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必要のない歌

作者: 椎名正

 みなさん、こんばんわ。

 一夜だけのラジオミッドナイト。

 そもそも、私がいまここで皆さんにおしゃべりをすることになった課程を説明しますと、

 はい?

 はじめに私が選んだ曲をかける、ですね。

 ああっ、すみません。

 私、ラジオでおしゃべりするのは初めてで、不慣れなところは大目にみてください。

 ちゃんとした自己紹介は曲のあとでさせていただきます。

 一曲目は私が選んだ曲です。

 スタッフの人から、私の青春の曲との注文を受けましたが、とても難しかったです。私には青春なんて立派なものはなくて、だから、これは私が学生時代によく聞いていた歌です。

 私にはもう必要ない歌です。

 今の言い方だと、私がこの歌を貶めているように思える人もいるかもしれませんが、そんなつもりはありません。この歌自体は素晴らしい歌です。

 私はよくない聴きかたをしていました。

 一日の間に何十回もこの歌だけを聴いていました。

 依存していたのでしょう。

 私が生まれ育ったところは田舎で、たとえば、服を選ぶにしても、都会なら百点満点の服から十点ぐらいの服までいっぱいあって、好きな点数の服を選んで着れるのに、六十六点の服を見極めて着なくてはいけないのです。二十点の服でも八十点の服でも駄目で、そんな服を着た者は変わり者あつかいされるのです。

 服だけではなく、休日の過ごし方とか、おしゃべりの話題とか、いろいろのことが、田舎の常識を見極めないといけなかったのです。

 私にとって、田舎は窮屈なところでした。

 窮屈だと感じていることも、その頃の私は気がつかず、いつも緊張していたため肩の筋肉がひどくこっていたことにも、私はわかりませんでした。

 それでも世界は回る。

 一曲目の歌です。

 私はその歌を繰り返しずっと聞いてました。

 大事な人が亡くなっても、日常は続く。

 そんな内容の歌詞だと一般的な解釈のようです。

 私は、身近な人が亡くなった経験がなく、その歌を語るほどの度胸もありません。

 でも、私はこの歌の、それでも世界は回るの部分が救いでした。

 どんな出来事が起きても、日常は続いていく。

 高校二年生の文化祭で、私は同じクラスの男の人に告白されました。

 教室で、クラスのたくさんの人が見守る中ででした。

 私は頭の中はパニックになりました。

 それまで、私は男の人とおつきあいをしたことがなく、学校で男子と会話したこともほぼなかったのです。

 高校生で交際すると言うことは、性的な行為も絡んでくるわけで、相手が私にどんな期待をしているのかもわからない恐怖もありました。

 クラスメイトが大勢見ている中で追い詰められた私は、こう口走ってしまいました。

 田中さんとつきあえばいいじゃない。

 君はひどい人だ。

 そう言われました。

 周りからも、真剣に告白する人間にあの対応はひどいと何度も言われました。

 そうなのかもしれません。でも、私はぶっつけ本番で、周りが満足する対応ができるほど器用な人間ではなかったのです。

 当時、私は電車通学をしていました。

 一緒に乗っていたクラスの田中さんとは、電車の中でよくおしゃべりをしていました。そこで、その男の人に好意を持っていることも聞きました。

 私が文化祭で田中さんの名前を出してしまった次の日から、田中さんとの間はぎくしゃくしたものになりました。

 それ以前のように会話ができず、沈黙から逃げるために、私はイヤホンをして音楽に没頭している風を装ったのです。

 後日、田中さんには正式に名前を出してしまったことの謝罪をしました。

 田中さんは、私を許してくれました。

 でも、ぎくしゃくしたものは続き、私は卒業までイヤホンをつけて通学していました。

 私がこんな話を長々としたのは、青春なんてうまくいかないと言いたかったのです。

 少なくても、私の学生時代は駄目な物でした。

 ドラマのような立派な恋とか友情はありませんでした。

 だから、今、学生の人で、自分は輝かしい青春を送っていないと悩んでいる人に、私は言いたいのです。

 しょうがないです。

 そんなものだから。

 それでは、一曲目、聞いてください。

 私には、もう必要のない歌。

 それでも世界は回る。



      おわり

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