【6】ベタな展開
「それでね天使ちゃん。俺本当にもう帰らないといけないんだけど……」
「えっ、別に帰らなくて大丈夫ですよ」
はい?何言ってるんだ。この自称天使は。
ファミレスに入ってどのぐらいの時間が経っただろうか。
自称天使ちゃんと話しているのも確かに悪くはないけど。
俺は本当に帰りたい。
このまま居続けてこの子と夜ご飯も食べるとなると……―無銭飲食―という犯罪をおかすことになりかねないからだ。
「私とこのままご飯でも食べて―」
「―断る!!」
「えっ……」
「あっ。いや、その……だって君の親御さんが心配するだろうし……」
今にでも泣きそうなほどに涙ぐんでいる彼女を見て、慌ててその場を取り繕うとしたものの時すでに遅かった。
「私の名前をちゃんと教えたのに……また君って言いましたね……もういいです!そんなに私の言うこと信じられないなら帰りますよ!!」
そう強気な口調でファミレスを出ていく彼女に視線を向けることも出来ずに俺は呆然と立ち尽くしていた。
はぁ……。
一体今日はなんだったんだ。
好きな子には変な彼氏を紹介されて、その後自称天使―いや、自称天使ちゃん―にパフェを奢らされて散々な1日だったなぁ。
てか、あの自称天使ちゃんっておんなじ学校の制服を着てたよなぁ……。
また遭遇したりするのかなぁ……。
変に関わらないようにしておかないと……。
まぁ、あの感じだと向こうからも話しかけてこないと思うけど……。
そうやって今日あった出来事を振り返りながら家へとたどり着いた。
「ただたいまー」
俺は台所にいるであろう母に言いながら、いつものように手洗いとうがいをしようと洗面台に向かった。
意外かも知れないが俺はこういうところはキッチリとしてるのだ。
今のご時世よく分からないウイルスも数多く潜んでいることだし、ちゃんとしとかないと―
「―あっ!いま洗面所は―」
母が台所から何か叫んだようにも聞こえた。
「うん……」
そう言いながら洗面所の扉を開いた俺は……その場で固まった。
俺の目の前には、大きな白いバスタオルを着けた一人の少女が立っていた。
彼女は雪のような白く美しい肌に、黒い長い髪をなびかせつつ、全体的に華奢で小柄な体格をしている割にはボリュームのある胸がバスタオルの隙間からも覗かせており、お尻も大きく―
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
―うん。そんな解説をしている暇ではなかった。
「パシッ!!!!!」
白い肌が際立つ彼女はバスタオルで身体を覆いながら、顔をまさにお猿のように真っ赤にして俺に近づき、頬を強くひっぱたくようにビンタをしてきた。
「出ていって!早く!!出ていっててば!!!」
なぜか自分のウチの洗面所に入ろうとしただけなのに、ビンタをされて追い出された俺は、洗面所の前で叩かれた頬を押さえながら立ち尽くしていた。
「ただいまーっておい。どうしたんだ?その表情は……何かすごく気持ち悪いぞ」
帰ってきた父親からも、ニヤケた俺を見てこう言う有り様だったらしい。
この時の俺は今日1日にあった事なんてどうでも良かった。
本当にどうでもいい。
ウチの洗面所の中に居たのが自称天使ちゃんだろうが……。