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足るを知る


 足るを知る。


 この言葉を教えてくれたのは、若いころ通っていた喫茶店の店員のおじさん(お兄さん?)だった。


 お兄さん(おじさん?)は、うつ病を発症して会社を辞め、治療して回復後、この喫茶店で働きだしたという経緯を持つ人だった。


 ――収入は会社員時代よりも下がったし、贅沢はできないけど、家族と過ごす時間も作れるようになって、心と体が楽になった。

 だからいまは幸せなんだ――って、そんな話をしてくれた。


 そのときに教えてくれたのが、足るを知るという言葉だった。



 ちょうどその喫茶店に通い出した前後にオーナーチェンジがあって、喫茶店スタッフも総入れ替えになった。


 客として新参者の私と、店員として新参者のおじさん。

 新参者同士の縁で、そのおじさんとはすぐに仲良くなった。



 ちなみにこのおじさん、コーヒーを淹れるのがあんまり上手じゃない。


 なのでストレートコーヒーを注文するのは、上手な女の子(しかもかわいくて結構若い)がカウンターにいる日と決めていた。



 おじさんの出勤してる日は、カフェモカとか、ウィンナーコーヒーとか、そんなのを注文してたな。

 仕事終わりなので糖分を欲していたのもある。


 後日オーナーに聞いたら、やっぱりおじさんが出勤する日はコーヒー(ストレート&ブレンド)の注文が少ないのだそうだ。


 ちなみにオーナーも、負けず劣らずコーヒーを淹れるのが下手だったりする。(自分で認めていた)


 たまたまオーナーがカウンターにいる日に来店してしまったので、試しにチャイを注文してみたら、ジンジャーの分量がおかしくて、めっちゃ辛いチャイが出てきたんだ。

 チャイを飲みきるまでに、水を2杯も飲む羽目になったんだよ。


 でもね、そんな喫茶店なんだけど、すごく好きな場所だったんだ。



 なんだかんだと通っているうちに、常連メンバーとも自然と仲良くなって、おじさんたちと飲みに行ったりしたこともある。



 まあ、そこでそのおじさんがちょっとやらかして、『お前、全然足るを知るじゃねえだろーが!』って思ったエピソードがあるんだけど、そのおじさんの名誉のために、そのことは誰にも口外していない。


 そんなおじさんに幻滅したこともあったけど、『足るを知る』という言葉は、自分の人生の中で、節目節目に思い出す、とても大切な言葉になった。


 まあいろいろあったけど、その言葉を教えてくれたことに関しては、そのおじさんにはとても感謝している。


 ……え? そのおじさんが何をやらかしたかって?


 ……もう少し大人になったら教えてあげるね。




 さて、足るを知るとは。



 ・いま自分の持っているものを大切に思い、感謝すること。

 ・身の丈にあったものを身につけ、贅沢をしないこと。

 ・高望み、ないものねだりをしないこと。


 そんなところだろうか。



 なんだか向上心とは真逆の考えみたい?

 身の程を知れって言われてるみたい?



 そういう意味じゃないと思うよ。



 じゃあ考えてみよう。


 向上心と高望みの違いってなんだろう?



 高望みはさ、自分の力では手に入らないものや、自分と釣り合わないものを願うことだと思うんだ。


 例えば、年収○千万円以上の医者や弁護士と結婚して一生遊んで暮らしたいとか妄想してる女性とか。

 別名、妖怪タマノコシ。


 ちなみにこの妖怪は、婚活アプリとか、高い会員制の施設とかにいまだに出没するらしいよ。やだね。怖いね。会いたくないね。


 相手を金づるとしか思っていない女性にはさ、残念だけど、同じ考えをしているような相手しか集まらないよね。


 本人は気づいてないと思うけど、そういう考えをしている女性って、見る人が見たら、だいたいすぐに分かっちゃうんだ。


 だから当然、選ばれない。

 むしろ、避けられる。


 そういう人の周りに集まるのは、ほとんど同類の人たちばかりだから……あなたはそんな女性になっちゃダメだよ。

 もちろん、ならないって信じてるけど。



 向上心っていうのはさ、好きな人に振り向いてもらいたいとか、きれいになりたいとか、自分に自信を持ちたいとか、自分が実現可能な目標に向かって、堅実に進めていくことだと思うんだ。


 そこで重要なのが『足るを知る』だと思う。



 自分の現状を認識する。


 いま自分ができていることってなんだろう。

 いまの自分が持ってるものってなんだろう。


 いまできてることを素直に一回認めてみよう。


 まずそれを褒めてみて。

 それから次のステップだ。


 いま自分は、ここまでできている。


 なら、目標に足りないのはどういう部分だろう。


 自分のできることはなんだろう。

 無理なくかけられる金額はいくらだろう。

 無理なくかけられる時間はどれくらいだろう。



 現実と照らし合わせて、実現・達成可能な選択をする。



 一歩進めば、また新しい選択肢が見えてくる。


 そしてまた、自分に無理なくこなせる課題を課してみる。


 その繰り返しをしているうちに、いつか目標は、すぐそばまで来ている。

 ちゃんと、あなたの手の届くところに近づくはずだ。



 高望みは遠くにゆらめく蜃気楼を欲しがるようなもの。

 向上心は見える目標に向かって、どう進むかを考えることだと思う。


 そう思ってるんだけど、あなたはどう思う?




 人生ってさ、冒険や旅のようなものだと思うんだよね。


 身軽な方がいいのか、重装備の方がいいのか。

 自分はどれほどの荷物が持てる人間なのか。


 それによって、冒険のプランは変わってくるはずだ。


 道具を何も持たずに旅をしたら、きっと困ることがたくさんあると思う。

 でもそれが楽しいという人もいる。


 両手がふさがるほどの荷物を持っていたら、前も見えないし、転んだときに手をつけない。

 でも、たくさん準備をしておけば安心する人もいる。




 自分の長所と短所。強みと弱み。


 それをしっかり把握すること。


 それが足るを知るということなんじゃないかなって思うんだ。



 そんなことを、喫茶店でおじさんから教わった。


 おじさん本人は……まあ、その後どういう人生を歩んでるかは分からないけどね。


 ……え? そのおじさんが何をしたかって?


 まあ、それはそのうちね。

 大人になったら教えてあげるよ。


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