三話 心ばかりの物を渡しました
三話 心ばかりの物を渡しました
「能ちゃん、あけましておめでとう」
要はエスパーダを両手に乗せて、能の前に出す。
「お義姉様でも良いや。お年玉って知ってる?」
能はさらに前へ手を出して、催促する。
「少ないけど」
エスパーダはスマホを取り出して操作した。
能のスマホが通知音を鳴らした。能は出した手を引っ込めてスマホを確認する。
「ちぇーっ。千円かよ」
「もらったらありがとうだろ。文句はそれから言え」
「ありがとうお義姉様。でも千円は安いよ。私、二十二だよ」
お礼から間をあけずに文句を言う。
「二十二歳は普通もらわないぞ」
「まあまあ。良いじゃん」
そう言うとまた能はスマホをポケットに入れて、要に向けて手を出した。
「家の中に入れろ」
「ん」
能は手をさらに出した。
「関所かよ」
仕方なくエスパーダをポケットに戻して、裸の一万円を渡す。
「まいどあり。さ、入って」
能は笑顔で二人を招き入れた。
要は玄関に入ると、エスパーダを下駄箱の上に置いて、靴を脱いだ。
「能ちゃん」
「なあに?」
エスパーダは箱を持っていた。それを能に向けて差し出した。
「心ばかりのおみやげを持ってきたの。カラスのクチバシというチョコレートよ」
「小人のチョコ? 食べたい」
エスパーダから奪うようにもらった箱を、エスパーダの隣で開けて中を見る。
「六個しかない」
能は不満を口した。
「一個千円だから、奮発したんだよ」
エスパーダも今日の能には反感を持っているようだ。
「千円? 高いね」
能は一個口にした。
「甘くない」
この感想は予想出来たものだったが、、その前の言動がアレなので敵対的になってしまう。
「能」
「分かってるって、味が人間用じゃないのは」
能は悪びれた様子がない。
「今日態度悪いぞ」
「せっかく作った逆バニーをタンスの肥やしにしてくれたお義姉様には意地悪したくなるのさ」
能の反論に二人は顔を見合わせ、気まずそうにしていた。
パジャマやコートは身につけたところを写真に撮って能に送ったが、逆バニーだけは要がいくら頼んでもエスパーダが着てくれなかったのだ。その事を能は気に入らないらしい。
「お年玉やったろ」
「分かったわよ。ごめんね、お義姉様。これからお母さんと会うのに」
「うん」
エスパーダの表情がこわばった。
「私もお年玉分は味方してあげるから」
「一応言っておくが、俺は一万円渡したぞ」
要はエスパーダの擁護に回る。
「はいはい」
「はいは一回だ」
「はーい。お母さん、お兄ちゃん達来たよ!」
カラスのクチバシを持って能は先に行く。
要はエスパーダを掌に置いて、能の後をついていった。