【書籍2巻発売記念SS】オリビア、プレゼントを選ぶ(3/3)
3話目です。
2人は階段を下り、2階に到着した。
2階は完全に紳士もの専用といった風情で、
スーツを着たマネキンがあちこちに立っている。
客もほとんど男性で、女性は店員さんか、男性客に付きそう妻か恋人らしき人くらいだ。
(なんか、来たことのない雰囲気だわ)
エリオットが尋ねた。
「何を見ましょうか。贈るものは決まっているのですか?」
「実は決まっていないの。エリオットは何がいいと思う?」
開き直って尋ねると、エリオットが考え込んだ。
「そうですね……。失礼ですが、その男性とのご関係は?」
「親しい友人よ」
「……そうですか。服装や様子は、どんな感じの方なのですか?」
オリビアは考え込んだ。
そして、多分バレているだろうから、ここは正直に応えようと口を開いた。
「そうね……。いつもスーツで、背が高くてスラッとしてるわ。あと、結構かっこいいわね」
「……なるほど」
エリオットが、片手で口元を覆いながら考え込む。
そして、近くの店に置いてあったネクタイを指差した。
「ネクタイなどどうですか? スーツを着る男性であれば、何本あっても困りませんし」
「エリオットは、今ネクタイ欲しいと思う?」
「いえ、私の場合は、かなりたくさん持っているので、今は欲しいとは思いませんが、あっても困らないなとは思います」
なるほど、とオリビアはうなずいた。
一般的なプレゼントとしては良いのかもしれないが、本人がいらないのであればNGだ。
「他にお勧めはないかしら」
「そうですね……、でしたら……」
売り場をゆっくりと歩きながら、熱心に商品を見る2人。
ーーそして、30分後。
「これにするわ!」
オリビアは、質の良い白いハンカチを手に取った。
エリオットと店員さんに、
「親しい友人であれば、軽いワンポイント刺繍をしたハンカチを贈るのはマナー違反ではない」
という話を聞いたからだ。
細かい作業は得意なので、エリオットの『E』と何かを刺繍して渡そう。
(ハンカチだったら何枚あっても困らないし、刺繍すれば気持ちも込められるし、バッチリよね!)
知らないふりをしてくれてはいるが、
エリオットは、これが自分へのプレゼントか気が付いているだろう。
(でも、何の刺繍をするかは分からないから、一応サプライズと呼べないこともないわよね!)
ほくほく顔で会計を済ませるオリビアを、少し離れたところから、エリオットが静かに見守る。
その後、2人は百貨店を出ると、行く予定だったカフェに行った。
窓際の席に通され、話題のミルフィーユに舌鼓を打ちながら、いつものように会話を始めた。
良いプレゼントを買えてご機嫌なオリビアに対し、
少し沈んだ様子のエリオット。
そして、食べ終わってカフェを出て、いつも通り街を散歩し
2人は、オリビア魔石宝飾店の前に帰ってきた。
ドアの前で、オリビアが感謝の目でエリオットを見上げた。
「今日はありがとうね。買い物にも付き合ってもらって助かったわ」
「どういたしまして、私も楽しかったです」
エリオットが微笑む。
そして、少し黙った後、穏やかに笑った。
「じゃあ、私はこれで。刺繍、がんばってくださいね」
「ありがとう。がんばるわ」
オリビアが手を振りながら、少し寂しげに見える彼の背中が、夕方の街に消えるまで見送る。
――そして、時は流れ、買い物に行った翌月の中ごろ。
「はい、エリオット、これどうぞ!」
夕方、店を訪ねてきたエリオットに、
オリビアは得意満面で、エリオットに綺麗に包装した小さな包みを手渡した。
「……これは?」
「開けてみて!」
エリオットが戸惑いながらも、言われた通りに包みを開く。
そして、中を見て、思わずといった風に目を見開いた。
「もしかして、ハンカチですか?」
「そうよ! エリオット、お誕生日おめでとう!」
にこにこしながら手をパチパチとするオリビアに、
エリオットが呆気にとられた顔を向ける。
「もしかして、先月百貨店に行ったのは……」
「そうよ、エリオットの誕生日プレゼントを買うためよ」
気が付いてたんでしょ、と思いながら答えると、
エリオットが、ホッとしたように笑い出した。
「そういうことでしたか。それは全く気が付きませんでした」
「え? そうなの?」
「はい。私の誕生日は半年以上先ですから」
オリビアが目をぱちくりさせた。
「……え? でもニッカが……」
「彼が人の誕生日をちゃんと覚えているハズがないでしょう」
「……確かに」
オリビアは気まずげに目をそらした。
この状況は、なかなかに恥ずかしい。
そして、これは去年分の誕生日プレゼントにするということで話がまとまり、
エリオットは、嬉しそうにお礼を言いながらハンカチを取り出した。
「私の頭文字の『E』と、眼鏡を刺繍して下さったんですね」
「ええ、エリオットといえば、色眼鏡かなあって」
エリオットが嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます、本当に嬉しいです。――何より他の誰かにあげるのではなくて本当に良かったです」
「なに? 最後何て言ったの?」
「いえ、独り言です」
何度もお礼を言いながら、幸せそうに帰っていくエリオット。
その後、社交界では、
フレランス家の子息が、謎の刺繍が施してあるハンカチを持っていると話題になったのだが、それはまた別の話である。
これにて、おしまいです。
そして、書籍第2巻、好評発売中です!
加筆内容は下記です。
・結婚式に行くまでのアレコレ
→エリオットとのシーンに加え、ゴードン大魔道具店の様子、パン屋のおばさんから見たオリビアとエリオットの様子など
・結婚式会場での騒動
→より詳細に義妹や元婚約者、会場の様子などを書き加えております!
・エリオットの武闘派家族
→拳で語るフレランス公爵家のお父様とお兄様に登場頂きました!
ぜひお手に取っていただければと思います。(*'▽')