因子どもだ。こいつらが加われば強い味方になるぜ?」
キーケースから鍵を取りはずし、エンディ達は総勢51人の囚人達を牢屋から出した。
「ダ、ダルマインの旦那…これは一体どういう風の吹き回しですか?」
囚人の1人が質問をすると、ダルマインは軽くコホンと咳払いをし、エンディを指さした。
「聞け、てめえら!こいつはエンディって言って、巨悪に立ち向かうためにたった1人でミルドニアに殴り込みをかけにきた勇敢な男だ!俺様はこいつに着いていくことにした!なんでかって?この男の中の男、エンディの男気に惚れちまったのさ!」
「たった1人で?」「あんな子供が?」
「若いのに大したもんだ…」
囚人達は瞬く間にエンディに一目置き始めた。エンディは満更でもなさそうな表情で照れくさそうにしていた。
「エンディの厚意でお前らは晴れて自由の身になったわけだが、これからどうする?このまま脱走するのか?尻尾巻いて逃げんのか?それで良いのか!?俺様はそんなの嫌だぜ!俺様はエンディと一緒に戦うつもりだ!俺様もお前らも、散々あいつらに良いようにこき使われてきた!このまま逃げるなんて男じゃねえ!どうせ逃げるなら、その前にあいつらに一泡吹かせてやろうぜ!」
「そ、そうだな、やってやろう!」
「今まで痛い目に遭わされてきたんだ、俺らもやってやろうぜ!」
「あんな子供が1人で戦おうとしてるんだ!俺らだけ逃げたら恥の上塗りだぜ!」
囚人達の士気はみるみるうちに高まっていった。まるで自分がヒーローのように祭り上げられ、エンディは動揺していた。
するとダルマインの手下の1人が、重そうな大きな布袋を持ってきた。
中には銃器類や短剣が大量に入っていた。
「この戦いが終わったらよ、このダルマイン様がお前らを平和な国まで連れてってやる!生活の面倒も見てやる!ミルドニアを出て平和に暮らそうぜ!最後に一言だけ言わせてくれ!お前らよ…絶対に死ぬなよ?」
このダルマインの号令で、囚人達は武器を手に取り、雄叫びをあげながら塔の中へ入っていった。エンディも後に続いた。
「なんだ?何事だ?」「おいこいつら、懲罰房の奴らじゃねえかよ!なんでここに!?」
突然の出来事に、エンディを探していた軍人達はかなり混乱していた。
「おい!侵入者1匹捕らえるのにどんだけ時間かかってんだ?」
踏ん反り返ってウィスキーを飲んでいるギルド総統は、報告に来た軍人を叱責していた。
「も、申し訳ございません!あと、非常に申し上げにくいのですが…」
「なんだよ、早く言えよ!」
「たった今、懲罰房の囚人達が脱走し、武器を手に塔内に立てこもっているとの報告がありました…!」
「なんだとぉ〜!?一体どうなっているんだ!」
ギルド総統はテーブルを強く叩き、激しい怒りを露わにしていた。
一方その頃、一階フロアではドアル解放軍と元ドアル解放軍の囚人達による、激しい銃撃戦が繰り広げられていた。
同族同士で殺し合うなどという、なんとも嘆かわしい状況になってしまった。
エンディは弾丸を避けるため、物陰に隠れて様子を伺っていた。
すると、囚人の1人が拳銃を一丁差し出し、話しかけてきた。
「エンディ君、これを使ってくれ。丸腰だとあまりにも危険だ」
「いいよ、使い方わからないし。俺は素手の方が強いんだ。それより45階に行くにはどうしたらいい?」
「45階?あのフロア危険だ!総統の部屋があるから見張りが何人もいるんだぞ?いったい何の用があるんだ?」
「どうしても助けたい人がいるんだ。俺はそのためにここにきた!」
エンディは強い目で言った。それを見た囚人の男は、思わず心が打たれてしまった。
「分かった、協力するよ。エレベーターに乗るといい。乗り方は俺が教えるから着いてきてくれ」
この男はフロッド。
元々は戦闘服を身にまとい塔内を警備していたドアル解放軍の一員だったが、上層部に楯突いて投獄されていたのだ。
フロッドは一見頼りなさそうだが、優しくて芯の強そうな雰囲気に魅了され、エンディはすぐに信用した。
一方ダルマインは、手下の3人をつれて、混乱に乗じてこっそりエレベーターの前まで来ていた。
10機あるうちの、40階まで直通のものに4人で乗った。
ダルマインはエレベーター内に入ると緊張の糸が切れて、気持ちが高揚した。
「ギャハハハハハッ!!バカどもが派手に暴れてくれてるお陰で助かったぜ!せいぜいオレ様の為に野垂れ死んでくれよな!さっさとラーミア連れてトンズラかまそうぜ!ギャーハッハッハッハッ‥ゲホゲホゲボンッ!」
今までずっと笑いを堪えていたのだろう。
笑い方もむせ方もあまりにも下品で、聞いたものは誰もが不愉快になるであろう笑いだった。
卑劣の王、ダルマイン!




