【9】天使ちゃんの使命
「うわー結構広いお部屋じゃないですか」
俺の家の物置部屋は俺のベッドよりも高そうなベッドや机が置かれて見違えるように綺麗になっていた。
「こんなベッドや家具も俺の両親に用意させたの?」
俺は天使ちゃんの部屋になった物置部屋を案内することになり、部屋の中で天使ちゃんと二人っきりになっていた。
天使ちゃんは自分の部屋にあるベッドに慣れたように座り、足をバタバタとバタつかせて子供のようにはしゃいでいる。
そんな行動とは裏腹に夏に入りかけの7月の短パンと半袖のTシャツ姿の部屋着をまとった彼女のスラリと見える細く白い脚には目を見張るものがあり、目線を反らすのに一苦労だった。
「まさか。人様にそんなご迷惑かけませんよ。これは全部ちゃんと自分の家から運んでもらったものですよ」
いや、急に人様の家に転がりこんで来るのはご迷惑じゃないんだろうか……。
そう天使ちゃんの発言に対して疑問に思っていると。
「それよりも……さっきから目線が下の方を向いてるのは気のせいですか?」
俺は『ギック』と体が一瞬反応してしまった。
まさに図星だった。
そりゃそうだろ~ウチの家にこんな可愛い美少女が薄着で座っていたら思春期の男子なんて誰だって意識しちゃうに決まってるじゃんか。
「その反応は図星ですねー本当に男の子は本当にエッチなんですから。さっきはあんな姿を見たばかりなのに―」
あー忘れようと思っていたのに!
あのバスタオル1枚の彼女の姿の記憶が、今の彼女の姿と重なり自分の頬が真っ赤になっていくのを感じた。
「―あ、あれはだってウチの洗面所に君みたいな女の子が居てるなんて思ってもなくて―」
「―えっー昔から一緒にお風呂に入ってた仲じゃないですか~」
焦って言葉を返す俺に、なぜか嬉しそうにかつ意地悪な返しを続ける天使ちゃん。
その表情はまさに天使ではなく小悪魔だった。
「てか、そもそもそこからおかしいんだよ!俺は君と一緒になんて今まで1度もお風呂に入ったことないし!夕食の時の会話からもずっと思ってたけど父さん達が君のこと何の違和感もなく接してるのっておかしいよね?もしかして君が俺の両親に何かしたの?」
ようやくさっきから喉の奥に引っ掛かっていた言葉を天使ちゃんに言うことが出来た。
「もうーさっきも言ったじゃないですか。君って言われ方は何か好きじゃないんですよーちゃんと『天使ちゃん』って言う可愛い名前があるんですからそう呼んで下さいよー」
焦らすように彼女はそう言った。
もどかしい感じもするが彼女の意向も尊重しなければいけないと思い冷静に返していくことにした。
「あーもうわかった。わかったから天使ちゃん。話しを反らさないでまともに俺の質問に答えてくれない?」
「はぁ……仕方ないですねーそれじゃあこの寛大な天使ちゃんが貴方の疑問にお答えしましょう」
ようやく天使ちゃんが俺に全てを話すことを決めてくれて―粘り勝ち―だと喜んで天使ちゃんを見つめ『ゴクリ』と唾を飲み込んだ。
「ちょっと話しが長くなるかもなんで、その座布団の上にでも座ってもらっていいですか?」
そう言いながら天使ちゃんの指差す方向には、小さなテーブルの前に花柄の可愛い座布団が置いてあった。
「あーここにね」
自分の家なのに自分の家じゃない感じがしつつぎこちなく座った俺だった。
「では、改めまして。私は先ほども言いましたが天使ちゃんなんです。だから出来たんです」
一瞬俺は固まった。
ゆっくりと間を置いて考えてみたが、天使ちゃんのその言葉から納得のいく答えとしてくみ取れるものは何も見当たらなかった。
「いや、それって答えになってないと思うんだけど。もっと具体的に教えてくれない?あれは俺が記憶を忘れていたの?それとも親が天使ちゃんの力で洗脳されていたってこと?」
彼女の薄っぺらい回答では全く理解出来ずにもう一度詳しく質問を投げ掛けてみた。
「洗脳ってまた人聞きの悪い言い方をしますねぇ。まぁでも、私の持っている天使の力を使って貴方の家に住みやすくしたと言うのは事実なんで結果的には洗脳と言われても仕方ないのかも知れませんね」
「ってことは君の力で俺の親は君と関わったことがあるように錯覚したってこと?」
「まぁ、そういうことになりますね」
「そんなラノベやアニメみたいな話しって……」
「現実にあるんですよ」
彼女の発言からは嘘を言ってるようには感じられなかった。
しかし、本当に人の記憶をそんな風にコントロール出来るとしたら彼女は恐ろしい子だと言うことだ。
それなら……。
「だったら仮に天使ちゃんがそう言う力を使えたとして。どうして俺にはその力を使わなかったのさ?」
「それはですね……使わなかったんではなくて使えなかったんですよ。ある使命の規約上……」
謎の美少女天使ちゃんとは一体何者なのか……
天使ちゃんの抱える使命とは一体何なのか……。
次回、ついに彼女の正体に迫ることに!