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【Web特別編】オリビア、にくきゅうに魅了される2/3

 

「ねえ、にくきゅうのチャームとかどうかしら? 自分の猫のにくきゅうの型をとってオーダーできるの。そこに猫の瞳と同じ色の魔石付けるとか」



 ――そして、にくきゅうチャームを作ってみようと決めた、約1か月後。



「……よし、できた」


 作業机に向かってオリビアが、ホッとしたように顔を上げた。

 机の上には魔法板が置かれており、見るだけで眩暈がしそうなほど細かい魔法陣が精密に描かれている。


 オリビアは立ち上がると、棚からよくできた猫のぬいぐるみを取った。

 ロッティを呼んで、「お願いね」と、ぬいぐるみを渡す。

 そして、白いふわふわの泡のようなものを魔法陣の上に置くと、ロッティがぬいぐるみの手をそっとその上に置いた。



「そのまま動かさないでね」

「はい、わかりました」



 オリビアは魔法陣に向かうと、深呼吸した。

「いくわよ……」とつぶやくと、両手を掲げて魔力を込め始めた。



「《魔法陣起動》」



 オリビアの魔力を注がれた魔法陣が、金色の光で満たされていく。



「《包覆ほうふく》」



 白いふわふわの泡が、ぬいぐるみの手の下半分を包み込み、うっすら白い光を放つ。


 そして、魔法陣が光を失ってしばらくして、オリビアはぬいぐるみの手をそっととった。

 特に傷などはついておらず、白いふわふわの泡はしっかりと固まっており、中央に“にくきゅう”の跡がしっかりと残っている。



「うん、イイ感じだわ。これでバッチリね」

「はい、バッチリです」



 その後、ぬいぐるみではなく、ロッティの手を白いフワフワの泡の上に置いて同じことを行った。彼女曰く、少し触られている感じはあるものの、痛みなどは一切ないらしい。


 オリビアは満足げに魔法陣を見た。



「完璧だわ。これで型が取れる」



 作るのにびっくりするほど時間がかかったが、これ以上のものはきっと作れない。



「あとは、実際の猫ちゃんに試してもらうだけね」



 ロッティが冷静に口を開いた。



「店の裏庭でよく日なたぼっこしている猫はいかがでしょう? たまにエサをあげているので、そろそろ恩を返してもらっても良い頃かと」



 オリビアは思わず噴き出した。

 ロッティは時々とても面白いことを言う。



「でも、さすがに野良は難しいんじゃないかしら。しばらくジッとしていてもらわないといけないし」

「……そうですね、あの猫、暴れそうですものね」

「ええ、ロッティがけがをしたら大変だわ」



 その後、2人は相談して猫を飼っている人に協力を求めることにした。

 サリーにも事情を話し、実験に協力してくれる猫を探してもらうことにする。




 ――そして、探し始めて1週間ほどが経過した、ある春の夕方。



 チリンチリン



 ドアベルの音が閉店間際の店に鳴り響いた。



(予約のお客様は終わっているはずよね)



 オリビアは首をかしげた。

 ロッティが扉の横にある窓から外をのぞいて、振り返った。



「エリオット様です」

「あら、何かしら。開けてあげて」



 扉を開くと、そこにはストライプスーツに帽子と色眼鏡をかけた長身の青年――エリオットが立っていた。

 大きなバスケットを提げている。


 彼はにこやかに帽子をとった。



「こんにちは、急にすみません」

「いいえ、どうしたのかしら」

「実験に付き合ってくれる猫を探していると聞いて、連れてきました」



 そう言って、そっとバスケットを床に置くと、蓋を開ける。

 バスケットの中から、これ以上ないほど、もふもふした猫がのっそりと出てきた。

 見たことがないほど大きい猫で、茶色の毛並みがつやつやと光っている。


 オリビアは目を丸くした。

 こんなどっしり立派な猫は見たことがない。


「まあ! この猫ちゃん、どうしたの?」

「ディックス商会の看板猫です。ちょっと借りてきました」



 ロッティが猫の前にしゃがみ込むと、まじまじと見た。



「このデブねk……ではなく、貫禄のある猫、ずいぶんと、ふてぶてしいですね」

「ええ、触られてもたまに睨むくらいで全く気にしないんです」

「名前はなんていうの?」

「“おいも”です」



 エリオット曰く、芋が大好きらしい。



「みんなで寄ってたかって芋を食べさせるものだから太ってしまいましてね。今はダイエット中です」



 3人がそんな話をしているのを他所に、猫は大きな欠伸をした。

 面倒くさそうにその場に座り込む。


 その姿を見て、オリビアは感心した。

 こんなに落ち着いた猫は初めて見た。



(この子なら実験に付き合ってくれそうだわ)



 オリビアはしゃがみ込むと、猫の背中をなでた。

 もふもふした毛並みにうっとりしながら、エリオットを見上げる。



「ちょっと前足を確認させてもらっていいかしら」

「ええ、もちろんです」



 エリオットが、よいしょと猫を持ち上げた。

 オリビアは「ごめんなさいね」と言うと、前足のにくきゅうを確認し、思わず息を呑んだ。



「まあ! きれいなピンク色!」

「乾燥すると荒れるそうで、店の女性たちが薔薇油を刷り込んでいるそうです」



 オリビアは密かに思った。

 もしかしてわたしのお肌よりもお手入れちゃんとしているかもしれないわ、と。



(でも、これほど見事なにくきゅうならきっと素晴らしい型が取れるわ!)



 3人は店を閉めると、作業部屋に入った。




※本SSは、書籍3巻には含まれていないWeb版オリジナルの内容になります

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