八話 ケンカが始まりました
八話 ケンカが始まりました
エスパーダはおせちのメニューを一通り食べたのだが、飲み込めたのは伊達巻と栗きんとんだけだった。他はしょっぱかったり、すっぱかったりしていたようで、吐き出していた。
「味濃い」
「まあそうだろうとは思ったけどね。ここまで受け付けないとは思わなかったよ」
「最近ご飯は要が作ってくれてるの。黒星から料理習って」
「黒星?」
「大学時代の仲間だね。ライトハンドとレフトハンドもそうだよ」
元カレということは伏せるようだ。要は新しい発泡酒を取りに行った。
「小人も大学あんの?」
「もちろん。サークルも卒論もあるよ」
「サークルか。どんなサークル?」
「武器で野生生物を狩るサークルだよ」
「それでスナイパーライフルなんだね。何の動物狩った事ある?」
「アライグマとタイワンリスかな。後、ウサギ」
「ウサギ⁉︎ あんなにかわいいのに?」
「能ちゃんはかわいい派か」
エスパーダは例の議論のカウントをした。今のところかわいい派がリードしているはずだ。
こたつに戻って来た要は数本持って来た発泡酒の一つを開けて、、ぐびぐびと飲みだす。
「かわいい派って……他に何派があるの?」
「おいしそう派と怖い派だよ。能ちゃんのせいでおいしそう派が負けそうなんだから」
「おいしそう派って……食べるの? ウサギ」
「当たり前じゃん。小人族はウサギでできていると言っても過言ではないわ」
能は文化の違いを感じているようだ。要は自分が通って来た道なので、その様子を見守っている。
「じゃあ怖い派って……」
「ライトハンドとレフトハンドだけだよ。二人ともちっちゃいから」
「なるほどね。お義姉様はおいしそう派か」
「どうして分かったの?」
「分かるよ、そりゃ」
能は自信に満ちていた。
「お義姉様からはかわいい派に敵意みたいなものが感じられたもんね。で、怖い派があの二人だけって言ったから消去法で」
ちゃんとした理由があって言ってるんだと、要は感心した。能のことを過小評価していたと痛感した。
「すごいね」
「かわいい派は私の他には誰がいるの?」
「要と黒星と想」
「お兄ちゃんもか」
「そもそも、要とモメたのが始まりだからね」
「じゃあ、おいしそう派は?」
「私とアックスと都」
「アックスもお義姉様の仲間?」
「まあね」
「綺麗に割れてたんだ。ねえ、お母さん。お母さんは何派?」
能は才に話を振った。才はみかんを食べながらエスパーダをじっと見る。エスパーダはパジャマを整えて、かっこよく見せようと努力していた。
すると才はため息をついて言った。
「エスパーダさんは要と意見が合わないようね。結婚は考えたほうが良いんじゃないの?」
エスパーダは頭が真っ白になったらしく、動きを止めていた。
牙を剥いた才に、発泡酒の缶をテーブルに叩きつけるように置いた要は母を睨み付けた。
「いい加減にしろよ」
「私は孫が見たいの」
「それはエスパーダに言うことじゃない。能に言ってくれって言ったろ」
「能じゃ無理よ。要には期待してるの」
二人が傷付くが才はやめない。
「付き合うだけなら良い。でも結婚は許さない。事実婚もね」
言われたエスパーダは涙目になっていた。ショックで反論も出来ないようだ。
「この毒親が!」
能が吠えた。エスパーダの代わりに怒ってくれて、要は頼もしく思った。お年玉の一万円は無駄ではなかったのだ。