【10】天使ちゃんの正体
「その使命と規約って一体どういう事?」
俺は突如出逢った美少女と、昨日までは物置部屋だった自分の部屋の隣にある部屋にて二人っきりで話しをしていた。
彼女は自身が持ち込んだと言う女の子らしいピンクの布団カバーの付いたベッドの上で。
俺は同じく彼女が持ち込んだと言う花柄の座布団の上で。
昨日まで色々と使わない家具など押し積めていただけの部屋が一気に女の子らしい部屋に様変わりしていて、とても落ち着けるような状態ではなかった。
そんな落ち着かないながらも彼女の顔だけをしっかりとちゃんと眺めて……。
―話しをしていた。
そして……。
遂に彼女の口から自身の正体について語られた。
「私は天使……。つまりは恋のキューピットなんですよ」
「・・・・・」
またまた、天使ちゃんのふざけた―いや、よく分からない答えに返す言葉もなく固まってしまった俺だったが一呼吸置き、しっかりと美少女天使ちゃんの話すことに耳を傾けていくことにした。
「はい?恋のキューピットって、あの恋愛の助けをする弓矢を持った天使のこと?」
俺の持っているだけの恋のキューピットに対してのイメージを言ってみた。
「はい!その通りです!だから貴方がしっかりとして恋を叶えてくれないと私が困るんですよ」
彼女は目付きを鋭くして語気を強めて言い放った。
「いや、困ると言われても……てか何で俺なの?」
そもそも彼女が恋のキューピットだとしてどうして俺が選ばれたのか……。
両親の記憶を書き換え、引っ越しや俺の通っている学校にまで転校をしたりしてまで。
「えっ、だって貴方がたまたま私の目の前でフラれていたのと、何かが必要だって私のような存在を求めているように思えたから選んだって感じですかね。でも、正直ファミレスでのやり取りをしていると……」
それって……天使ちゃんが軽い気持ちで俺を選んだってことじゃ……。
それで恋をしてくれないとって言われてもなぁ……。
―さっきフラれたばかりだし
「やり取りをしていると何なんだよ?パフェとかアラモードとか食べたよね?」
あれだけ奢らせといて不満を言うって……。
まぁ可愛いから良いんだけど!
「あーそう言うところなんですよ!いちいち細かいところを掘り起こして押し付けてくる感じ!男なら女の子の食べたいものを食べさせてあげようとか自主的に思うのが正しいんですよ」
「本当にそう言うもの?単に天使ちゃんの理想を言ってるようにしか思えないけど」
「もう。本当に揚げ足を取ってきますね!私の理想は世の中の女の子たちの理想なんですー!
それにこれから貴方の恋を叶えて差し上げようとする女の子に対してそんなこと言っていいんですかー?てか最悪さっきの私のあられもない姿を見たのをクラスの皆さんに公表しちゃいますよ」
あんなこと言われたら学校に行けなくなるじゃん!
―てかクラスって……もしかして!?
「ちょっと待ってよ!クラスってまさかおんなじクラスになる訳じゃないよね?」
「もちろん同じクラスに決まってるじゃないですか!その方がキューピットとしても動きやすいですし。てか……私もこの体でも……あんな姿見られたら―」
学校だけじゃなくクラスも一緒だなんて……
うん?この体でもってどういう事?
俺には十分素晴らしい―ってなに考えてるんだ俺!
「―えっ?何か言った?」
「―いやだから!貴方には必ず恋を成就してもらわないと困るんですよ」
彼女は俺の問い掛けを遮るように言った。
まぁ、無理もないか。
女の子の体のことだし男の俺が聞く方が野暮ってもんだよな。
「それじゃあ、その恋のキューピットとしての規約として俺の記憶をいじることは出来ないってこと?」
「はい。その通りです。キューピットをする事となる方には一切の能力を使ってはいけないことになってますから」
それなら俺はこの子に操られたりすることはないってことか。
そう考えると操られる側よりはマシなのかな?
「なるほどーそれじゃあ俺が恋を成就させたら君は俺の前から居なくなるってこと?」
「何かその言い方だと早く居なくなって欲しいようにも聞こえますが……まぁようするにそう言うことです」
少し不機嫌そうな表情に変わった彼女。
あぁ……また彼女の中での俺のイメージが下がったみたいだ。
「わかった。それなら恋のキューピットの天使ちゃん改めてよろしくね」
まぁ何にせよ、俺はこんな可愛い子のサポートを受けて、新たな恋愛に挑めるわけなんだからラッキーだってことだよな。
「あっ、てかまだ貴方の名前ちゃんと聞いてなかったんですけど、そろそろ教えてもらっても良いですか?」
あっ、そう言えばまだちゃんと名乗っていなかったっけ?
てか、そう言うのは能力とかで勝手に分からないものなんだ。
「俺の名前は汐留勇輝って言います」
あっ。何か改めて名乗ると照れ臭くなって賢まってしまった。
「えっ、どうして急に敬語なんですか?まぁそこは別にいいんですけど勇ましく輝くってねぇ」
上目遣いで何か言いたげな表情をしてくる彼女。
「何だよ!人の名前に文句でもあるのかよ」
自分の名前がコンプレックスでもあった為に、つい強く返してしまった。
「うわっー怖いです。女の子に対してそんなキツイ言葉を掛けているとダメですよ!本当に!そんなところは勇ましくならなくて良いのに……」
そう言いながら彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
「だから余計なお世話だって」
この子は恋のキューピットっと言う役割を担っているだけあって、案外図太い性格なのかも。
「仕方ない。私もフルネームを伝えときますか。私は翼天使です。週明けからの学校もこれでいきますのでよろしくお願いします!」
そう言いながら彼女はウインクをしていた。
聞けば聞くほど不思議な名前ではあるが……。
俺も名前にはコンプレックスを抱いているし、他の人は彼女の力もあってか気にならないなら天使ちゃんで良いのかも知れない。
それにしても本当に明るくて可愛い―まさに天使のような女の子。
彼女はとても魅力的で週明けから学校に通いだすと、一躍男子の的になること間違いないのだろう。
……それがどういう事なのか。
俺がこの天使に対してこの先どういう気持ちの変化を起こしていくのか。
この時の俺たちは考えもつかずに【天使のサポート】が始まるのであった。