【書籍2巻発売記念SS】オリビア、プレゼントを選ぶ(1/3)
明日6月10日に書籍2巻発売! を記念いたしまして、SSを投稿します。
時系列的には、Web版の2章と3章の中間あたり、結婚式の招待状が来る少し前くらいです。
オリビアは、自分の店で働いており、まだエリオットを単なる商会の三男坊だと思っています。
全3話、3日連続投稿します。
ちなみに、ロッティはオリビアのお店の従業員です。
オリビア魔石宝飾店の店舗横にある作業室にて。
窓の外を見ながら、ボーっとしているオリビアに、ロッティが声を掛けた。
「どうしたんですか、オリビア様。考えごとですか」
オリビアは、ハッと我に返った。
「わたし、ボーっとしてた?」
「ええ、とても」
そう言いながら、ロッティがお茶を淹れてくれる。
「どうなさったんですか?」
「実は来月、エリオットの誕生日らしくて、どうしようかと思っていたの」
この日の前日、
オリビアは、友人のサリーと、その恋人であるニッカと3人で食事をした。
この時に誕生日の話題になり、ニッカが「来月エリオットの誕生日だ」と教えてくれたのだ。
ロッティが目をぱちくりさせた。
「意外ですね。ニッカ様は人の誕生日に興味がなさそうに見えました」
「わたしも意外だったんだけど、エリオットと同じ学校の出身で、たまたま覚えていたみたい」
エリオットの誕生日の話を聞いて、オリビアは思った。
いつもお世話になっているし、何かプレゼントをしたいな、と。
ロッティが、納得の表情を浮かべた。
「それで、何をあげるか考えていたんですね」
「そうなのよ、でも、男性の友達にプレゼントってあげたことがなくて」
ちなみに、この国では、父親や恋人に刺繍入りの身につけるものを贈るのが一般的だ。
オリビアも、父親や元婚約者のヘンリーに、刺繍入りのスカーフやワイシャツをあげたことがある。
「……でも、友人のエリオットに、そんな刺繍入りのものを贈る訳にはいかないと思うのよね」
「そうですね、そんなものをあげたら、恋人に立候補していると思われそうです」
「ええ、だから他のものを考えているんだけど、何をあげればいいか見当がつかなくて」
ロッティが「なるほど」とうなずいた。
「男友達に、ってところが難しいんですね」
「そうなのよ。それに、エリオットって実は拘りがありそうな気がして」
一見、彼は「茶色のストライプスーツに同じ色の帽子、緑色の色眼鏡」という、いつも同じ格好をしているように見える。
しかし、よく見ると、カフスはいつも違うし、眼鏡も色々な種類を持っていることが分かる。
格好はいつも同じだが、かなりお洒落だ。
お洒落な男性に物をあげるほど難しいことはない。
悩むオリビアの横で、ロッティが「ふむ」と腕を組んだ。
「魔石宝飾品はどうですか?」
「それも考えたんだけど、どうしても値段が高くなるから、気を使わせてしまうような気がして」
「ちなみに、この前のオリビア様の誕生日でしたよね。エリオット様は何をくれたんですか?」
「花束とお菓子よ」
ロッティが感心したような顔をした。
「高すぎず安すぎず、オリビア様が喜ぶものを選んでますね」
「そうなのよ。だから同じくらいの値段でプレゼントするのがいいのかなと思うんだけど、そうなると魔石宝飾品は難しいのよね」」
「もういっそ本人に聞いてしまったら如何ですか?」
ロッティの効率的な提案に、オリビアは首を横に振った。
「プレゼントはサプライズの方が嬉しいと思うのよ。うちの母も、父によくサプライズプレゼントしていたし」
そんなものですかね、と言いながら考え込むロッティ。
そして、彼女は思いついたようにポンと手を叩いた。
「では、さりげなく一緒に買いに行くのはどうですか?」
「さりげなく?」
「はい、一緒に店に行って、それとなく欲しいものを聞き出すんです」
オリビアは目をそらした。
「……いい考えだと思うわ。でも、わたし、そういうのすごく苦手なのよね」
「……まあ、確かに、オリビア様、隠しごとが苦手ですしね」
「でしょ、絶対にバレるわ」
オリビアは思案した。
理想は、本人の欲しい物を察知して、ドンピシャにあげることだ。
でも、それはとても難しいし、本人が好みではないものをあげるのも忍びない。
やはり、本人が欲しいものを聞き出して贈るのが一番良いだろう。
オリビアは、決意の表情を浮かべた。
「わたし、やってみることにするわ。今度一緒に今話題のカフェに行く約束をしているから、そのときに一緒に買い物に行ってみる」
ロッティが、ちょっとわくわくするような顔をしてうなずいた。
「挑戦されるんですね。がんばってください。結果を楽しみにしています」
*
ロッティとの会話の3日後。
店の定休日のお昼過ぎ。
出掛ける準備を済ませたオリビアが、真面目な顔で作業机に向かっていた。
机の上には、大きな王都の地図が広げてある。
彼女は、今日行く予定の店の名前と住所が書かれたメモを見ながら、地図を手でなぞった。
「えっと、まず店を出てすぐ左に曲がって、薬局の角を右に、そのあと大通りに出たらすぐに左に曲がって3ブロック進んで……」
確認しているのは、今日エリオットと行こうと思っている店への道順だ。
さりげなく店に連れて行くのに、途中で迷ってしまったら元も子もないため、昨日からがんばって道順を覚えているのだ。
(わたし、すぐ迷うから、念には念をいれないとね)
そして、この店からの道順を嫌というほど頭に叩き込んで、メモをポケットに忍ばせた、そのとき。
チリンチリン。とドアベルが鳴った。
「はあい」
ドアを開けると、そこにはいつもの茶色いストライプスーツとハンチング帽のエリオットが立っていた。緑の色眼鏡をかけている。
「すみません、少し遅くなりました」
「大丈夫よ。行きましょう」
オリビアは鞄を持つと、外に出た。扉を閉めて鍵をかける。
そして、「行きましょうか」と歩き出そうとするエリオットに、なるべくさりげなく声を掛けた。
「あの、カフェに行く前に、買い物に行かない?」
「買い物ですか」
「ええ、買いたいものがあるの」
エリオットが、もちろんいいですよ、とうなずいた。
「では、先に買い物に行きましょう。行きたい店は決まっているんですか?」
「ええ。案内するわ!」
「……大丈夫ですか?」
「もちろん! 任せて!」
オリビアは、店の左側を指差すと、得意げに歩き始めた。
エリオットが、やや不安げな表情をしながらも、彼女と一緒に歩き始める。
天気の良い春の王都を颯爽と歩きながら、オリビアはほくそえんだ。
エリオットは不安そうにしているが、予習はばっちりだ。迷うはずがない。
(今日こそ方向音痴の汚名返上ね!)
しかし、現実とは無情なもの。
「え!?」
なんと、途中の道が通行止めになっていた。
しかも、広範囲で何かをしているらしく、大きく迂回しなければならないらしい。
オリビアは茫然と立ち尽くした。
迂回なんてしたら、道が分からなくなってしまう。
固まるオリビアを見て、事態を察したであろうエリオットが、横を向いて肩を震わせる。
そして、笑いをこらえるような真面目な顔で口を開いた。
「オリビア、どこの店に行きたいか教えてもらってもいいですか」
「え、ええ」
呆然としながらもメモを渡すと、エリオットが「なるほど」と言った風に頷いた。
「では、行きましょうか、こちらです」
いとも簡単に店の方向に向かうエリオットの背中を見ながら、オリビアは遠い目をした。
あの道順を覚えた努力は何だったのかしらと思うものの、迷うよりはずっといいと思い直す。
……とまあ、何とも先行き不安なスタートとなったものの、
にぎわう街中を歩くこと、約20分。
ついに2人は目的地である大きな百貨店に到着した。
オリビアがエリオットは目的の店に辿り着いた!
そして、明日発売の書籍の方ですが、今回もかなり加筆を加えております。
なろうで既に読んだ方でも、読む価値があると胸を張って言える超加筆です!
主な加筆内容は下記です。
・結婚式までのアレコレ
→エリオットとのシーンに加え、ゴードン大魔道具店の様子、パン屋のおばさんから見たオリビアとエリオットの様子など
・結婚式会場での騒動
→より詳細に義妹や元婚約者、会場の様子などを書き加えております!
・エリオットの武闘派家族
→拳で語るフレランス公爵家のお父様とお兄様に登場頂きました!
そして、挿絵がめっちゃいいです!
↓表紙をご覧になって分かる通り、絵師様が神です!
ぜひお手に取っていただければと思います。(*'▽')




