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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
10/158

1-9

殺伐とした空気!


「お、おい金髪…ここで何してんだ?」


ギャングの一人が声を震わせながら言った。


この4人はギャングというだけあって中々の強面で体格もがっちりしていたが、カインに対して得体の知れない恐怖感を抱き、体が硬直してしまっていた。


「ちょっと!何の騒ぎ!?」

大きな声でそう言いながら、少女がずかずかと部屋に入ってきた。


「ジェシカのアネキ!こいつらここで暴れてたみたいで、一体どこから入ってきたのか…」


大の男4人がへこへこしている様子を見て、この少女が密猟船のボスなんだとカインは直感した。


ジェシカは後ろ髪をオレンジ色に染めたポニーテールの髪型で、つんけんしていて気の強そうな少女だった。


「よう三下のチンピラども。お前らの顔は何度か見かけたことがあるぜ?よく島で動物どもを狩っていたよな?まさかお前らの頭がこんなガキだとは驚いたぜ」

カインが嘲笑うように言った。


「ガキって、私と歳が変わらなそうに見えるけど?あなたもあの無人島で密猟でもしていたの?」


ジェシカはガキ呼ばわりされ、露骨にムッとしていた。

取り巻きの4人も小馬鹿にした言い方に腹を立てている様子だった。


「俺ははあの島に住んでたからな。回りくどい事とかめんどくせえから率直に言う。お前らミルドニアに向かってんだろ?俺たちも連れていけ」

カインは上から目線な口調で言った。


「なっ、てめえ何とぼけたこと抜かしてやがる…!」


男の1人が怒りを堪え切れない様子でカインに掴み掛かろうとしたが、ジェシカに牽制されるとすぐに引き下がった。


「いいわ。事情は知らないけど、乗せて行ってあげる」


ジェシカはカインの目をジーッと見て少し考えた後、あっさりと承諾した。


「なに!?ジェシカさん正気ですか??こんな訳わかんねえガキ共の言うことなんか聞く必要ないでしょ!」


「あら、私に意見するの?この2人、私たちに危害を加える気はなさそうだし別に良いんじゃない?」


「いやでも、こんな危なっかしいガキ共を送り込んだ事があいつらにバレたら大変ですぜ。せっかく武器の取引も順調なのに…」


「そんなの心配ないわ。私たちとあいつらは利害関係が一致しているから関わり合っているだけで、別に敵対勢力から身を守ってあげる義理はないでしょ?目的は知らないけど、この2人がミルドニアで何をしようが私たちの知った事じゃないわ」


ジェシカは一気に言ってのけた。


「話のわかる女で助かった。じゃあお言葉に甘えさせてもらうぜ。ただし、見返りは求めるなよ?」

カインはニヤリと笑いながら言った。


「ふん、分かったわよ。そのかわりくれぐれも大人しくしていてよね?今別室に案内させるわ」


カインはエンディを担いだまま部屋を出た。

男の1人が恐る恐るカインに近づき、別室までの案内をした。


「あーあーこんなに散らかしやがって。それにしても珍しいですね、ジェシカさんほどの人がこんなにツッコミどころだらけの状況を放棄して、あんな若造の言うことを簡単に聞き入れちまうなんて」


納得のいかない様子の男の1人が、ジェシカの決定に対して遠回しに異を唱えた。


「おもしろいことになりそうな気がしてね」

いつもつんつんしているジェシカが珍しく笑っていた。

しかし、その顔はすぐに曇った。


「あの金髪の男は、あまり刺激しない方がよさそうね」


「そ、そうですね…。ミルドニアまで後1時間ちょっと、気引き締めていきます!」


エンディとカイン、ギャング、ナカタム王国の騎士団と保安官の魔法戦士連合軍。


それぞれの思惑は違えど、3つの勢力が、ドアル解放軍の本拠地、ミルドニアへと向かっていた。


これから起こる戦いなど、いずれ巻き起こる大型ハリケーンのような一大旋風に比べたら、ほんのそよ風みたいなものだった。


カインと共に別室へと案内されたエンディは、すぐに目を覚ました。


頭と胴体に包帯が巻かれており、右頬と顎には大きな絆創膏が貼られていた。


「痛えっ!」


カインに殴られた傷が痛み、思わず声を出した。


「気が付いたか?」


声のする方に目をやると、カインが足を組みながら椅子に座っていた。


「奴らは何とか懐柔した。この部屋でおとなしくしていればミルドニアまで乗せてってくれるってよ」


なかなか広くて綺麗な部屋だった。

いい匂いがするのでテーブルに目をやると、分厚いステーキとマッシュポテトが、二人分配膳されていた。



「さっきここの女ボスが持ってきてくれたんだ。冷めないうちに食っちまおうぜ?ついでにお前のことも治療してくれてたから、後でちゃんと礼言っとけよ?」

カインが言った。



エンディはしばらくポカーンとした後、ベッドを降り、真面目な顔つきでカインの前まで歩いて行った。


「なんだ?」


まさかまた殴りかかってくるのではないかと思い、カインは少し身構えた。

するとエンディは深々と頭を下げて大きな声で謝罪をした。


「ごめん!カイン!」


思いがけない展開に、カインはびっくりした。


「いきなり殴りかかってごめん!確かに人それぞれ、いろんな考え方や価値観があるよな。それを自分のちっぽけな物差しで測って相手を否定しちゃだめだよな、ましてや暴力振るなんて…俺が悪かった、許してくれ!」


お前は相変わらず、俺には無い強さを持っているな。それは記憶を失っても変わらないんだな。と、カインは心の中で呟いた。


そして、器量の差を見せつけられた気がして、少し惨めな気持ちにもなっていた。


「…頭を上げてくれエンディ。おれも酷えこと言って悪かった。これからは発言には気をつけるわ」


2人は仲直りの握手を交わし、すぐにステーキにありつけた。


「それにしてもカイン。お前って強いんだな!おれが覚えてる限り、一対一で負けたのは初めてだよ!」

ニンニクと玉ねぎの風味のするソースがかかった分厚いステーキを頬張りながら、エンディは言った。予想以上のカインの強さに興奮している様子だった。


「いや、お前の方がよっぽど強いよ」

真剣な表情でカインが言った。これは皮肉でも嫌味でもなく、紛れもないカインの本心だった。


「おいおい謙遜なんて、らしくねえじゃんっ!?」

エンディが茶化すようにそういうと、ジェシカが部屋に入ってきた。


「元気そうね。あなたがエンディね?もうすぐミルドニアにに着くわよ」


「え、こいつがカインの言ってた女ボス…?」

エンディは半信半疑だった。それもそのはず。

自分と同い年くらいの少女が密猟団のリーダーでギャングの一員だなんて、簡単に信じられるものではなかった。


「ボスじゃないわ。まあ一応密猟部隊のリーダーに抜擢されてるから、組織内では幹部に位置付けられているけどね?」

ジェシカが得意げにそう答えると、エンディの顔が少し曇った。


「なんでギャングなんかになったんだ?ギャングって悪い奴らなのか?」


「善悪の区別なんて議論しても答えなんて永久に出ないわよ。そういう世界線でしか生きれない人達もいる。あなたの目で見て判断しなさい」


「うん、そうする!」


食い気味に答えるジェシカとは対照的に、エンディは素直に答えた。


なんか調子狂うなこいつ…と言いたげな目で、ジェシカはエンディを見ていた。


「ところであなた達、もしかしてラーミアって子を探しにミルドニアを目指してるの?」


「そうなんだよ!何か知ってるの?」



「だったら精々気をつけることね。あそこは血に飢えた軍人がうじゃうじゃいるから。あと死神も…」


「死神?何だそれ?」

エンディは死神という単語に興味津々だった。


「おいちょっと待てよ」

怪訝な目を向けて2人の会話を聞いていたカインが口火を切った。


「ジェシカ、何でお前がラーミアって女の事を知ってんだ?密漁のついでに武器の売買でミルドニアに向かってるお前らギャングは、その件に関しては無関係だろ?」


「私はナカタム王国最大のギャンググループの幹部よ?それくらいの内部事情知ってて当然よ」


「幹部がコソコソ密猟ねえ…。お前ら見たところ魔法族じゃなさそうだな。ドアル族か?」


「私達は非魔法族の戦争孤児で結成されたグループよ。ドアル族もいるし、そうじゃないメンバーもいる。それが何か問題でもあるの?」


「非魔法族の連中が、よく魔法都市バレラルクでギャングなんかやれるな。お前らのボスはさぞかし肝っ玉が座ってると見えるぜ。で?ドアル解放軍から武器なんざ買い付けてなに企んでるんだ?魔法族に喧嘩でも売るつもりか?」


カインの喧嘩腰な態度に、ジェシカは徐々に苛立ちを募らせており、エンディは冷や冷やしていた。



「あんた、さっきから何なの?言いたい事があるならはっきり言いなさいよ!」

2人が険悪なムードになって、エンディは思わず焦ってしまった。


「まあまあその辺で!カインも、乗せてってもらってるんだからそんな言い方しなくても…ジェシカ、治療してもらった上にこんな美味いもんまでご馳走してくれてありがとね!」


エンディは気を遣い、申し訳なさそうに言った。


「ふん、そうだな。お前らの目的なんざ知ったこっちゃねえわ。安心しろよ、取引の邪魔なんかしねえからよ」


「あら、別にぶち壊してもらっても構わないけど?金脈なんていくらでも転がってるし」


終始上から目線のカインに対し、ジェシカは喧嘩腰な態度を見せた。


エンディはこの気まずい空気に耐え切れず、ふと窓から外を覗いた。


すると暗闇の中、巨大な岩が海面に浮いているの光景が見えてギョッとした。


「なんだあれ!岩か?」


「あら、思ったより早く着いたのね。あの岩の要塞に囲まれた土地がミルドニアよ。ここで出会ったのも何かの縁。協力はできないけど、せめて見張りが手薄なルートくらいは教えてあげ……」


ジェシカがここまで言いかけた時、エンディは窓から飛び出してしまった。


「ここがミルドニアかぁ!今助けに行くぞラーミア!」


エンディは大声をだして岩壁に飛び移り、よじ登り始めた。


エンディの無鉄砲な行動を見て絶句しているジェシカをよそに、カインまでもが窓から外に出て岩の壁に飛びついてしまった。


「おい待てエンディ!無闇に突っ走るな!」

カインまでが、エンディを追いかけて岩の壁を大急ぎで登り始めてしまった。


「ジェシカさん着きやした!あれ、あの2人は?」


ギャングの1人がジェシカに遅めの報告をしに部屋にやってくると、エンディとカインがいないことに気付いて部屋をキョロキョロしていた。


「知ーらないっ。私あんなバカな人達初めて見たわ?さあ、上陸の準備よ!」


ジェシカは心底呆れ果てた表情を浮かべていた。



ついに敵本陣、ミルドニアへ突入!

果たして、ラーミアを助け出すことは出来るのか?

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