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【4月10日 書籍3巻発売!】オリビア魔石宝飾店へようこそ ※Web版  作者: 優木凛々
第一部 婚約破棄されて追い出されたので、王都に行くことにしました
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【Another Side】カーター準男爵家にて


本日1話目です。


 オリビアが王都に旅立った翌日。

 成金趣味丸出しの金ぴか応接室にて。


 オリビアの叔父であり義父であるカーター準男爵が、ヘンリーの父であるベルゴール子爵に一連の騒動を説明していた。


 見るからに上等そうなスーツを着たベルゴール子爵が、冷たく男爵を見据えた。



「ほう。では、カーター魔道具店の魔石装飾品のほとんどは、オリビアではなくカトリーヌがデザインしたものだったと」


「はい。特にここ一年半ほどのデザインは、全てカトリーヌ考案のものです。例の大賞を受賞したデザインも、もともとはカトリーヌのものだったようです」


「……カトリーヌは何と言っている?」


「オリビアが怖くて何も言えなかったと」



 ベルゴール子爵は馬鹿にしたように鼻で笑った。



「ふん。そんな気の弱い娘には見えなかったがな。しかも、義姉と婚約中のヘンリーと懇意にしていたらしいじゃないか。そんな娘がデザインを盗られて黙っているとは思えん。その話は本当なのか?」


「は、はい。間違いございません」



 しきりに汗を拭いながら、しどろもどろになる準男爵。

 その隣に座っていた夫人が穏やかな声で言った。



「本当でございますわ。こちらをご覧ください」



 彼女がローテーブルの上に置いたのは、小さめのスケッチブック。

 中にはたくさんの宝飾品デザインが描いてある。



「これは全てカトリーヌが描いたものですわ。こうやって書き溜めていたものを取られていたようなのです」



 ふむ。と、子爵がスケッチブックを手に取ってパラパラとめくった。



「これだけか?」


「いえ。こちらも全てそうです」



 夫人がローテーブルの上に同じようなスケッチブックを十冊ほど並べる。



「これらをカトリーヌが描いていたことは私が保証しますわ。実際に何度も見ております」



 なるほど。と、考えるように呟く子爵。

 そして、スケッチブックの一番後ろに書いてある「カトリーヌ・カーター」という署名を確認すると、男爵の方を向いた。



「ヘンリーも同じことを言っていた。近しい二人が揃って同じことを言うのであれば、間違いないのだろうな。

オリビアの卓越したデザインセンスを買って、ヘンリーの婚約者としたのだ。デザインがカトリーヌのものであれば、オリビアと婚約継続する理由はない。オリビアとの婚約を解消してカトリーヌを婚約者とすることを認めよう」


「あ、ありがとうございます!」


「ただし、婚約解消をしてすぐに婚約すると良からぬ噂が立つ恐れがある。二人が正式に婚約するのは一年後とし、結婚式はその一年後とする」



 分かりました。と、準男爵と夫人が満面の笑みを浮かべる。


 隣の部屋で聞き耳を立てていたカトリーヌは、思わずグッとこぶしを握り締めた。



(やったわ! これで正式に私がヘンリー様の婚約者よ!)



 そして、同じように隣で喜んでいるヘンリーに抱き着いた。



「ヘンリー様。ありがとうございます! 私、嬉しいです!」


「ああ。私も嬉しいよ。カトリーヌ」



 ヘンリーが、鼻の下を伸ばしてカトリーヌを抱きしめ返す。

 その胸の中でカトリーヌはほくそ笑んだ。



(やったわ。やっと全部私のものになったわ)



 もともとカトリーヌ一家は、街の片隅で貧乏な暮らしをしていた。

 仕事のできない父の稼ぎが少なかったからだ。

 何度も繕った跡のある服を纏い、その日もパンすら困ることがある日々。


 そんなある日。

 カトリーヌは街でオリビアを見かけた。

 美しい服を着て、楽しそうに婚約者と歩く姿を見て、彼女は腹の底から怒りがこみ上げた。

 自分がこんな目にあっているのにズルい、と。


 その一年後。

 オリビアの父母が流行り病で相次いで急死。


 父母と共に屋敷に乗り込んだカトリーヌのやることは決まっていた。



「オリビアから全てを奪う」



 部屋を奪い、服を奪い、宝飾品を奪った。

 婚約者を奪い、母と口裏を合わせてデザインを奪い、家と店から追い出した。


 そして、今日。ヘンリーの婚約者の座を正式に奪った。

 笑いが止まらないとは正にこのことだ。



 ヘンリーが帰った後。

 カトリーヌは部屋に戻って引き出しを開けた。


 入っているのは、オリビアの部屋から盗み出したデザイン帳十冊。

 指輪やネックレス、ピアスも含め、そのデザイン数は二百点以上。

 一年間に十作品発表したとしても、二十年は持つ計算だ。



(これで私も天才デザイナーとしてやっていけるわ)



 オリビアのデザインはファンが多い。

 そのデザインを物にしたカトリーヌは、これでデザイナーとしての安泰が約束されたようなもの。



(あとは銀行札が見つかれば完璧なんだけど、こちらは追々探せばいいわ)



 銀行札があれば貯金が下ろせるし、貸金庫の中身も奪える。

 それさえ終われば、オリビアにはもう何も残っていない。


 彼女は、デザイン帳をしまうと意地悪くせせら笑った。



「ありがとう。お義姉さま。さようなら」



(さあ、これからは薔薇色の人生の始まりだわ)





 ――ちなみに、この一週間後。



「あ、あったわ!」


「こんな所に隠していたのね!」



 カトリーヌと義母は、オリビアの部屋の本棚から銀行札を発見。


 二人でスキップするように窓口に行ったところ、



「そのカードは盗難届が出ております」


「おかしいですね。オリビア様ご本人から、ご家族も知らないと言い切っていると聞いていますよ?」



 と、厳しく事情聴取される羽目になるのだが、彼女はまだそのことを知らない。







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↓2025年4月10日、3巻が発売予定です。お手に取って頂けると嬉しいです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゜ஐ⋆*

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 早く特注されるがいい。
[一言] カトリーヌ、その執念と強かさを真っ当に活かしたら……ああ、強欲が邪魔したのか( -᷄ ω -᷅ )
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