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善意という暴力

 


 あなたがまだ小さかった頃。


 小さくなった服や靴を、アフリカやアジアの国へ寄付していたことがあるんだ。


 物資が不足した国で暮らす子どもたちが使ってくれたらと思って、ダンボールいっぱいに詰めて送ってたんだ。

 その時のこと、覚えてるかな。もう覚えてないかな。


 少し高めの送料は、その中に子どもたちへのワクチン接種の費用が含まれてて、少しでも誰かの役に立てたらと思って、定期的に寄付してたんだ。


 最初の頃は、かわいいノートや色えんぴつとかも一緒に送ったこともあった。


 でもそのあと、中東の義勇兵経験者の本を読んだら、寄付で現地に送られている筆記用具の一部は、子どもたちではなく、現地の兵士たちのオペレーションに使用されてることを知って、それからは服と靴だけ送るようにした。


 殺し合いに使われるものは送りたくなかったし、人の親になってみて、純粋に子供のためになるものを送りたいって気持ちがあったんだ。


 自分にできる行動の中で、人の役に立つことを選択していると思っていた。


 寄付をするという自分の行動に、多少なりとも誇りを持っていたんだ。



 そう思っていた。




 転機は偶然目にしたネットの記事だった。



 日本をはじめとした先進国での不用品が、大量に後進国に持ち込まれ、現地の住人がゴミの処理で迷惑しているというレポートだった。


 その後に調べてわかったことだけど、寄付という名目で大量に送り込まれた衣料品は、現地の繊維業を崩壊させ、その地域の雇用も奪っている。


 使われたとしても、使われなかったとしても、寄付は現地の人にとって迷惑な贈り物でしかなかった。


 大量の古着の山が燃えている写真を目にして、愕然としたのを覚えている。


 頭を強く殴られたような衝撃を受けた。



 不用品は、結局不用品でしかない。



 相手にゴミを押し付けて、自分だけが善行をしたと自己満足に酔っていた。


 最低だ。



 なんて愚かだったんだろう。

 自分のことが、すごく嫌になった。



 それ以降、海外支援を銘打った寄付をするのはやめにした。

 もしかしたら、ちゃんと喜んでくれた人がいたのかもしれないけれど、そんな淡い期待にすがるのはやめようと思った。



 善意を誰かに向けるときは、ちゃんと受け取る相手の顔が見えるか、声が聞ける範囲でやろう。


 そう決めて、そう行動するようにした。


 そうしなければ、独りよがりで自己満足の愚か者になってしまう。


 相手が迷惑していることにも気づかず、暴力的な善行を押し付け続けてしまう人になってしまう。


 そんな人間にはなりたくない。


 そう思ったんだ。





 えーと……。


 これでオチにすると、まじめか! ってツッコまれそうだから、もうちょっと話を続けようか。



 んーとね。


 私はときどき仕事の仲間に差し入れをするのが好きなんだ。

 管理者になってからずっと続けてる習慣の1つなんだけどね。


 まあ、職員の人数が多くないからできることだし、規模の大きい店舗に異動することがあれば速攻でやめると思う。ケチでしょ。



 年末最後の節目とか、繁忙期中とかに、『マジおつかれ! またがんばろうぜ!』って気持ちをこめて、シュークリームとかエクレアとかを1人1個ずつプレゼントするんだ。期間限定の味のやつとかね。


 別にケーキ屋で売ってるのじゃなくて、スーパーの特売で100円とかで売ってるやつなんだけど。ケチでしょ。


 でもさ、休憩室の冷蔵庫の中に隠されたシュークリームの存在に気づいた人たちのリアクションがさ、すっごいキラキラしててさ、その顔見るのが好きなんだよね。



 この前さ、たまたま上司(年下)にもシュークリームあげたらさ、すっごい喜んじゃってさ。


 後日メッセージまでくれたの。


「シュークリームめちゃくちゃうまかったです!

 仕事がんばれます! ごちそうさまでした! むちゃくちゃうまかったです!」って。


 ん? そうそう上司ね。部下じゃないよ。


 かわいいでしょ。かわいすぎてちょっとキュンとしちゃったよね。参ったよね。かわいいやつなんだわ。



 この距離での善意なら、相手に届いたかどうかちゃんと伝わる。


 相手が本当に喜んでくれたかどうか、ちゃんと伝わってくる。


 独りよがりじゃないって、安心することができる。それでようやくホッとするんだ。




 みんな誰だって失敗する。

 だけど失敗から学んで成長する。


 私は、やらないで後悔するより、やって後悔するほうが好きだ。


 ネガティブデータにだって価値はある。


 研究者たちの発見したネガティブデータの蓄積で、研究は進歩していく。私たちもそういうもんだって思ってる。



 人はひとりひとりみんな違う。

 思いやりに正解もないし、もしかしたら間違いも、本当はないのかもしれない。



 私の場合は、失敗して、善意の暴力の存在を知ることができた。


 そしてもう善意の暴力を押しつけることはしないようにって、気をつけることができる。



 失敗は成功の糧だ。



 きっと、あなたはこれからたくさんの人と出会って、たくさん傷ついて、たくさん傷つけると思う。


 良いことも悪いことも、みんな経験だ。



 たくさんの人間経験を積んでいってほしいと思う。



 人間を知ることが、きっと人間にとって一番大切な学びだと思うから。

 

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