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かきつくれば  作者: camel
5/8

5

「藤倉のおじさんはその三か月後、店に絵を持ってきてくれました。オレの知るなかで、最高の絵画です」

 私と母は頭を抱えつつ、話を聞いていた。お茶の湯気はとっくに消えている。

「お父さんたら、そんな素敵なことをしていたなら、教えてくれたらいいのにね」

 母の感想におおむね同意する。だが、疑問も残る。

「そこで父との交渉は終わっていますよね。なぜ、追加で、その……お金を?」

 言いにくいことだが、踏み込むしかあるまい。

「藤倉さんが請求した額は、なんとワンコインでした」

「……五百円?」

「イグザクトリー」

「おー、りありー?」

「お母さんまで合わせないで。……ええと、なんとなく話はわかりました。おばあさまも本当にお気の毒に思います。けれど、絵を買っていただけて父も喜んでいると思います」

 気を引き締めて、言葉を続ける。

「父が五百円でいいと言ったなら、私達から文句はありません。そのままのお値段で受け取っていただけませんか?」

 父の人となりが知れたことと、稲垣さんと父との思い出も興味深いものだった。しかし、これ以上話をしてもどうにもならない。父の絵が売れた。その事実だけで十分な儲け話だ。

「そうですね、オレもそう思います。でも、それでは、ばあちゃんが納得しません」

「いえ、おばあさまもきっと喜んでくれています」

「どうして、うちのばあちゃんのことまでわかるんですか。猫みたいにキレますよ!」

 お淑やかな猫を愛するご婦人ではなく、気性の荒いお方だったのだろうか。

「今日も、ちゃんとしていけって顔面に白シャツが飛んできたんですから」

「え?」

「あ、その驚き方! おじさんとそっくりですね」


 稲垣さんとの会話では埒が明かないので、母に視線を送った。

「チヅ、稲垣さん家のおばあちゃんはご存命よ」

「そういえば、一年前のおじさんも同じようにびっくりしてましたね! うちのばあちゃんは散歩中に転んで、それからずっと車いす生活なんです。当時はかなりへこんでましたが、今は店番するくらい元気にやってます!」


「それは、その、お元気そうで、何よりです」

 しどろもどろの返事が精一杯だった。


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