四話 緊張してやってしまいました
四話 緊張してやってしまいました
部屋を開けて目に入ったのはこたつ。部屋の真ん中にあり、どてらを着た要の母がみかんを食べながら座っていた。かなりそこにとどまっているようで、みかんの皮が山積みになっている。
能はどてらのポケットから小さな座布団を出して、テーブルの上に置いた。エスパーダはその上に正座しようとした諦めた。今は横座りをしている。
「お義姉様、このこたつから出ない人が私とお兄ちゃんの母、高星才よ」
見ていたテレビを消して、才はエスパーダを見た。見てるだけで何も言わない。
じっと見られてエスパーダは緊張しているようだ。要の家でのリラックス加減が微塵もない。
「はじめまして。要さんとお付き合いさせていただいてます、小人族のエスパーダ・サリナスです」
「おみやげももらったよ。カラスのクチバシっていうチョコレートだってさ」
能がカラスのクチバシのような形のチョコレートを取り出してみせた。先ほどはすぐに食べたため、要にも形が見えなかったのだ。
才は能から受け取り、すぐに噛み砕いている。その間もエスパーダから目を離さない。
エスパーダの緊張がさらに高まっているようだ。
「母さん、何か言ってやれよ」
要が助け舟を出しても、才は黙ってエスパーダを見つめていた。
さらに緊張したようで、エスパーダは突然立ち上がった。
「お義母様、要さんを私にください!」
一生懸命頭を下げる。が、誰一人エスパーダに声をかけてはこなかった。要でさえ、唐突な発言に驚き、戸惑い、リカバリーに時間を要した。
そんな中、才が笑った。
「それは要があなたの両親に言うべきことじゃないかしら」
ようやく口を開いたことで、エスパーダにかかるプレッシャーが緩まったのだろう。座布団の上に座り込んでしまった。
「面白いわ。本当に小さくて、人形みたい」
そしてまたエスパーダをじっと見る。今度はペットを見るような穏やかな表情になっていた。一応エスパーダの存在は認めたようだ。
「みかん食べる?」
才は皮をむいたみかんの一房をエスパーダに差し出した。
受け取って、困ったように要を見上げる。
「食べて大丈夫」
果物なら小人族でも食べられるだろう。要が頷いて見せると、エスパーダはみかんにかぶりついた。
「甘い」
「チョコレートは甘くなかったわ。ヘルシーなやつなのね」
「一個千円もするって」
「すごいわね。スーツにおみやげなんて小人のイメージ変わるわ」
要はその答えで合点がいった。才は小人がスミス姉妹のような格好の連中ばかりだと思ってたのだ。イメージの違う格好でエスパーダを受け入れるのに時間がかかったようである。
「コロポックル社という会社で働いています」
「じゃあ、共稼ぎなんだ。借り暮らしじゃないのね」
ガッカリされた。日本に来た外国人が本物の忍者士がいないことを知った時くらいガックリされた。
「今は要さんと同棲させていただいてます」
「要のどこが良いの?」
「優しいです。私が困ってると助けてくれます」
確かにガチャで困っているエスパーダにお金を振り込んだり、エスパーダのお腹がすいたら料理を作ったりはしている。
「あなたは要を助けてるの?」
「はい。家に押し掛けてきた動画配信者を追っ払ったことがあります」
「へえ、そう」
才は動画配信者がいまいち分かっていないようだ。
「結婚は考えているの?」
その質問にエスパーダは照れ、身体をくねらせた。
「いやあ……」
そこまで言ってエスパーダは倒れた。毛むくじゃらの物体に体当たりを受けたのだ。
「エスパーダ⁉︎」
要は叫んだ。
目の前で高星家の愛猫、コバンがエスパーダを捕まえていた。