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【女子高百合短編小説】百合の園で三輪の花は微笑む ~かわいいあの子は、私たちのもの~  作者: 霧崎薫


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第3章:開花の時

 週が明け、学校の様子が少しずつ変わり始めていた。


「ねえねえ、見た? 涼香先輩の唇」


「うん! なんかすっごく色っぽくなってる!」


 廊下を歩く涼香を、後輩たちが興味深げに見つめる。シャネルのリップグロスは、すっかり涼香の定番アイテムとなっていた。


 放課後のバスケ部の練習でも、変化は起きていた。


「涼香先輩、今日も素敵です!」


 後輩の選手が、ドリブル練習の合間に声をかけてくる。


「ありがとう」


 以前なら素っ気なく返していた涼香だが、今は優しく微笑み返す。


「きゃー! 涼香先輩が笑ってくれた!」


 後輩たちが騒ぎ出す。その様子を見て、涼香は苦笑する。


 練習後、更衣室で制服に着替えていると、ノックの音が響いた。


「失礼します」


 茉莉が入ってくる。


「迎えに来たわ」


「え?」


「今日、うちに泊まりに来る約束でしょう?」


「あ、そうだった」


 先週末の約束を思い出す。


「双葉は?」


「もう家で待ってるわ。着替え、手伝おうか?」


「え!? い、いや、自分でできるから!」


 慌てて制服のボタンを留める涼香。茉莉は楽しそうに笑った。


「遠慮しなくていいのに」


 茉莉の指が、涼香の頬に優しく触れる。


「……っ」


 思わず身震いする。


「ふふ、可愛い」


 茉莉の囁きに、涼香の頬が熱くなる。


「もう、からかわないでよ」


「からかってなんかないわ」


 茉莉が一歩近づく。


「本気よ」


 その瞳に吸い込まれそうになり、涼香は慌てて視線を逸らした。


「は、早く行こう。双葉が待ってる」


「そうね」


 茉莉の家は、閑静な住宅街にある白亜の洋館だった。


「お帰りなさい、茉莉様」


 メイドが出迎える。メイド? 涼香は思わず緊張する。


「ただいま。涼香を案内してくれる?」


「かしこまりました。涼香様、こちらへどうぞ」


 二階の茉莉の部屋に案内されると、すでに双葉が待っていた。


「涼香ちゃん、来てくれた!」


 いつものように抱きついてくる。


「もう、涼香はバスケ部の練習で疲れてるでしょ?」


 茉莉が双葉をたしなめる。


「あ、ごめんなさい!」


「いや、大丈夫」


 涼香は双葉の頭を撫でる。その仕草が、妙に自然になっていた。


「じゃあ、まずはお風呂にする?」


 茉莉が提案する。


「一緒に入る?」


「え!?」


 涼香が驚いた表情を見せる。


「だって、女子同士でしょ?」


 双葉が当たり前のように言う。


「そ、それは……」


「恥ずかしい?」


 茉莉が意地悪そうに笑う。


「ち、違うけど……」


「なら、いいじゃない」


 結局、涼香は二人の誘いを断れなかった。


 茉莉の家の浴室は、まるでホテルのような広さだった。大きな浴槽には、既にお湯が張られている。


 茉莉の家の脱衣所は、高級スパのような雰囲気だった。大理石の床に、大きな三面鏡。壁際には香りの良いアロマポットが置かれている。


「じゃあ、お先に」


 双葉が小さく深呼吸をして、制服のブラウスに手をかける。真っ白な貝のような小さな指先が、一つ一つ丁寧にボタンを外していく。上から順に、胸元まで開いたブラウスからは、ほんのりとバニラの香りが漂う。


「私、緊張してるかも……」


 そう言いながらも、双葉は優雅な仕草でブラウスを肩から滑らせた。細い肩から腕へと布地が零れ落ちる様は、まるで花びらが舞い落ちるよう。


 次にスカートのファスナーに手をかける。チャックを下ろす音が静かに響き、紺色のプリーツスカートが、すらりとした足首まで滑り落ちた。


 双葉の肢体が、夕暮れの柔らかな光に照らされる。淡いピンクのブラジャーとショーツは、スポーティーながらも可憐なデザイン。胸元のリボンと裾のレース使いが、彼女の無邪気さを引き立てている。


 双葉は少し恥ずかしそうに微笑んで、背中に手を伸ばす。ブラジャーのホックに触れる指先が、かすかに震えている。


「涼香ちゃん、そんなに見ないでくれる……?」


 涼香は黙って頷き、背を向ける。布地が床に落ちる音が、静かに響いた。


「双葉って、可愛い下着が似合うわよね」


 茉莉が微笑む。その仕草には、どこか大人びた優雅さがあった。


 まず白い指先が、濃紺のリボンに触れる。ゆっくりとほどいた結び目は、シルクのように滑らかに解けていく。


 次にブラウスのボタンを、一つずつ丁寧に外していく。真珠のような小さなボタンが、光を受けて儚く輝いている。


 上品な仕草で肩からブラウスを滑らせると、クリーム色の素肌が月光のように浮かび上がる。La Perlaの黒のブラジャーは、繊細なレースで縁取られ、まるでアンティークの工芸品のような気品を湛えていた。


 長い黒髪が、すらりとした背中を優美に流れ落ちる。


 スカートのファスナーに手をかけ、ゆっくりと腰から滑らせる。たおやかな脚線が現れ、黒のレースのショーツと繋がるガーターベルトが、古典絵画のような美しさを醸し出している。


「茉莉って、下着まで芸術的ね」


 涼香の言葉に、茉莉は控えめに微笑んだ。


「これは特別。今日のために選んだの」


 その言葉に込められた想いが、部屋の空気をほんのりと温める。


 茉莉は優雅な手つきでブラジャーのホックに手を伸ばす。繊細なレースが、花びらのように静かに滑り落ちる。最後にショーツとガーターベルトも外すと、月の女神のような気高い佇まいが、湯気に包まれた空間に浮かび上がった。


 最後の衣の端を優しく解くと、茉莉の姿は一幅の古典絵画のような気品を湛えていた。すらりとした肢体は大理石の彫像を思わせ、長い黒髪が絹のように優美に流れ落ちる。


「茉莉……まるでミロのヴィーナスみたい」


 涼香の感嘆の声に、茉莉は控えめに微笑んだ。湯気に包まれた彼女の佇まいには、確かに女神のような気高さがあった。


「そんな、照れるわ」


 茉莉の頬が、ほんのりと桜色に染まる。その仕草さえも芸術的で、まるでルネサンス期の画家が描いた理想の美を具現化したかのようだった。


 涼香は二人の仕草に見とれながら、ゆっくりと制服を脱ぐ。シンプルな紺のブラジャーとショーツは、スポーツをする彼女らしい実用的な雰囲気。


「涼香ちゃんのスタイル、本当に羨ましい……」


 双葉の感嘆の声に、涼香は照れ隠しに咳払いをする。バスケで鍛えられた身体は、確かに美しい均整を保っていた。引き締まった腹筋は、華奢な腰つきを際立たせ、長い手足は優美な曲線を描いている。日に焼けた健康的な肌は、バスルームの柔らかな照明に艶やかに輝いていた。


「こんなに素敵な身体つきなのに、仕草は意外と乙女なのよね」


 茉莉が意地悪そうに微笑む。その言葉に、涼香の頬が一層赤みを帯びる。


「でも本当に、見とれちゃう」


 双葉が涼香の肩に触れる。その指先が、柔らかく肌を撫でる。


「ちょ、ちょっと……」


 戸惑う涼香を見て、二人は楽しそうに微笑んだ。


 そして三人は自然な流れでそれぞれシャワーを浴び始める。湯気の向こうに映る互いの姿に、時折目が合っては微笑み合う。


「はぁ……」


 お湯に浸かると、自然と声が漏れる。練習で疲れた身体が、心地よく溶けていく。


「気持ちいい?」


 茉莉が涼香の隣に座る。長い黒髪が、湯気に包まれて艶やかに輝いている。


「うん……」


「涼香ちゃん、背中流すね」


 双葉がスポンジを手に取る。


「え、いや、自分で……」


「いいから~」


 柔らかなスポンジが、背中を優しく撫でる。


「肩こってるみたい」


 双葉の指が、涼香の肩を揉み始める。


「んっ……」


 思わず声が漏れる。


「声、可愛い」


 茉莉が囁く。


「もう、やめてよ……」


 涼香は顔を真っ赤にする。


「でも、嫌じゃないでしょう?」


 茉莉の指が、涼香の腕を撫でる。


「……うん」


 小さく頷く。


 湯気に包まれた空間で、三人の距離が、少しずつ縮まっていく。


 お風呂から上がると、パジャマに着替えた。茉莉が用意してくれた真っ白なシルクのパジャマは、肌触りが良く、涼香の身体にぴったりとフィットする。


「似合ってる」


 茉莉が満足げに頷く。


「私たちも着替えよっ」


 双葉は薄ピンクのパジャマ、茉莉はラベンダー色のネグリジェに着替えた。


「じゃあ、お菓子パーティーの始まり~!」


 双葉が大きな袋を開ける。


「手作りクッキーも焼いてきたの!」


 可愛らしい形のクッキーが並ぶ。


「すごい」


 涼香が感心する。


「涼香ちゃんに食べてもらいたくて、昨日から練習したの」


 双葉が嬉しそうに言う。


「じゃあ、いただきます」


 一口かじると、バターの香りと優しい甘さが広がる。


「美味しい」


「ほんと? よかった!」


 双葉が飛び跳ねるように喜ぶ。


「私も食べたいな」


 茉莉が言う。


「はい、あーん♪」


 双葉がクッキーを差し出す。


「ん……」


 茉莉が可愛らしく口を開け、クッキーを受け取る。


「涼香にも、あーんしてあげる?」


 茉莉が意地悪そうに笑う。


「い、いや、自分で食べる!」


 慌てて手を伸ばす涼香。


 二人は楽しそうに笑った。


 夜が更けていく。

 

 お菓子を食べながらの会話は、学校の話から、将来の夢、そして恋愛観へと移っていく。


「ねえ、涼香」


 茉莉が突然、真剣な表情になる。


「私たちのこと、どう思う?」


「え?」


「この一ヶ月、一緒に過ごして」


 双葉も、真剣な眼差しを向けてくる。


「それは……」


 涼香は言葉を探す。


 確かに、この一ヶ月は特別だった。

 

 二人と過ごす時間は、不思議なほど心地よく、楽しく、そして……切なかった。


 友情とは違う。

 

 でも、恋愛とも違う。

 

 もっと特別な、言葉では表現できない感情が、涼香の中で芽生えていた。


「大切」


 涼香は小さく呟く。


「二人のことが、すごく大切」


 その言葉に、双葉と茉莉の表情が柔らかくなる。


「私たちも」


 茉莉が涼香の手を取る。


「涼香のことが、大切だから」


 双葉も、反対の手を握る。


「これからも、一緒にいようね」


 三人の手が、優しく重なり合う。


 月明かりが差し込む部屋で、新しい絆が静かに、でも確かに結ばれていく。


 真夜中、茉莉の広いベッドで三人は寄り添うように眠っていた。


 真ん中で横たわる涼香の両側に、双葉と茉莉。それぞれの寝息が静かに響く。


 ふと目を覚ました涼香は、両隣の温もりに包まれながら、不思議な感覚に襲われた。


「これって……夢?」


 月明かりに照らされた二人の寝顔は、まるで絵画のように美しい。


 双葉の可愛らしい寝顔。時々小さく鼻を鳴らす仕草が愛おしい。


 茉莉の優雅な寝姿。長いまつ毛が月光を受けて儚く揺れている。


 涼香は思わず、二人の髪を優しく撫でた。


「んん……」


 双葉が小さく声を漏らし、涼香の胸元に顔を埋める。


「涼香……好き……」


 寝言だろうか。その言葉に、涼香の胸が高鳴る。


「私も」


 小さく囁き返す。


 反対側では、茉莉が涼香の腕を抱きしめるように寄り添っていた。


 この時間が永遠に続けばいいのに――そんな願いを胸に、涼香は再び目を閉じた。


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