【書籍1巻発売記念SS】オリビア、動くぬいぐるみを狙う(3/3)
記念SS最終話、エリオットがダーツに挑戦するところからです。
「211番!」
とうとうエリオットの番になった。
エリオットは、「ここだ」と言う風に軽く手を上げると、コートを脱ぎ始めた。
いつもの茶色のストライプスーツ姿になると、帽子を被り直して眼鏡を上げ、再びマフラーを口元が完全に隠れる位置でギュッと巻く。
そして、「コート持つわよ」と言うオリビアに、「ありがとうございます」とコートを預けると、受付に歩いて行った。
「がんばってね!」
後ろから声を掛けながら、オリビアは彼の後姿をまじまじと見た。
他の男性たちに比べると細身ではあるが、不思議と弱そうな感じがしない。
背が高いからだろうか。
エリオットは黒い革手袋をした手で、受付の男性から矢を受け取った。
群衆たちが「がんばれよ!」と言う中、投げる位置である丸い円の中に立つ。
そして、息を軽く吐くと、足を軽く開いて、矢を構えた。
邪魔しないようにという気遣いか、群衆たちが静かになる。
オリビアは、思わず胸に手を当てた。
自分がやる訳でもないのに、緊張で胸がドキドキする。
(がんばって! エリオット!)
全員が息を潜めて見守る中、エリオットが流れるように軽く矢を投げた。
カッ!
矢が的の真ん中にほど近いところに突き刺さる。
周囲を取り囲んでいた人々から歓声が上がった。
「おお~!!!」
「やるな! いきなり真ん中いったぞ!」
そんな賞賛の声を気にする様子もなく、エリオットが淡々と2本目を投げる。
カッ! という鋭い音がして、今度は矢がど真ん中に突き刺さった。
「おおおおお!!!」
「すげえ! ど真ん中じゃねえか!?」
「すごいぞ、あいつ!」
続く3本目も、真ん中付近に突き刺さり、群衆が興奮のあまり大きな歓声を上げる。
オリビアは、目を見開きながらコートを抱き締めた。
まさかこんなに凄い腕前だとは思わなかった。
(すごい! すごいわ、エリオット!)
大歓声の中、淡々と矢を真ん中に当て続けるエリオット。
終わってみれば、的の中心部に9本、うち5本はど真ん中という、超好成績だった。
カランカラン
受付のおじさんが金を鳴らして大声で叫んだ。
「出たぞ! 1等だ!」
うおおお、と大きな歓声が上がる。
オリビアは「すごいすごい!」と、思わずその場をぴょんぴょんと飛び跳ねた。
まさかの結果に興奮が止まらない。
群衆たちが「すげえぜ!」「やったな!」など大きな声を上げながら、エリオットに駆け寄ろうとする。
エリオットは、そんな彼らを交わして素早く受付に歩み寄ると、1等の札を受け取りながら、おじさんに耳打ちして、何かを握らせた。
おじさんは「OKだ」という風に頷くと、群衆に向かって鐘を鳴らしながら大声を出した。
「1等の兄ちゃんからのおごりで、先着10名は無料だ! 早い者勝ちだぜ!」
エリオットに群がろうとしていた男性たちが、おじさんのいるカウンターの前にわっと集まる。
その隙に、エリオットが急ぎ足でオリビアの元にやってきた。
「行きましょう」
「え、ええ」
エリオットはコートを受け取り、戸惑うオリビアの手を「失礼」と取ると、早歩きでその場を離れ始めた。
(ああいう人たちに囲まれるの、苦手なのかしら)
エリオットの大きくて意外とゴツゴツした手に引っ張られながら、「すごかったわ!」と賛辞を送るオリビア。
そして、中央の景品の置かれたテントに行くと、受付のおばちゃんがエリオットの持っている札を見て驚いた顔をした。
「あれま! 1等は3年振りだよ!」
「え、3年振り?」
「ああ、そうさ。ココだけの話、1等から3等は出る方が不思議なくらいさ」
おばさんが小声で教えてくれる。
オリビアは苦笑いした。
(道理で、お祭り終盤でも景品が残っているはずだわ)
そして、おばさんが1等の商品を持ってこようとした、そのとき。
エリオットが穏やかに口を開いた。
「それで相談なのですが、これを、2等と交換できませんか?」
「は?」
「え?」
目を見開くオリビア。
おばさんが、信じられないと言った風に口を開いた。
「……あんた、1等は、旅行券だよ?」
「はい、知っています」
「知ってるって、あんた。行き先は、あのフレランス領だよ? お酒も美味しいし、食事も最高だって話だ」
バカなことはおよし、と、エリオットを嗜めるおばさん。
そして、ふと同じく驚いているオリビアを見て、「ははーん」という顔をした。
「あんた、もしかして、彼女へのプレゼントかい」
「ええ、そうなのです」
「彼女とだったら旅行じゃないのかい」
「いえ、まだその段階じゃないので」
涼しい顔で言うエリオットに、おばさんが、思わずといった風に吹きだした。
「そうかい、そうかい。まあ、それじゃあ仕方ないかね」
オリビアは慌てた。
「ちょっと、エリオット! あなた、いいの?」
「ええ、オリビアさえかまわなければ、プレゼントさせて頂きたいなと」
「私は嬉しいけど……、でも、1等よ?」
「フレランス領には仕事でよく行くので、問題ありません」
そんな会話を聞きながら、おばさんが楽しそうに、ぬいぐるみを棚から下すと、大きな袋に入れて、オリビアに押し付けた。
「2等の動くぬいぐるみだ。大切にするんだよ」
「で、でも……」
「でもじゃないよ、もらっときな! こういう時は男の顔を立てるもんだよ」
戸惑いながらエリオットを見上げると、微笑みながらうなずかれる。
オリビアは「ありがとうございます」と受け取ると、エリオットにぺこりと頭を下げた。
「ありがとう。とても嬉しいわ。でも、本当にいいのかしら」
「ええ、もちろんです。そのために危険を冒したのですから」
危険ってなに? と思いながら、改めてお礼を言うオリビア。
ギュッとぬいぐるみの袋を抱き締めた。とても嬉しい。
嬉しそうなオリビアを見て、エリオットが微笑んだ。
「では、予定通り、カフェに行きましょう」
――そして、空に夕方の気配が漂いはじめるころ。
2人は、辻馬車でゴードン大魔道具店に到着した。
エリオットが、身軽に先に降りると、オリビアの降りる手助けをする。
そして、彼女が地面に降り立つと、微笑みながら改めて手を差し出した。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました。今年もよろしくお願いします」
「わたしこそ、ありがとう。今年もよろしくお願いします」
その大きくて温かい手をそっと握り返すオリビア。
そして、馬車の中から出して渡された、ぬいぐるみの袋を大切そうに抱えた。
「ぬいぐるみ、本当にありがとう。大切にするわ」
その後、オリビアは手を振りながら店内へ。
エリオットは再び馬車に乗ると、夕方の街へと消えていった。
――ちなみに、この1年半後。
オリビアは、
「なぜエリオットはダーツが上手いのか」
「危険を冒した、とはどういう意味か」
「フレランス領によく行くのは何故か」
について理解し、「あわわわ」と仰天することになるのだが、それはまた別の話である。
SSはこれで終わりです。
お付き合いいただきありがとうございました。m(_ _)m
そして、書籍1巻、好評発売中です!
オリビアの成り上がり部分や魔石宝飾品作り&店舗作り、そしてエリオットとの交流など、約2倍に加筆しており、新規の見所が盛りだくさんです。
しかも、イラストが神!
(↓書影は下にあります)
ぜひお手に取って頂けると嬉しいです。(*^-^*)




