【2】謎の美少女
「あの……私の声聴こえてますか?」
目の前に立ち尽くしている美少女が俺に向かって話していた。
俺に向かって……。
「えっ、俺に言ってる!?」
「今、この場所で他に誰が居るんですか?私は貴方しか視界に捉えてないんですけど」
―可愛らしい声だなぁ―俺はそう思いながら天使がささやくような声に聞き惚れていた。
「……何ニヤケてるんですか。そんなんだから好きな人にフラれるんですよ。私の話しを聞く気が無いのなら帰りますよ」
「いや、ちょっと待ってよ!どうして俺が好きな人に巨漢の彼氏が居て汗まみれの手で肩を抱いていたのを目撃して逃げ出してきたことを知ってるんだよ」
「はぁ……。よくもまぁそうペラペラと自分の失態を、見ず知らずの私に言えますね……この人に声を掛けたの間違いだったかなぁ」
「いやいや!間違いなんかじゃない!間違いなんかじゃ……」
とは言え、俺はなぜこんな美少女に声を掛けられたのだろうか。何かの間違いでしか無いような気もする。
「完全に自信を無くしてるじゃないですか」
「無くしてるよ。だって好きな人にフラれたんだよ」
「あー開き直っちゃいましたか。そうですか、そうですか」
「開き直っちゃ悪いかよ!俺は今どんな想いで帰ろうとしていたか……君に分かる訳ないでしょ」
「そんなの分かんないですよ!でもフラれて、はい終わりで良いんですか?結局大事なのはそこからじゃないですかね?」
天使のような美少女は―ささやく―ような声に似合わず鋭い発言をする女の子だった。
ただ、間違った事は何一つ言っていなかった。
「あーまぁそうだよ。全部君の言うとおりだよ。だったら何なんだよ。俺はその大事だという―これからを―どうしたら良いんだよ?」
「うわっ。完全なる人任せに、また開き直ってきましたね。それならまずはその開き直る性格から治したらどうですかね?ウダウダと向こうの男性ばかりに問題があるようなことを呟いてましたけど結局は貴方には好きな人の気持ちを覆すような魅力が無かったということですよ!分かりましたか?」
本当にハッキリと言う子だった。
分かってるよ。そんなことは。
そうやって―何か―が他の人間と劣っているから自分のやることが上手くいかないと逃げ道を作っているだけ。
そう思うと自分が楽になるから……。
「そうだよ。君の言うとおりだよ。親切に教えてくれてありがとう。それじゃあ」
少し冷たく言い放ってしまったようにも思ってしまったが、彼女への今の俺の精一杯の返答だった。
「それじゃあって……ちょっと待って下さいよ!」
家に帰ろうと足早に歩き出した俺の右腕をいつの間にか彼女は掴んでいた。
「待って下さいって……君も帰るんじゃなかったの?」
正直、美少女に腕を掴まれるのは悪い気はしなかったものの、フラれたばかりの今の俺は一刻も早く帰って一人になりたかった。
「私だって貴方なんて放っておいて早く帰りたいんですけど……。もう貴方に声を掛けちゃったんで……そう言う訳にはいかないんですよ」
そう憂うつそうに話す彼女の真意が何なのか、この時の俺にはさっぱり理解することが出来なかった。