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オリビア魔石宝飾店へようこそ ※Web版  作者: 優木凛々
おまけ

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【書籍1巻発売記念SS】オリビア、動くぬいぐるみを狙う(2/3)


SS2話目です。

オリビアが、2等の景品「動くぬいぐるみ」をGETしようとするところからです。

 

 オリビアが、まず向かったのは、『輪投げ』。


 『輪投げ』は、遠くに立ててある1~9の番号が付いた棒に、順番に丸い輪を投げて入れるゲームだ。

 お祭りの定番で、何度もやったことがあるから、いけるのではないかと思ったのだ


 輪投げの屋台には、10歳くらいの男の子が数名おり、うち1人が真剣な顔で、輪を投げている。



「いらっしゃい、挑戦かい?」



 受付にいた男性が、2人に愛想よく声をかけてくる。



「はい、大人1人です」



 オリビアはお金を払うと、男の子が投げ終わった後に、勇ましい顔で投げ位置に立った。


 若い女性が挑戦するのが珍しいのか、男の子たちが「姉ちゃん、がんばれよ!」と応援してくれる。



「いきます!」



 オリビアは息を吐くと、ゆっくりと輪を投げ始めた。


 スパン


 輪が、一番近い「1番」の棒に入り、続けて投げた輪も「2番」と「3番」の棒にも難なく入る。


 オリビアの腕前が思いの外良かったせいか、男の子たちが


「姉ちゃん、やるな!」

「がんばれ! そこだ!」


 などと楽しげに声援を送る。


 オリビアはニヤリと笑った。



(ふっふっふ、あのぬいぐるみは私のものよ!)




 ――しかし、物事とはそう上手くはいかないもの。



「だ、駄目だった……」



 輪投げを開始してから、しばらくして。

 オリビアはがっくりと膝をついていた。


 最初はとても調子が良かったのだが、段々狙いが悪くなり、最後は思い切り外してしまった。


 落ち込むオリビアを、男の子たちとが気の毒そうに慰めた。



「姉ちゃん、元気出せよ」

「そうだよ、上手かったぜ! 7等だってよ!」



 受付の男性が首をかしげた。



「7等で落ち込むってことは、何か狙っていたのかい?」

「はい……2等のぬいぐるみを」



「ああ、あれか」と、受付の男性がうなずいた。



「人気あるみたいだな。狙ってる奴が結構いる」



 オリビアは、ガバッと顔を上げた。

 これは落ち込んでいる場合ではない。

 気を取り直すと、横に立っていたエリオットを見上げた。



「わたし、もう1ついけそうなものがあるんだけど、やってもいい?」

「もちろん、かまいませんよ」



 その後、オリビアはボール掬いの屋台に行った。

 子どもたちに混ざって、真剣な顔でボール掬いに興じるものの……。



「姉ちゃん凄いな! 5等だ! おめでとう!」

「……ありがとうございます」



 2等には、遠く及ばず。

 その後、エリオットも一緒にくじ引きに挑戦し、大いに盛り上がって楽しむものの、結果は2人揃って14等。




 ――そして、遊戯を始めてから約40分後。


 もう1度ボール掬いに挑戦して、またまた5等に終わったオリビアが、難しい顔でベンチに座っていた。



(うーん……。うまくいかないものね)



 得意なボール掬いですら、超真剣にやって5等。

 他に得意そうなものはないかと見て回ったが、ボール掬い以上に得意そうな遊戯が見当たらない。



(……まあ、そんなに簡単に2等なんて取れないわよね)



 通常であれば、諦めるところではあるが、オリビアは、ぬいぐるみが、どうしても欲しかった。



(店のみんなで、ああでもないこうでもないって、一緒に分析したら、絶対に面白いに違いないわ! 手を叩く回数で動きが違う技術とか、魔石宝飾品でも使えそうだし)



 彼女は、何とかならないものかと、頭を悩ませた。



(もう1回ボール掬いをする? それとも、新しい遊戯に挑戦して、新たな可能性を試す?)



 そして、腕を組みながらウンウンと唸っていると、



「お待たせしました」



 屋台に行っていたエリオットが、湯気の立つ飲み物を差し出してくれた。



「どうぞ」

「ありがとう」



 オリビアは、お礼を言いながらカップに口をつけた。

 温かくて甘いココアが身に染みる。



「美味しい、わたし、丁度こういう甘い物が飲みたかったの」

「それは良かったです」



 難しい顔から一転、笑顔になったオリビアを、エリオットがホッとした顔でながめる。

 そして、手元に視線を落として考え込んだあと、ゆっくりと口を開いた。



「……1つ、やってみたいものがあるのですが、少し付き合って頂けますか?」

「エリオットも何かゲームをするということ?」

「ええ。出来そうなものを見つけたので」

「まあ! それは楽しみだわ!」



 オリビアが歓迎の声を上げた。

 実のところ自分ばかり楽しんでいる気がして、少し気が引けていたのだ。

 彼も一緒に楽しんでくれるなら、これ以上嬉しいことはない。



「それで、何をするの?」

「ダーツです」

「ダーツ」



 オリビアは目をぱちくりさせた。



(意外だわ)



 ダーツは、騎士や衛兵など、武器を扱うような武闘派の男性が嗜むイメージがあるゲームだ。

 穏やかで、どちらかといえば知性派っぽいエリオットのイメージではない。



(……それに、お祭りのダーツは、難しく設定されているって聞いたことがあるわ)



 若い男性が競うようにゲームに興じ、根こそぎ商品を持って行ってしまうことがあるため、お祭りのダーツは特に難しいらしい。



(でも、やってみたいものをやるのが1番よね)



 そして、ココアを飲み終わった2人が、遊技場の奥に行くと、そこには他とは違う雰囲気の屋台があった。


 屋台はかなり広めで、その奥の壁には、数字の描かれた的が掛けられている。

 その的に向かって、肩幅の広い筋肉隆々といった風情の若い男性が、真剣に矢を投げている。


 周囲には同じような体格の良い男性が多く、騎士や衛兵、運送などの肉体労働をしていそうな男性が集まっている、といった印象だ。

 子どもが多い他の屋台とは、まるで別世界だ。



(……可愛くないし、ちょっと怖いわ)



 普段接しない荒々しい雰囲気に、やや怯むオリビア。


 その横で、エリオットは、緩く巻いていたマフラーを、口元を隠すようにきっちりと巻き直した。

 帽子を目深にかぶり、色眼鏡をくいっと上げる。


 そして、「ここで待っていて下さい」とオリビアに告げると、屋台の受付に歩いて行った。

 申し込みを済ませると、待っているオリビアの横に並んで立つ。



「6人目の、211番だそうです」

「結構やる人が多いのね」

「ええ、騎士や衛兵の間では、休憩時間にダーツで気分転換するのが流行っているそうなので、腕試し的な要素があるのではないでしょうか」

「そうなの?」

「ええ、通常のダーツよりも距離が遠いので、難易度が高いようです」



 そんな会話をする2人の目の前で、体格の良い若い男性がダーツを投げ始めた。


 どうやらかなり難しいらしく、

「ちっ、遠すぎるぜ!」

 などと悪態をついている。

 矢はなかなか的の真ん中に当たらず、結果、的の中心部に当たったのは10本中2本。


 その後も、3人の若い男性がゲームに興じるが、皆似たような成績だ。



(ふうん、ダーツって難しい遊びなのね)



 オリビアは、興味深くダーツをながめた。

 初めてちゃんと見るが、輪投げなんて比じゃないくらい難易度が高そうだ。


 そして、5人目。

 小柄で体格の良い中年男性が出てきた。

 ベテランの落ち着きを見せ、的の中心部に5本当てる。



「5等だ!」



 受付のおじさんが、カランカランと鐘を鳴らして、叫ぶ。

 観客たちがどよめいた。



「すげえ!」

「やるな、おっさん!」



 点数が良いと尊敬に値するらしく、投げ終わった中年男性を一斉に囲む観客たち。

「やるな!」「すごいぞ!」などと、オリビアがされたら吹っ飛ばされそうな勢いで、中年男性の肩や背中を叩いている。


 そして、一頻り騒いだ後。



「211番!」



 とうとうエリオットの番になった。


 エリオットは、「ここだ」と言う風に軽く手を上げると、コートを脱ぎ始めた。

 いつもの茶色のストライプスーツ姿になると、帽子を被り直して眼鏡を上げ、再びマフラーを口元が完全に隠れる位置でギュッと巻く。


 そして、「コート持つわよ」と言うオリビアに、「ありがとうございます」とコートを預けると、受付に歩いて行った。



「がんばってね!」



 後ろから声を掛けながら、オリビアは彼の後姿をまじまじと見た。

 他の男性たちに比べると細身ではあるが、不思議と弱そうな感じがしない。

 背が高いからだろうか。 


 エリオットは黒い革手袋をした手で、受付の男性から矢を受け取った。

 群衆たちが「がんばれよ!」と言う中、投げる位置である丸い円の中に立つ。

 そして、息を軽く吐くと、足を軽く開いて、矢を構えた。


 邪魔しないようにという気遣いか、群衆たちが静かになる。


 音が消えたような感覚に、オリビアは思わず胸に手を当てた。

 自分がやる訳でもないのに、緊張で胸がドキドキする。



(がんばって! エリオット!)



 全員が息を潜めて見守る中、エリオットが流れるように軽く矢を投げた。





書籍第1巻、本日発売です!


文字数約2倍(!)の加筆を加えており、Web版ですでに読んだ方でも、読む価値があると胸を張って言える超加筆です。主な加筆内容は下記になります。


・オリビアの成り上がり部分

・店舗を作る部分

・エリオットと交流を深めるところ

 →ここは本当に増えました。

  編集さんには、夜の散歩が好評でした!


そして、挿絵がめっちゃいいです!

↓表紙をご覧になって分かる通り、絵師様が神です!



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↓2025年4月10日、3巻が発売予定です。お手に取って頂けると嬉しいです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゜ஐ⋆*

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