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【4月10日 書籍3巻発売!】オリビア魔石宝飾店へようこそ ※Web版  作者: 優木凛々
第二部 王都に店を構えることになりました
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プロローグ:一年後の休日


本日2話目。

第二部プロローグです。


 王都に来て、一年後。


 オリビアは、紺のロングスカートを揺らしながら一人街を歩いていた。

 行き先は、店から数分の所にある噴水のある小さな広場。


 歩きながら、彼女は目を細めて街を見回した。


 街路樹はいつの間にか若葉色に染まっており、柔らかい風がその幼い緑を静かに揺らしている。



(もうすっかり春ね)



 軽い足取りで緑の増えた広場に到着すると、噴水のすぐ近くに立っていた長身の青年が、彼女に向かって嬉しそうに手を振った。



「オリビア。ここです」


「エリオット! お待たせしてごめんなさい」


「大丈夫ですよ。私も今来たところです。……久し振りですね。髪がずいぶん伸びましたね」



 オリビアを口の端を緩めて見つめるエリオット。


 ダレガスの駅で偶然出会った、この眉目秀麗な青年とは、ここ一年ですっかり仲良くなった。

 今日のように、月一、二回ほどのペースで、情報交換会を兼ねた食事会をしている。

 話題は主に仕事関係。

 オリビアにとって、数少ない安心して話せる友人の一人だ。


 エリオットが尋ねた。



「今日の店は、ここから歩いて二十分ほどかかるのですが、どうしますか。乗合馬車を使いますか?」


「休日だし、歩きたいわ。最近運動不足なの」


「分かりました。では歩きましょう」



 肌に春風を感じながら、街を歩き始める二人。

 オリビアに歩幅を合わせるようにゆっくりと歩きながら、エリオットが口を開いた。



「そういえば、この前直して頂いた時計。お陰様で元気よく動いています」


「良かったわ。頑張ったかいがあったわ」


「うちの専属の魔道具師に驚かれましたよ。あれを動かせる魔道具師がいるんですか。と」


「ふふ。父が『メンテナンスも魔道具師の仕事の一部だ』って言ってよくやらされていたから、修理は得意なの」



 楽し気に会話をしながら歩みを進める二人。


 そして、約二十分後。

 二人は最近話題のチーズケーキが有名なカフェに到着した。


 オリビアが目を輝かせた。



「素敵! ここ来たかったのよ! もしかしてチーズが食べたいっていう話、覚えていてくれたの?」



 彼女の満面の笑みを見ながら、エリオットが嬉しそうに微笑んだ。



「もちろんです。()()()()()の話ですからね。さあ、入りましょう」



 お昼ご飯の時間が過ぎ、やや空き始めている店内に足を踏み入れる二人。

 窓際の席に向かい合わせに座り、メニュー表をながめる。

 そして、



「鶏肉のローストソテーのセットと赤ワインをお願いします」


「チーズピザ、スフレチーズケーキ、ベイクドチーズケーキ、シナモンチーズケーキ、あと紅茶を下さい」



 という、店員が目を白黒させるようなオーダーを済ませ。

 運ばれてきたピザを見たオリビアが目を輝かせた後。



「いただきます」



 二人は食事を始めた。



「ん~! おいしい! チーズが最高だわ!」



 幸せそうにピザを頬張るオリビアを、目を細めてながめるエリオット。

 美しい所作で肉を切り分けながら尋ねた。



「仕事の方はいかがですか?」


「忙しいけど、上手くいっているわ。一昨日不死鳥の羽の付与にようやく成功したの」


「不死鳥の付与は難しいんですか?」


「ええ。滅多に出来る人がいないと言われているわ。……まあ、うちの店の魔道具師は全員できるけどね」



 話ながら、オリビアは苦笑した。

 努力はしているが、まだまだ先輩達には敵わない。


 そして、食事も終盤に差し掛かり。


 エリオットが上品にコーヒーカップをテーブルに置くと、思い出したように口を開いた。



「そういえば、今日はオリビアが王都に来てちょうど一年の日なんですよ」


「え? そうなの?」


「ええ。昨日、手帳を整理していて気が付きました。私がダレガスから帰って来た日でもありますからね」



 そうなのね。と、呟くオリビア。



(もう一年経つのね)



 婚約破棄された挙句、店と家を追い出され、王都にやってきた。

 がんばるしかないと、がむしゃらに働いていたら、もう一年。

 あっという間だった。



(忙しかったけど、楽しい一年でもあったわ)



 新しい技術にもたくさん触れたし、魔道具師として一段階上がったと思う。

 有意義で楽しい一年だった。


 ふと窓の外を見ると、ピンクと白の春の花が咲いている。


 そういえば、去年の今頃もこんな花が咲いていたわね。と、思い出しながら、オリビアはしみじみと呟いた。



「今年もいい年になるといいわね」


「……そうですね」



 オリビアの横顔に柔らかい眼差しを向けながら、相槌を打つエリオット。




 オリビアの王都二年目が始まった。





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