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第4章:揺らぐ花びら

 翌朝、学校に向かう三人の様子は、わずかに変化していた。


「おはよう、涼香」


 茉莉が涼香の頬にキスするように顔を寄せる。実際には触れていないのに、涼香の心臓は大きく跳ねた。


「お、おはよう……」


「えー! 私も涼香ちゃんとおはようのチュー!」


 双葉が飛びついてきて、今度は本当に頬にキスをする。


「ちょ、ちょっと! 人前で……」


 慌てる涼香を見て、二人はくすくすと笑う。


 しかし、その様子を見ていた周囲の生徒たちの反応は、様々だった。


「ねえ、見た? 涼香先輩、双葉先輩たちと仲良くなりすぎじゃない?」


「うん……なんか、複雑」


 これまで涼香を慕っていた後輩たちの間で、微妙な空気が流れ始める。


 一方、双葉と茉莉のファンの間でも、動揺が広がっていた。


「双葉様と茉莉様の仲を、涼香先輩が邪魔してる感じ……」


「でも、三人とも幸せそうだよね」


「うーん、どうなんだろう」


 そんな噂は、すぐに学校中に広まっていった。


 放課後のバスケ部の練習中、涼香は普段以上に厳しい視線を感じていた。


「涼香先輩、パスお願いします!」


 後輩の一人が声をかけるが、その口調には何か不自然さがある。


 涼香がパスを出すと、受け手の後輩は少し体勢を崩した。


「ごめん、強すぎた?」


「い、いえ……大丈夫です」


 後輩は俯きながら答える。その態度には、明らかな距離感があった。


 練習後、涼香は更衣室で一人考え込んでいた。


「涼香?」


 茉莉が心配そうに声をかける。


「大丈夫?」


「ああ……うん」


「顔色、悪いわよ」


 茉莉が涼香の隣に座る。


「私たちのせいで、迷惑かけてる?」


「そんなことない!」


 涼香は即座に否定する。


「でも……」


「周りの目なんて気にしないで」


 茉莉が涼香の手を握る。


「私たちの関係は、誰にも邪魔させない」


 その強い意志の込められた言葉に、涼香は心を揺さぶられる。


 しかし、事態は予想外の方向に進んでいった。


 数日後、涼香は職員室に呼び出された。


「雪村さん、ちょっと話があるの」


 担任の藤堂先生が、珍しく厳しい表情を見せる。


「最近、あなたと春日さん、櫻井さんの関係について、色々と話が出ているわ」


「はい……」


「私も二人の関係は黙認してきた。でも、あなたが加わることで、状況が変わってきている」


 藤堂先生は深いため息をつく。


「特に、後輩の子たちへの影響が心配なの」


「でも、私たちは……」


「誤解しないで。あなたたちを責めているわけじゃない。でも、もう少し慎重になってほしいだけなの」


 涼香は黙って頷くしかなかった。


 その日の帰り道。


「先生に何か言われたの?」


 双葉が心配そうに尋ねる。


「うん……少し」


 涼香が状況を説明すると、茉莉は険しい表情を浮かべた。


「私たちだけの時は良くて、涼香が加わると駄目なの? そんなのおかしいわ」


「でも、確かに最近、周りの目が……」


「気にしないで」


 双葉が涼香の腕にしがみつく。


「私たち、もう戻れないもん」


「そうよ」


 茉莉も涼香の手を握る。


「三人でいることが、私たちの幸せなの」


 その言葉に、涼香は胸が熱くなる。


 しかし同時に、不安も募っていく。


 このまま三人で幸せでいていいのだろうか。


 周囲の目を気にしないでいいのだろうか。


 そして何より――この関係は、本当に正しいのだろうか。


 夜、涼香は一人で公園のブランコに座っていた。


 月明かりに照らされた遊具の影が、地面に揺らめく模様を描く。


「ここにいると思った」


 突然の声に、涼香は振り返る。


 そこには双葉と茉莉が立っていた。


「どうして……」


「涼香の気持ち、分かるもん」


 双葉が涼香の隣のブランコに座る。


「私も最初は怖かった。周りの目も気になったし、これでいいのかなって」


 茉莉も、もう一つのブランコに腰掛ける。


「でも、気付いたの」


「何に?」


「幸せって、自分たちで決めていいってこと」


 茉莉の言葉が、夜空に響く。


「誰かの基準に合わせる必要なんてない。私たちの幸せは、私たちで決める」


「そうだよ!」


 双葉が立ち上がり、涼香の前に立つ。


「涼香ちゃんがいてくれるから、私たちは完璧なの」


 月明かりに照らされた双葉の瞳が、真っ直ぐに涼香を見つめている。


「二人が欲しがってた『百合』も、涼香ちゃんが加わってくれたから、もっと素敵なものになったの」


 茉莉も立ち上がり、涼香の背後に回る。


「私たちの物語は、誰も見たことのない形かもしれない」


 その言葉に、涼香は静かに頷いた。


「うん……そうだね」


 涼香も立ち上がる。


「私も、二人と一緒にいたい」


 三人は互いを見つめ、そっと手を取り合う。


「これからは、もっと強くなろう」


 茉莉が提案する。


「周りの目も、きっと変わっていく」


「うん! 私たちが、新しい形の幸せを見せてあげよう!」


 双葉が元気よく宣言する。


 その瞬間、風が吹いて、近くの花壇に植えられた花々が揺れた。


 三輪の花が、寄り添うように咲いている。


 それは、まるで三人の姿を映しているかのようだった。


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