【書籍1巻発売記念SS】オリビア、動くぬいぐるみを狙う(1/3)
本日12月8日に書籍1巻発売!を記念いたしまして、SSを投稿します。
時系列的には、Web版の第1章と第2章の間くらい。
オリビアは、ゴードン魔道具店で働いていており、まだエリオットを単なる商会の三男坊だと思っています。
日本で言うところの「お正月」にあたるイベントでの出来事で、全3話です。
オリビアが王都に来て9カ月。
年明けの青空がまぶしい、冷たく澄んだ冬の午後。
「今日は少し暖かいかしら」
「そうですね。日差しがありますから、いくらかは」
ワインレッドの厚手のコートを着込んだオリビアが、
ハンチング帽に色眼鏡、コートとマフラーという出で立ちのエリオットと、王都の下町を並んで歩いていた。
街は、新年のせいもあり、活気に満ちあふれている。
道を歩く人々もどこか楽しげだ。
威勢のいい呼び込みの声を聞きながら、オリビアは感謝の目でエリオットを見上げた。
「ありがとうね。誘ってくれて。1人だから行くのをやめようかと思っていたの」
「それはよかったです。私も楽しみです」
彼らが向かっているのは、下町にある大きな教会。
この国の風習である、新年の願掛けをするためだ。
通常は家族と行くもののため、父母が亡くなってから、ずっと行っていなかったのだが、
今年はエリオットが誘ってくれたので、久々に行けることになった。という次第だ。
石畳の上を歩きながら、オリビアが尋ねた。
「エリオットは、ご家族と行かなくて良かったの?」
「ええ。家族はみんな忙しくて。……実を言うと、こうやって新年に教会に行くのも初めてなのです」
「え! 初めて!」
オリビアが驚いて目を見開いた。
「エリオットって今何歳なの?」
「25歳です」
「25! わたしと5つしか変わらないの? もっと上かと思っていた!」
本気で驚くオリビアを見て、エリオットが口の端を上げた。
「……今のは、大人な男に見える。という風に受け取っておきましょう」
2人が、冗談を言い合いながら楽しく歩いていると、目の前に、特徴的な赤茶色のとんがり屋根が現れた。
教会前の広場には、たくさん屋台が並び、多くの人でにぎわっている。
2人は、にぎわう広場を通り抜けると、背の高い入り口から教会内に入った。
中で人の列に並び、新年のお祈りを済ませる。
出口に向かって歩きながら、オリビアが尋ねた。
「エリオットは、何をお願いしたの?」
「仕事でずっと解決しない問題がありまして、それが解決してくれるように祈りました。オリビアは?」
「今年も素敵な魔石宝飾品が作れますように、ってお願いしたわ」
小声でそんな話をしながら、2人が建物の外に出ると、そこは屋台街だった。
たくさんの人が、楽しそうに屋台を物色したり、飲み食いしたりしている。
オリビアが広場の奥の方に見える、赤い派手な旗が立っているテントを指で示した。
「あっちの方に行ってみない?」
「いいですよ。何かあるんですか?」
「多分、遊技場だと思うわ」
赤い旗の方向に歩いて行くと、そこはカラフルな看板がかかった屋台が並ぶ楽しげな空間だった。
輪投げ、ボール転がし、フェイスクッキー、くじ引きなどの屋台が並び、子どもたちが嬉しそうに声を上げながら遊んでいる。
エリオットが興味深そうに口を開いた。
「ここが遊技場ですか」
「そうよ。もしかして、これも初めて?」
「遠目から眺めたことはありますが、こうやって来たのは初めてです」
そうなのね、と、オリビアが屋台たちを指差した。
「ここでゲームをして、高得点を取ると、景品がもらえるの。多分、景品は中央のテントに置いてあると思うから、行ってみましょう」
2人は、楽しそうに遊ぶ人々の間を通り抜けて、赤い旗の立つ中央テントに向かった。
中央テントは、かなりの大きさで、奥には大きな棚が置かれていた。
棚には、人形やおもちゃ、お菓子、可愛らしい絵皿、小さな女神像など、大小様々な品物が並んでいるのが見える。
「色々ありますね」
「ええ、がんばれば何かはもらえるから、子どもに大人気なの」
そう言いながら、テントの前に置かれている看板を見て、オリビアは大きく目を見開いた。
―――――
<景品目録>
1等 フレランス領への2泊3日鉄道馬車の旅
2等 動くぬいぐるみ
3等 「ロイーズ・ベイカリー」のパン、半年分
4等 ふかふかタオルセット
5等 化粧石鹸1個
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14等 クッキー1枚
15等 キャンディ1個
番外 ミニキャンディ1個
―――――
「……っ!」
「どうしました?」
オリビアの只ならぬ気配に気が付き、エリオットが尋ねる。
そんな彼のコートの袖を掴んで引っ張ると、彼女はテント奥にある棚の上部を指差した。
「あれ見て! 2等の棚にあるピンクのふわふわ!」
「ええっと、あれは……、クマのぬいぐるみですか?」
「そう! あれ、他国で流行っている動くぬいぐるみよ!」
それは、つぶらな瞳をした淡いピンク色のクマのぬいぐるみだった。
大きさは大人が抱えるほどで、横に大きな字で、
『海外で大流行! 動くぬいぐるみ』
と書かれている。
エリオットが目を細めて、ぬいぐるみをながめた。
「なるほど。あれが」
「知っているの?」
「噂だけは。確か、他国の天才魔道具師が作ったとか」
「そうなの! 聞いた話では、手を叩くと踊ったり歌ったりするらしいの!」
この子ども向けおもちゃが輸入され始めたのは、つい最近だ。
ゴードン大魔道具店でも「面白そうだ」と話題になり、手に入れようとしたのだが、予約がいっぱいで半年待ちと言われてしまった。
「まさかお祭りの景品にあるなんて、思ってもみなかったわ!」
彼女は思った。アレ、欲しい! と。
幸い、器用な方なので、こういったゲームは得意だ。
1位は難しいが、2位なら、いけるかもしれない。
オリビアは後ろに立っているエリオットを振り返った。
「ねえ、エリオット。これからカフェに行く予定なんだけど、少し遅くなってもいいかしら?」
「わたし、アレ、がんばりたい」と、気合十分な顔で、ピンクのクマを指差すオリビア。
エリオットは、おかしそうな顔をしながら、うなずいた。
「ええ、もちろんです」
オリビアは動くぬいぐるみをGETすることにした!
*
書籍の方ですが、文字数約2倍(!)の加筆を加えております。
Web版ですでに読んだ方でも、読む価値があると胸を張って言える超加筆です。
内容は、Web版公開のときに皆様から頂いたご意見を参考に、主に下記を加筆しています。
・オリビアの成り上がり部分
・店舗を作る部分
・エリオットと交流を深めるところ
→ここは本当に増えました。
編集さんには、夜の散歩が好評でした!
そして、挿絵がめっちゃいいです!
↓表紙をご覧になって分かる通り、絵師様が神です!
ぜひお手に取っていただければと思います。(*'▽')




